逃げるのは追っ手からか、過去からか
反転した時、サイドミラー越しに見えたのは開く門と大量の騎馬だった。
結局は逃げてばかり、逃げるが勝ちとは言うものの
逃げ続けるのはどうにも疲れる。
そう、あの頃のように・・・
『お前のせいだ』
・・・悲劇のヒロインを気取る気は無い。
だが、事実は変わらない。
過去に戻ることも、過去を変えることもできない。
私はブラックパレードに憧れた。
【そういう歌があるが都合上曲名もグループ名も伏せておく】
疲れ果て、戦いに負けて、心折れた弱者、敗者には
救いの手が差し伸べられるそうだ。
私は充分に戦った、充分に逃げた、充分に苦しんだ、充分に悲しんだ。
心を病み、病院から強く、依存性のある薬を処方され
二十歳にして年金生活になる程度には、私は戦ったのだ。
ゼロ「・・・あぁ、死にたいなぁ」
ブローヴァ「ゼロ!? ゼロ!! 聞こえてるんですか!?」
ゼロ「・・・・・フゥ」
息を吐く、電子タバコがほしい。
薬の都合で酒もタバコもアウトな私の数少ない現実逃避は
ゲーム、動画、ネット小説くらいの物だった。
そう書くと充分に見えるが、実際は違う、直ぐに苦痛で現実に引き戻され
堪え難い破壊、殺人、自殺、そうした衝動に駈られるのだ。
矢継ぎ早にゲームを変え、読む小説を変え、見る動画を変える。
シリアスの無い物を選ばなければならない、胃痛か吐き気でダウンする。
内容を思い出せないようにしなければならない
見返す時に内容を覚えていると現実に引き戻されるから。
母の監視を緩めてはならない、家出、自殺を阻止するのが私の仕事だから。
ブローヴァ「ゼロ!? 貴方本当に大丈夫なの!?」
ゼロ「・・・あぁ」
死んでも母を守れ、それが命令だ。
子は幾つになろうと親の奴隷だ。
金を無心され借金まみれになっても無心を止めない。
自己破産しても尚、負債は残る。
ストレスは食欲や購買意欲等で現れる。
ゲームの課金は、そういう点では嵩張らないという利点がある。
まぁ、ガチャが当たらなければ結局はマイナスだが
課金しないよりはマシだし、ゴミを増やすよりマシだ。
ゼロ「人権、人が当たり前に生きるための権利・・・
死ぬ権利は、どこにも無いのに、人権か・・・」
ブローヴァ「何を言ってるの!? もう追っては来ないの、速度を緩めて!」
メイド2「姫様、私が」
後頭部を殴られて気が付くと、見知らぬ荒野に居た。
どうやら考え込んでいたようだ。
ゼロ「あー、すまん、少し昔を思い出していた」
ブローヴァ「半日も走り続けるような昔って何よ・・・」
メイド2「・・・消したい過去、ですか?」
ブローヴァ「へ?」
ゼロ「まぁ、好き好んで覚えていたいとも思い出したいとも思わない
ロクでも無い過去であることは、認めよう」
メイド1「貴方のような子供の過去なんてどうでも良いのでさっさと戻ってください!」
メイド2「彼は23歳、私達より年上」
【プロット構築当時の年齢】
二人「えっ」
・・・あぁ、そういやなろう味の世界か。
ゼロ「よく分かったな、骨格でも見たか?」
メイド2「それは性別、私が使ったのはスキルです、異邦人様」
ブローヴァ「は!?」
メイド1「こんなのが異邦人!?」
驚愕する二人を他所に、私はメイドその2を見つめる。
くの一にでもなりそうな見た目の少女は此方を見つめ返すだけで
その瞳には黒く、目線の伺えぬゴーグルが映っている
にも関わらず、彼女は私の目を見つめ返しているように思えた。
しかし、異邦人、か・・・
ゼロ「その様子だと、外の世界からの遭難者は珍しくないのか?」
メイド2「未知の技術、特別なスキルといった物を持つ
異質ながらも繁栄をもたらす存在として保護対象となっている」
ゼロ「飼い殺しの間違いじゃないか?」
メイド2「実際はそう」
ゼロ「それで、嬢ちゃんは何を望む?
依頼は達成不可能のようだが、ここで別れるか?」
メイド2「貴方には、姫様を守って欲しい」
ゼロ「クーデターでも起こすつもりか?」
メイド2「そう、できる?」
ゼロ「損害を度外視して良いなら直ぐに
だが民間人の保護が必須なら一週間は最低でも欲しい」
ブローヴァ「民の保護は最優先よ、一週間どころか一月でも構わない」
いきなり割り込んでくるなこの姫さん、前線指揮官系の性格か?
まぁいい、オーダーは下ったのだ、従うだけだ。
ゼロ「了解した、では丁度良くだだっ広い荒野なのだ
ここに我々の拠点を造るが、よろしいか?」
ブローヴァ「あ、貴方そんなことできるの?」
ゼロ「可能だ、街と軍事基地、どちらが良い?」
ブローヴァ「軍事施設に決まってるでしょ!?」
ゼロ「まぁ、住む住人が居ないから当然か」
では、造るとしようか、竜や魔王、神にすら牙を剥くための要塞都市を。
時間と尺の都合で都市を書けなかった、無念。
あ、主人公の回想は作者のリアルノンフィクションです。
えぇ、乳飲み子で首が据わってないのに母親から引き剥がされて
村の集会に連れ回されたり、母の嫁入り道具を勝手に売られたり。
女腹だったからどうしようかと思ったけど
無事に次の墓守が産まれて安心したと言われたり。
ぶっちゃけ人間扱いされてない幼少期でしたよ、えぇ。
その話聞いた時は墓を壊してやろうかと思いましたよ、えぇ。