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異世界の果てで開拓ごはん!~座敷わらしと目指す快適スローライフ~  作者: 滝口流
第二章 精霊復古の召喚士と太古の竜神
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39.ダンジョンお化け屋敷

「さあ、姫! この先はモンスター蔓延る天然の要塞! 一歩間違えれば死が訪れる恐怖の迷宮へようこそ!」


 僕の言葉に(アルマ)はブルリと震えた。

 その顔には期待と恐怖の入り混じった笑顔。


 後ろでは護衛のヘネルさんが半笑いで見ていた。

 もう一人の護衛である女性の方は、少々不安げな目で彼女と僕を交互に見つめている。

 昨日の段階で危険が無いことを説明しているが、本物のダンジョンへと来ているのだから不安になるのも仕方ないことだろう。



「さあまずは姫、これをどうぞ」


 僕はドワーフのムジャンに作ってもらった、装飾過多な鉄の剣を渡す。

 儀礼剣というやつで、まともに使うには無駄が多く、細いために強度も低い。

 しかし彼女は大層それを気に入ったようで、臣下に自慢するようにそれを掲げた。


「美しい! これはわらわにうってつけー!」


「こちら村の鍛冶屋で購入できますので、お土産にどうぞー」


 僕の言葉にヘネルさんは笑った。


「商売上手っすなー。いいよ、おじさんそういうの好き。後でお土産に一本買おっかな~」


 どうやら彼も気に入ってくれたらしい。

 なかなか良い感触だ。


 僕は地表に顔を覗かせたその遺跡の入り口を指す。


「さあ行きましょう。ここはロージナ近郊遺跡カリオカンド。その命、間違っても(こぼ)れ落とさないようお気をつけ下さい……」


 ちなみに名前がついたのは一昨日のことだ。

 それまでは「一番近くの遺跡」と言われていたがあまりにも格好が付かなかった為、この遺跡を最初に見つけた冒険者の名をとってそう名付けられたのであった。


 アルマはゴクリと唾を呑み込み僕の後ろに続く。

 そうして僕たちのダンジョン攻略は始まった。




   ☆




「さあ、いつ物陰からモンスターが飛び出してくるかわかりません。くれぐれも気を抜かないようお願いします、勇者様……」


「勇者っ……!? ……おうおう! わらわに任せよ!」


 アルマは満面の笑みを浮かべて答えた。



 遺跡は数百年前に埋土したと思われる宗教施設で、冒険者が踏破したときには既に荒らされていたようだった。


 巣食っていたモンスターたちを冒険者たちが蹴散らして中を探ったが、結局大して目ぼしい物は見つけられなかったらしい。

 その地下の内部は村よりも大きな空間が広がっており、すべてを探索するにはかなりの時間がかかる。

 まさに骨折り損のくたびれ儲けだったと彼らは嘆いていた。


 薄暗い石壁に囲われた空間を、手に持ったランプが照らす。

 足元には転ばないよう、薄く光るヒカリゴケを植えていた。



「足元にお気をつけください。……毒蛇が狙っているかもしれませんので」


「ひっ」


 アルマは周囲を警戒するように辺りを見回した。


 一応危険な生物が巣食ってないかどうかは事前に確認をしている。

 だが小動物程度ならいくら紛れこんでいてもおかしくはない。


 念のため医療班(アズ)も姿を消して近くに待機してもらってはいた。



「それではこちらへどうぞ……」


 最初の扉を開く。

 それは増設された木の扉だ。


 僕が扉を開くと、そこには開けた空間があった。

 明るい魔力照明がその空間を照らしている。



「ああ! あれは!」


 そしてその地面には半透明の球状の液体がぐにぐにと踊っていた。


「なんてことでしょう! スライムです!」


「おお! あれが!」


 アルマは驚きの声をあげた。

 後ろではヘネルさんがこらえるように笑っている。



「さあ、勇者様! その(つるぎ)であのスライムをお倒しください!」


「え、ええ!? わらわがー!?」


 彼女は僕の言葉に驚愕する。


「ええ、どうぞどうぞ! 勇者様の実力なら必ずや打ち倒せることでしょう!」


 そう言って僕は彼女の背中を押した。



「な、なにをする! やめろ!」


「さあ、剣を構えて! 死んでしまいますよ!」


「ひぃ……!」


 彼女はへっぴり腰になりながらも、その剣を構える。

 それを見てスライムは彼女へ向けて水飛沫を放った。


「うわー! なんかしてきたー!」


 アルマは目をつぶって顔を背ける。


「溶解液です! 避けてください!」


「ぎゃー!」


 水が少し彼女に降りかかる。

 後ろで見ていたヘネルさんが、こらえきれずブフッと吹き出した。



「……勇者様! スライムが何かするようですよ! 剣を構えて!」


「わー! わー!」


 僕の言葉にアルマはパニックになりつつも、なんとか剣を正面に向ける。


「来ます!」


 スライムは飛び跳ねて、彼女を襲った。


「ひあああー!」


 アルマはまたしても顔を背ける。

 するとスライムは一直線に彼女の剣に飛び込み、そのまま中央から二つに分かれて左右に散った。



「……おおー! さすが勇者様!」


 僕はパチパチと手を叩く。


「……ふ、ふええ……?」


 何が起こったかわからず、アルマは正面を見た。

 そこにスライムは既におらず、水が周囲の地面に散らばっている。



「なんとお強いことでしょう! スライムをこうも簡単に討伐してしまうとは!」


「……お、おお……! これが……わらわの才能かぁ……!」


 彼女は感動の声をあげた。




   ☆



 慣れてきた彼女は次々と現れるスライムを討伐していった。


 その水の塊は、隣の部屋でミズチが操っているものだ。

 スライムの群れはアルマの持つ剣へと体当たりし、散っていく。

 練習の時にミズチに話を聞いたが、彼女としてもこれは射的のような感覚で面白いらしい。


「ふはははは! 慣れてきたぞ! わらわ大変つよいなー!?」


 彼女にとってそれはかなりの爽快感があるらしく、ドンドンと先へ進んでいった。


 そうしていくつかの部屋を越えると、また違う雰囲気の部屋が現れる。



「おおっと! ここはトラップルームのようです……!」


 そこには中央に細い道があり、左右に奈落へと続く五、六メートルほどの人為的な穴がぽっかりと掘られている部屋だった。


「一歩踏み外せば死あるのみ! しかもその奥の扉は泥人形(マッドゴーレム)が守っております!」


 奥には身長一メートルほどの土色の人形が鎮座していた。

 これは泥を少量の水で覆い作ったもので、ミズチが操っている。

 ただし純粋な水と違ってその形を維持することが精一杯で、ほとんど動かすことはできない。



「ひっ……底が……見えないではないか……」


 アルマは左右の崖を見下ろして恐怖に肩を震わせた。


 実際は底は見えている。

 黒のタールと砂を混ぜた粘質の床がそこにはあった。

 しかし照明を薄暗くして壁面に傾斜をつけ、距離感をわからなくしている。


 本来はここに串刺しにする為の木の槍が並んでいたのだが、全て取り払って整備した。



「さあさあ、勇者様」


「お、押すな! 押すなと言っておろう! 不敬であるぞ! ――やめ! やめろって!! 本当やめて! やめてくだしゃぃ!」


 涙目になりながらも僕に押されてアルマはじりじりとそこを進む。

 実際は普通に歩けるぐらいの幅はあるのだが、周囲の環境が彼女に恐怖を覚えさせていた。


 ちなみに元の仕掛けではこの床にはわかりにくいスイッチがあり、それを踏むと壁から矢が飛び出るようになっていた。

 もちろん今はその仕掛けは取り外している。



「――ああーっ!?」


 そんな何もない場所だというのに、アルマは細い崖の上で大きくバランスを崩した。


 ……この子、かなりどんくさいな……?


 しかしそんな彼女の身体を支えるようにどこからか風が吹く。

 崩れたバランスを押し戻すかのように、彼女はふんわりと横から押し上げられた。


「お、おおおお!?」


「さすが勇者様! ナイスバランス!」


 僕の褒め言葉もかなりテキトーになってきた気はするが、彼女はそれに構う余裕もなく胸を撫で下ろした。



「……ふおお……! ……死ぬかと思ったぁ……!」


 この部屋は、隣の部屋からサナトが見守っている。

 バランスを崩して落ちそうになれば風を操りそっと支えるし、例え落ちたとしても優しく着地するよう手筈を整えていた。



「さあ勇者様、あと一歩です! 敵も待ち構えておりますよ! 一撃で決めましょう!」


「お、おおう……!」


 アルマは剣を構える。

 泥人形との距離は五メートルほど。


 道幅が少し広くなったのもあって、彼女は意を決して駆け出した。



「――てやあぁぁぁ!」


 大きく剣を振りかぶる。

 それと同時に、突風が吹いた。


 サナトの追い風が彼女の体を包み、その姿勢を修正する。

 跳ぶタイミング、腕を振り下ろす筋肉の動き、体の重心の移動。

 すべてが剣術のチュートリアルとなるよう、風が彼女の身体を矯正した。



 ザン、と剣を叩きつけると同時に、泥人形が真っ二つに裂ける。


 アルマはその場に膝を付き着地すると、倒れた泥人形の身体が時間差でブシャッとはじけ飛んだ。



「……き、気持ちいい……!」


 彼女は噛みしめるように呟く。

 剣の達人であり風を操る精霊、サナトによる強制フォーム改善だ。


 これは機会があったら新人の冒険者たちに体験させてみるのもいいかもしれない。



「ふふぅ……!」


 アルマは自慢げな笑みを浮かべて立ち上がった。


「おー、今のは本当すごかったなー」


 護衛のヘネルさんが手を叩きつつのんびり歩いてくる。


「そうであろう、そうであろう! もっと褒めよ! わらわ、もしかすると剣術の天才かもしれぬ!」


 ……あまり調子に乗せ過ぎるのもダメかもしれないな。

 僕は心の中でそうメモを取りながら、彼女を奥の扉へと案内した。




   ☆




「うがー!」


「ふぎゃー!」


 遺跡の一番奥のだだっ広い部屋で、ダイタローが声をあげた。

 それに恐怖の声をあげるアルマ。


 全長数メートルにも及ぶ巨大な石人形(ゴーレム)を見上げて、アルマは震えていた。



「さあ勇者様! この遺跡の守護者です! 彼を倒せばこの地の踏破となります!」


「無理であろう、無理であろうー! わらわ、初心者ゆえ! このようなデカブツどうしようもなかろうー!」


 彼女はびえー、と泣き出す。

 まあ誰だってこんな巨大な相手の前には怯んでしまうことだろう。



「……ではこれをお使いください!」


 僕は一枚の丸めた羊皮紙を差し出した。



「これはこの遺跡でのみ使えるマジックスクロールです!」


「何と! そのような物が!?」


「勇者様なら使いこなせるはず! さあ!」


 彼女は僕からそれを受け取って開くと、読み上げた。



「……大火よ、魔を呑み込め! ヘルファイアー!」


 彼女が声を張り上げる。

 すると地面からカシャの炎が吹き出て、地面を走った。


「ぐおー!」


 ダイタローの周囲に予め染み込ませていた油に沿って、炎が巻き起こっていく。

 それを見たアルマは歓喜の声をあげた。



「おおおおー!」


「さあ勇者様! 次の呪文を!」


 僕に促され、続きを読み上げる。



「水よ! 氷となりて敵を討ち滅ぼせ! アイシクルダスト!」


 天井から水が降り火を打ち消したかと思うと、同時にそれが凍って部屋を覆った。

 隣の部屋で見守るミズチとユキの合わせ技だ。


 部屋を氷が埋めるその瞬間をついて、ダイタローは体を小さくして横の通路から部屋を出る。


 パリーン、と氷が割れると、そこにもうダイタローの姿はなかった。



「……やりましたよ勇者様! 巨大なこの迷宮の主を打ち倒しました!」


「やったか……! さすがわらわ……!」


 後ろではヘネルさんが感心しながら手を叩いている。

 見世物としてもなかなか良かったらしい。


 演出はみんなで意見を出し合って練習したものだ。

 僕は奥の扉を開くと、アルマにその先の部屋を見せた。



「さあ、こちらへ! 宝物庫です!」


「おおおお!」


 彼女が奥へ進むと、そこには装飾で彩られた宝箱があった。

 装飾の得意なドワーフが本気で仕上げた一品だ。



「い、いったい中には何が……!?」


 彼女はおそるおそるその箱を開ける。



「こ、これは……!」


 そこには色とりどりのお菓子があった。

 デフォルメされた人形の形に焼かれたパンケーキ、河童の焼き跡を付けた可愛らしいクッキー、雛鳥を象った焼き菓子など、目でも楽しめるお菓子が両手で抱えるほど詰まっていた。


「うわー! まるで宝石箱だぁ……!」


 彼女は瞳を輝かせて声をあげる。


「そちら、どうぞお土産にお持ち帰りください」


 僕の言葉に彼女は満面の笑みで頷いた。

 どうやら本日の催し物は、無事お気に召していただいたようだった。




   ☆




「いやあ、楽しかった! 楽しかったぞ! こんなのは初めてだ!」


 お菓子の入った袋を持ち、腰に儀礼剣を差したアルマは満足げにそう言った。

 北の荒野の遺跡から出てすぐ。

 僕たちは運搬車(トラック)モードで荒野を駆け抜けるカシャの上に乗っていた。


 護衛の二人も無事アトラクションが終わり安心してくれたようだ。



「お前はわらわを楽しませる天才だなー。良いぞ、褒めて使わす」


 彼女は僕に笑顔を向ける。

 最初はどうなることかと思ったが、どうやら僕の首は繋がったらしい。


 毎日開催するのは難しいが、たまに観光客相手にこういう催しをするのも悪くはないかも――。



「――おお、凄いな! あれもお前の用意したものか!?」


 僕が今後の村の観光事業について考えていると、彼女はそんな言葉を発した。


 他には特に用意してないはずだけど――。

 疑問符を頭の中に浮かべつつ、僕は彼女の視線の先へと目を向ける。



 砂埃の向こう。

 荒野の先にそれは存在した。



 天を貫くほどの巨体。


 鋭利な牙の生えた顎。

 そびえ立つような翼。

 長く、体を支える尾。


 それは昔、本で見たような姿そのままだった。



「――あれは……ドラゴン……!?」



 僕の言葉に応えるように、それは天へ向かって炎を吐く。

 三、四十メートルほどはあろうその巨体が、真っ直ぐとこちらを見ていた。

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