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灰色の魔導士~麗しの美女の安眠調停~  作者: 玖桐かたく
第一章
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魔導士Ⅲ

 大陸東部にある水上都市から、調停の特使が魔導教会の門扉を叩いたのは、長会議が行われて半月程経った頃。

 調停に出向く人選を選ぶ為に再度、長会議が行われた結果、銀髪の金の長が出向く事になった。

 内容が不明瞭である為に、名実ともに実力のある存在が出向く事になったのだ。


「で、長が行く事は判るっすけど、なんで観光案内の本とか見てるっすか?」


 魔導教会の中を特殊な区画がある地下へと移動しながら、チェルソは自らの上司へと胡乱な眼差しを向けた。

 共に歩いているイリダールと、もう一人の部下は何の疑問も持っていないかのように、真面目に付いて歩いている。


「なんでもなにも、水上都市といったら有名な観光名所だろう。しかも、美女が多いとくれば早めの休暇だと言っても過言じゃないだろう?」

「全然違うっすよ!」

「シルバー様なら、美女なんて探さなくても美女の方から寄って来ますものね」


 真面目に答えた銀髪の金の長、シルバーと呼ばれた人物は、チェルソの突っ込みを綺麗に流してもう一人の女性の部下の発言に振り返る。

 二〇代前半だろう金茶の髪に翠眼をした、そばかすが可愛らしい女性の部下に、笑みを向けて首を傾げて見せる。


「そう思うか、ディーナ?だが、水上都市は様々な美形が集っている事だからな、私程度では埋もれてしまうだろう」

「そんな事ありません!シルバー様程美しい方は、この大陸においても類を見ませんわ!ああ、でもそのような場所にシルバー様を送り出さなくてはいけないなんて、どんな悪女が寄って来るか心配でなりません」


 両手を胸元で組み合わせ、うっとりとシルバーの笑みを見つめるディーナと呼ばれた女性は、即座にシルバーの言葉を否定した。

 その隣ではイリダールが会話の成り行きを、おろおろといった態で傍観している。


「ディーナ、お前も長を煽るな!イリダールも、さっさと止めに入るっすよ!」


 チェルソが声を荒げて、自らの金に近い茶色の髪とよく似た、ディーナの髪を軽く叩く。ついでにとばかりに、イリダールへと長の扱い方を教えているのだ。


「痛ったー…!チェルソ、あんた私の頭をそう叩かないで頂戴!いくら従姉弟とは言っても、私だって怒るわよ」

「ディーナ、お前が怒る前に、俺はとっくに疲れてるっすよ」

「チェルソ殿もディーナ殿も、落ち着かれた方がいいかと思いますよ。長はすでに先に行ってしまってますから…」


 チェルソと、従姉弟のディーナのじゃれ合いを放っておいて、問題のシルバーはさっさと目的の魔導力を組み合わせられた部屋へと入って行っている。

 イリダールに教えられ、慌ててシルバーを追いかける事になったチェルソとディーナだった。

 追いかけて室内へと入れば、シルバーは部屋の形が円錐状に壁を整えられた部屋の中で、中央の石柱に寄りかかっていた。


 此処は、魔導教会内における特殊区画。

 その特殊区画の中でも高位魔導士にのみ使用可能な部屋の一つである。

 理由は、この部屋が転移魔導を行う事が出来るからという事だが、その便利な転移魔導も許容量が少なく、精々三~四人程度しか一度に転移させる事が出来ない。

 その為に、昨冬の疫病調停で大人数の魔導士が動員された時には使用される事がなかったのである。

 許容量だけに限らず、転移魔導を行う為にはそれなりの高位魔導士でなければ、魔導力が足りないという理由もあるのだが。


「イリダール、お前はどんな女性が好みだ?北欧系の色白美人、はたまた大陸西部に多い気が強い女性とかかな?」


 未だに水上都市の観光案内本を捲りながら、追いかけてきたうちの部下の一人であるイリダールへと、冗談交じりにシルバーは問いかける。

 チェルソに問いかけないのは、小言が返ってくる確率が高いからだろう。


「私は性格さえ合えば、どのような女性でも……」

「何を真面目に答えてるんっすか。長の冗談は躱しちゃって、放置しておけばいいんっすよ」


 生真面目に返すイリダールの言葉を横からチェルソが遮った。チェルソはそれが当然とばかりにイリダールの前で胸を張って上司である長の扱いを教えた。

 その間に、一緒に来ていたディーナは入り口脇にある台座の前に立ち、転移魔導の起動に関しての最終確認を行っている。なんとも、ある意味気の合う従姉弟同士であった。それぞれ、やるべき時にはやるべき仕事をこなすという性格なのだろう。


「シルバー様、転移魔導はいつでも発動可能です」


 確認を終えたディーナが、台座から顔を上げて石柱に凭れたシルバーへと告げれば、ようやく本から顔を上げる。

 そんなシルバーの脇に、イリダールとチェルソが立ち、いつでも転移魔導が発動していいように石柱へと手を添えていた。


「それじゃ行くか。イリダール、初めての転移だろうから、空いている方の手で私のマントでも掴んでおけ。ディーナ、暫くまた留守にするが他の長連中は適当にあしらっておいていいからね。転移魔導を起動してくれるかな」

「わっかりましたー。シルバー様も水上都市で、火遊びし過ぎて女性達に追い掛け回されないように気を付けてくださいね。魔導力のない女性が、シルバー様の子を産むなんてことになったら、魔導士全体の損失ですから」


 至極真面目に、ディーナはシルバーへと釘を刺す。実際、シルバーの血を引いた子であれば、高確率で魔導士の才能があるだろうという事で、魔導教会でも重要課題の一つでもあるのだが。当の本人はどこ吹く風とばかりに、のらりくらりと躱して美女を口説く事に余念がないのだ。

 そして、そんなシルバーの白いマントの一部を、イリダールが恐る恐るといった動きで掴む。


「判っているさ、さて……麗しの水上都市へ……」


 シルバーのその言葉に、ディーナが転移魔導を起動させれば部屋の中に金と銀の輝きが満ち溢れ、石柱へと光が吸い込まれると共にシルバーとチェルソ、イリダールの姿が掻き消える。


 そして、完全に三人の姿が消えた後で、ぱさりと部屋の中に水上都市の観光案内本が落ちた。


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