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僕の白い妹

作者: ゆきねこ

僕、咲宮朔弥にはとても重大な秘密がある。沙由という妹がいることだ。それ自体は大したことではない。重要なのは彼女がアルビノだということだ。

アルビノは先天性の皮膚や髪、目などに色素を作るメラニンが欠如している。色素が抜けているので肌や髪は白く、目は血管が透けて赤くなる。また、発達障害を伴うこともある。海外ではアルビノは奇妙な力を持つという迷信のため殺害されたり、珍しいからと人身売買されたりすることもあるという。日本にはそういった迷信がないだけマシだが街を歩けば好奇の目で見られるし、何かと言われることも多い。何せ少し前まで金髪ですら珍しかった国だ。白髪が目立たない筈がない。


「沙由ー、ご飯できたよ。」僕は入るよ、と沙由の部屋のドアをノックする。彼女から返事が来ると彼女の好物のオムレツを乗せたトレイを運び入れる。さっき味見をしたけど、卵の半熟加減とデミグラスソースがとても美味しかった。はやく沙由に食べさせてやりたい。

「あー!こんなに散らかしてー」

部屋に入ると床には本や漫画が散乱し、カーテンはきっちり締め切られていた。沙由はというと本を開いたままぼーっとしている。アルビノは普通の人より皮膚ガンになる確率が高く、医者によると日光を避ける必要があるのだそうだ。

「ごめんなさい…」沙由が申し訳なさそうに言う。それから、僕の顔を見て安心したのか少し笑った。


「「いただきます」」

僕たちは声を揃えて言う。

「どう?美味しい?今日のは自信作なんだ」

「うん、美味しい」沙由はふふっ、と笑う。あまり元気ではないようだ。

だが、沙由がこうなったのにも訳があるのだ。


9年前に両親が教育方針の違いにより離婚。親権は母が持つことになった。だが父が教育費を毎月支払ってくれていたし、元から共働きだったので生活には困らなかった。

7年前。沙由は母の他の子と同じようにさせてやりたい、という希望のもと、養護学級でなく普通の小学校に入った。思えばそれが間違いだったのかもしれない。

沙由は夏でも毎日長袖長ズボンで

、登下校には母親が付き添い、筋肉の発達障害により体育の授業は全て見学していた。

小学一年生、周りに少しでも普通と異なる者がいると標的にせずにはいられない年頃だ。例外なく、明らかに普通でない沙由はまもなくいじめの標的にされた。夏が終わる頃には学校へ行けなくなり、部屋からも出なくなった。そして次第に笑わなくなった。食欲や大好きだった本への興味もなくしていった。またこの頃から変な音が聞こえるとも言うようになった。母は何もきこえないよ、空耳だよと言ったが沙由はますます壊れていった。

困り果てた両親は学校のカウンセラーに相談すると、医者にみてもらうように言われた。その医者からは統合失調症と診断された。

統合失調症は精神疾患の一種で、幻覚幻聴が現れ、感情が鈍くなり、極度の無気力状態に陥る。睡眠障害や身の回りへの関心がなくなる。被害妄想が激しくなり夢と現実がわからなくなったりするというのが主な症状だそうだ。

沙由はそれからしばらく入院し、薬漬けの日々を送った。退院後も薬を飲み続けた。そして去年母が交通事故で亡くなった。

親戚の間で沙由を誰が引き取るかを問題になったが、本人の希望で僕が彼女の後見人になり、今に至る。

「今度の金曜日、大学休みなんだけどどっかいかない?」オムレツを食べながら提案する。

「…うん、でも大学の友達とどっかいくんじゃないの?」

「いいんだ。もう全部断った。今週はずっとバイトやらサークルで帰るのも遅かったしお詫びさせてよ」

「でもバイトも私の薬代がかからなかったらしなくていいんでしょ?お兄ちゃんはいつも私を1番に考えてくれる。だけど私は迷惑ばっかかけて何もして上げられてないのに…」実際、沙由の病気がなければ父からの慰謝料だけで生活費は足りていた。沙由は真っ白な手をぎゅっと握り締めた。

「それとこれは別。沙由と行きたいんだ」

「…うん、じゃあそれなら」申し訳なさそうな顔をする沙由。あまり気が進まないらしい。何しろあんなことがあったので滅多に外に出ない。でも日光はダメだが、流石に少しは外の空気を吸っておいた方がいい。

そんなこんなで行き先は近所の森林公園にした。そこならいい感じの日陰があるし、せっかくなのでお弁当も持って行って食べようということになった。



そして金曜日。空はどんより曇っている。あまり気分が明るくなる天気ではないが、日に当たることがダメな沙由にとってはむしろこっちの方がいい。沙由はこの暑い中いつものように長袖長ズボンだ。でも久しぶりの外出だからか、誕生日にあげた花のネックレスをつけている。貰ったのだから使わなくてはと思っているのか、おしゃれをしたかったのかはわからないがとてもよく似合っている。

車の中。久しぶりに乗るので少し独特の匂いがする。

「ねえ、本当に私でよかったの?」

「もちろん」僕は大きく頷いてエンジンをかけた。


目的地の公園について車から降りた。沙由は目立つ。案の定たくさんの人が好奇の目で沙由を見てくる。

見るな見るな見るな。沙由は見世物なんかじゃないんだぞ。そう思いながら僕はおどおどする沙由を守るように手を繋いで歩き出す。なんだかSPか執事にでもなった様な気分だ。


「ここで食べようか」しばらく歩くと人気のない昼食スペースについた。まだ11時だ。道理で空いている訳だ。

「ここにシート敷くからそっち持って」

「これ?」

沙由は小学校の遠足にも満足に行けていないのでこういったことはほとんど初めてだ。

「そう、それ」

どうにかシートを敷き終えると朝から二人で作った弁当を広げる。

「美味しいね」タコさんウィンナーを頬張る沙由が言う。

「あ、こら沙由。いただきますは?」

「あ、そうだったいただきます。これ美味しいね」沙由はまた申し訳なさそうに笑いながら言った。

「そうだね」

「…何か遠足みたい」

「あ、咲宮じゃん!」しまったそう思ったときにはもう遅い。七瀬悠馬、佐々木真人、笹本春樹に市村亮。ゼミで一緒の奴らだ。揃いも揃って皆175センチ以上の高身長だ。背の高い男の集団は沙由を怖がらせる。

「妹?沙由ちゃんだっけ?」「けっこーかわいいね?」「髪染めてんの?」「カラコンしてる?」背の高い男にたかられて沙由は途方に暮れている。そりゃそうだ、こんなデカいだけでくだらないことしか考えてない男に囲まれて困らない女子の方が珍しい。

「体弱くてあんま外出てないから人と話すの慣れてないんだよ。質問攻めやめろよ」なるべく怒りを出さないようにと心がけながら間に入る。

「…あ、えっとこれはアルビノっていって肌とか髪のメラニン色素が欠如しているんです。目が赤く見えるのは血管が透けて見えるからです」

バレてしまったものは仕方ないと思ったのか沙由が説明する。

「っていうか今日どうせ来るんだったら教えろよな」

「妹いるんだったら紹介してくれればよかったのによー」

それなー、と同意する奴もいる。

「別にいいだろ。それにお前ら酒癖悪いわ絡み酒になるわでめんどくさいんだよ」

「そんな人付き合い悪いんじゃ彼女できねーぞ!」誰かが爆弾発言をした。比較的温和な性格だが沙由についてあーだこーだいう奴は許せない。人の事情も知らないで。でも相手は一応友達だ。ここで下手に噛み付けば今後の生活に関わってくる。冷静にできるだけ冷静に。できるだけいつもの調子を意識して言う。

「お前らだっていないじゃん。どっちにしろお前らに心配される謂れはない」ほら馬鹿は散った散ったと追い返す。



「…ごめんね」沙由がぽつりと呟いた。

「何で謝るの?僕は沙由と来れて楽しかったよ?」

「だってお兄ちゃん友達にいろいろ言われちゃってたし…。私にかかりっきりじゃダメだよ、やっぱり」

「あいつらが何を言おうと関係ない。それに言ったろ、沙由と行きたいって」あと沙由に構うのは僕の趣味だと笑って付け足す。

「私に構うのが趣味だなんて変なの」

「よくできた奴だろう僕は」そう言うと沙由がまた少し笑ってくれた。

「そっちこそあんな男の集団怖くなかったの?あんなに沙由が喋れるようになってるなんてちょっとびっくりした」

「怖かったけど…お兄ちゃんに頼ってばっかりじゃダメだって思ったの」

「そっか、えらいえらい」僕は沙由の小さな白い頭をぐしゃっとなでた。

「やめてよ恥ずかしい」もう子供じゃないんだからとムスッとした沙由が言う。でもそう言う割には嬉しそうだ。全く素直じゃない。


帰りの車の中。隣を見ると助手席の沙由が寝ていた。久しぶりに外に出て知らない人と喋って疲れたのだろう。でもその寝顔寝顔はいつもより少し心地よい疲れを得たもののように見える。やっぱり行ってよかった。次はいつ行こう、どこへ出掛けよう。そんなことを考えていると家についた。起こすのも可哀想なので世でいうお姫様抱っことやらをして沙由を部屋まで連れていった。


最後まで読んでくださりありがとうございました!

普段あまり文章は書かないのですが創作意欲に任せて書くだけ書いたのでいろいろ酷いです…(ほぼ一発書き)

また何か書けたら書きたいです

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