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第十五話 冒険者ギルド

 エジャル島への玄関口「バサル」を出立し王都グローリーキャッスルへたどり着いたミノタウルスの暗黒騎士カイン、闇神殿の修道僧ダクマ、ダークエルフの闇精霊使いモース、魚人の地図職人ジャズゴの4人は王都にある冒険者ギルドの本部を訪れていた。


 冒険者ギルドとはダンジョンや秘境などの危険地帯から、薬草・生物・貴金属・地理などを探索し収集し、報告するギルドである。

個人で活動することもできるが、パーティを組むことで安全性や成功率を高め、ランクを上げる事によってより難易度の高い場所への探索や依頼が受けられるようになる。さらに、高ランクになれば指名依頼などをされるようになり、ゆくゆくは貴族専属のお抱え冒険者となることも夢ではない。


 それだけに競争が激しく、実入りの良いダンジョンに挑む冒険者たちを管理し、適正なランクで安全かつ、効率的な運営をすることを求められている。


 冒険者ギルドは国家の重要な税収入の窓口になっており、国ごとの独立採算制をとっている。しかし、マーモル島にある6つの国はそれぞれのギルドをお互いに相互認証しており、冒険者はどこの国へ行っても

ランク相応の対応をしてもらえるということになっている。 


 だから、カナン国での籍のある5人はダンジョン探索のために冒険者になることにしたのだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 カナン国の冒険者ギルド本部の受付嬢であるヘルミーナはこの状況をどう理解すればいいのか分からなかった。

 いかにもな暗黒騎士の格好をした巨漢の男に闇色に染まった僧服をきた怪しげな男、フードを深くかぶっているがちちょこんと飛び出た尖った耳が隠しきれていないダークエルフ、ほぼ上半身裸の魚人の青年。

 

 それが自分の目の前にいる。そして巨漢の暗黒騎士はおもむろに手紙を差し出してきた。


 「エジャル島執政官シリウス卿からの紹介状だ、便宜を図ってもらいたい」

 フルフェイスの冑をしているため、ややくぐもった声ではあるものの理性的な話し方に気を取り直し返事をする。


 「かしこまりました、あちらでお待ち下さい」とギルドの一角に設けられた小さな酒場を指し示す。

 

 ヘルミーナはとなりの受付嬢に後を頼み、とりあえずギルドマスターの私室に向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 冒険者ギルドの酒場でそれぞれ酒を注文しながらも、一切会話をせず、黙々と酒を飲むパーティをカナン王国所属の冒険者たちは遠巻きに見守っていた。

 

 エジャル島にしかいない暗黒騎士団の甲冑を着込んだ大男はパーティのリーダーなのだろうどっしりと構え奥の席で思索にふけっているようだ。

 黒の僧服を着ている男もエジャル島にある闇神殿アモンの神官であろう、こちらは周囲の様子を伺いつつも酒を少しずつ飲んでいる。

 フードの線の細い男は隠しきれていない特徴のある耳がピコピコと様子を伺っている。どうやら好奇心満載のダークエルフなのだろう、森から出てきたばかりなのがよくわかる。


 上半身が裸の魚人はテーブルに地図を広げなにやら書き込んでいる。とあまりに寡黙な雰囲気に耐えられなくなったのか話し始める。

 「あの、いつもこんな感じなんですか?」

 おずおず、といった感じで魚人のジャズゴが皆に話しかける。


 「こんなとはなにがだよ」

 イライラした様子のダークエルフが魚人に答える。


 「いえ、仲間にしていただいたのはいいのですが、こう和気藹々とした雰囲気とかやるぞーっていう感じがまったく無くて・・・誰も死んでないのにお通夜みたいな感じだなぁって・・・」


 「はぁ?俺たちは別に仲良くする必要があるのかよ、俺は族長の命令で協力してやっているだけだしほかもそれぞれ理由があるんだろ、各自が仕事すりゃいいんじゃねぇの」

 ダークエルフはあまり仲良くしたがらないようだ。


 「ああ、たしかにそういうのも重要かもしれませんね、仕事仲間と交流を図るなんて今までしてきた仕事に必要なかったものでまったく気が付きませんでした、なにせ証拠のたぐいは一切痕跡を残さないようにしていたのでね」

 黒の僧服を着た男はなにやらぶっそうなことを言い出している。


 「・・・仲間との触れ合い・・・なるほどこれも閣下から下された試練なのかもしれんな」

 巨漢の鎧男はそう呟くと黙り込んでしまう。


 「いまのは試練としれんをかけた・・・」


 あまりにも重い沈黙があたりを包み込む。冒険者たちは程度の差はあるかもしれないが、ダンジョンに潜り生活している。その奥にいるダンジョンボス、その彼らが放つ圧迫感が辺りを支配していた。

 わからない、ここは安全地帯のはず・・・しかしこの空気はまるで生死を分ける分かれ道に立っているかのような錯覚を覚えた。


 くっくっく・・・

 ふっふっふ・・・

 けっけっけ・・・


 悪魔たちの笑い声がギルド内に響く・・・ 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ギルドマスターであるギルバートは受付嬢のヘルミーナが持ってきた紹介状の中身を見てどうしたものかと思案していた。

 たしかに王国とギルドは蜜月関係にある。できることならこの関係を維持したいと思っているが、現在の王国の主流派はかなり闇に染まってしまっていた。王宮内の政治は腐りきっており、指導者たち自らアベルバンナの栽培、精製をおこない、それをマモール島の国々や大陸にまで蔓延させているのだ。


 王宮の指導者たちはアベルバンナの栽培に反対する貴族たちにでっちあげの証拠を用意させ、逃げ出そうとした者たちに賞金をかけて捕らえた。

 その先鋒となって働いてきたのが冒険者ギルドである。

 依頼と言えば聞こえはいいが、所詮は使いっぱしりである。王国の騎士たちはラインフォール王国やアムラン王国の国境警備に忙しく、あまり国内の政治犯の取締りをしようとしない。

 あくまで外敵に対する備えであって治安維持のためにいるわけではないからだ。

 

 もし、心ある者達が立ち上がり、不正を糾弾し正義をおこなうなどと言い出せばとても言い訳が効く話しではない。

 しかもそれが暗黒卿シリウスであるならばなおのことだ。

 

 紹介状には書状を持ってきた者達を冒険者として受け入れること、さらにはランクを度外視した特別措置によりいかなるダンジョン、秘境の立ち入りも許可することを願うと言う冒険者ギルドの存在意義を無視した意向が書かれていた。

 本来ならば一笑に付すところだがシリウス卿からの書状には続きがあった、

 「カナン王国新生の際は感謝の意を込めて礼をさせてもらう」と書いてあったのだ。


 カナン王国の新生とはつまりはシリウス卿自らが指導者となり、国を治めるということであろう。そのようなことが可能かどうかギルバートは思いふける。

 たしかにエジャル島の暗黒騎士団に闇神殿アモンの闇神官にダークエルフの協力、さらには魚人の案内があればバサルのカナン海軍を打ち破り、バサルを占拠することは可能だろう。

 

 そうなると問題は次の一手だ、グローリーキャッスルから出せる国軍は国境警備に当たっている深緑騎士団の半数、あとは冒険者ギルドから叛乱軍討伐隊として臨時の徴兵をおこなう、もしくは市民兵の募集などもするかもしれない。

 だが、相手は質実剛健、公明正大で人気の高いシリウス卿である。市民達に武器を持たせた挙句武装蜂起されてしまえば本末転倒だ。

 使えるのは忠誠心の高い子飼いの騎士か金を払えば裏切らない傭兵をしている連中だろう。

 カナン王国で実力があり金で転ぶような傭兵部隊はひとつしかない、天界十二使徒剣匠キャライン率いる傭兵部隊だ。

 シリウス卿と直接対決して勝てる武人というのも自分を除いてはキャラインしかいないだろう、だがすでに引退して息子に騎士爵位を譲っていたはずだ。その息子もカナン王国を出奔し行方知れずになっている。

 

 ギルバートはさらに思考を進める。もし、自分が国王ならば他国に支援を要請するだろう、アベルバンナで儲けてきた資金を吐き出し、土下座をしてでも支援を乞い、マーモル島の危機を訴えアムラン王国とラインフォール王国から北と西から同時に攻めてもらい、ロンフォール連邦の飛龍に制空権をとらせ、商国ジュエルの海軍に海路を絶ってもらい逃げ道を防ぐ。

 

 そこまで考えたが、夢想に終わるだろうなと思っていた。

 アムラン王国は他国侵略の意思も無く、既に退廃的な文化が蔓延しておりカナン王国が滅んでも国境を封鎖するだけだろう、さらに北のエメルダス山脈ではゴブリンの大群が見事な用兵術でダイクス、テムスの村の自治組織を翻弄し政情不安を抱えている。どうやらこの際領内の引き締めをはかり、一気に自治組織の解体を目論んでいるとの報告もある。


 ラインフォール王国は妖魔の存在を許さない正義と審判の神ジャッジを信奉する国であるので支援はしてくれるだろう、だがアベルバンナの栽培で儲けてきたカナン王国にとって借りを作りたくない相手である。現実的には支援を求めない可能性が高い。

 ロンフォール連邦は小国の小競り合いが絶えず、他国への出兵には消極的だ。その隙を狙って攻められるかもしれないから当然であろう。

 一番可能性の高いのは商国ジュエルであろうが、逆にエジャル島さえ押さえておけばカナン王国そのものは必要ないし中間マージンをとられるだけ邪魔な存在であろう。


 すでにシリウス卿との密約により話が済んでいるかもしれない。

 ギルバートはそこまで思考をなぞり、現状を把握し、驚愕した。

 既に詰んでいるのだ、シリウス卿の狙いがこの国だけであればすでに王手がかかっており、こうしている間にも時間は少なくなっている。

 

 ゆえにギルバートは冒険者ギルドのギルドマスターとして非情な決断をせざるを得なくなった。

 それは、シリウス卿の意向通りにことを進め恩義を売り、グローリーキャッスルにおける決戦の際は中立不干渉を貫くことにした。というものだった。


 だが、事はそれでは済まないだろう、グローリーキャッスルをあっさりと落とした妖魔の軍団があっさりと不毛の土地であるエジャル島に帰るだろうか?

 そんなはずはない、カナン王国領内であればまだ内乱で済む話だろうが、ラインフォール王国が黙っているはずが無い。

 ゆえに戦いやすい戦場を求めさらに北西に兵を進めラインフォール王国との決戦になるだろう。

 他国との戦争において傭兵を抱える冒険者ギルドが不干渉でいるわけにはいかない。

 ラインフォール王国が敗れればさらに北のバーナム王国を飲み込み、北西の商国ジュエルへの道が開ける。

 バーナム王国はラインフォール王国へ支援するだろうが所詮は砂漠の民、移住を繰り返す彼らに土地に対する執着は無い。

 それよりもジュエルを押さえられれば大陸との交易を抑えられてしまう。

 

 まさか大陸にまで攻め込みはしないと思うが妖魔共を完全に使い潰す気ならば可能性はある。

 

 「まぁ、あとは運と寿命次第といったところだな」

 

 シリウス卿の弱点としては既に高齢なことと跡取りとなる息子がいないことだろう。

 

 そこまで思い巡らせたとき、いつもならば喧騒に包まれているギルドが静まり返っているのに気が付いた。

 何事かとギルバートは私室を出ていつもならば人でごった返している受付を覗き込む。


 そこには黙々と酒を飲み思いついた駄洒落連発しているミノタウロスとすっかり出来上がった闇神官と突っ伏しているダークエルフ、ケタケタと笑い声を上げる魚人のパーティにおびえて遠巻きに囲む冒険者たちの姿だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 受付嬢であるヘルミーナはギルドマスターに紹介状を届けた後、通常業務をこなしながらも、酒場の一角で静かに酒を飲んでいる4人組を観察していた。

 4人とも風体は怪しげだがとくに問題を起こすことなくたまにお代わりを注文するだけで静かなものだった。

 冒険者ギルドの受付をしていると厄介ごとを持ち込んでくる依頼者や荒くれ者の冒険者などと諍いが耐えないものなのだが、今日はやけにみな大人しく、いつもは口説いてくる優男も酒場のほうが気になるのかチラチラとそちらのほうばかり気にしていた。


 今日はどうしたのか?と聞いてみたが俺のセンサーがビンビンに反応するんだと訳のわからないことをいって壁にもたれかかった。


 しばらくして、少し離れていたため聞き取りにくかったが、近くにいた者たちには聞こえていたのだろう。なにかを暗黒騎士の格好をした巨漢の男が発したとたん、ギルド内の温度が下がり迷宮の絶望と呼ばれる現象を普段はギルドにつめているヘルミーナも感じ取ることが出来た。

 すると、なにがおかしかったのか周りの4人も不気味な笑いを繰り返し、酒盛りを始めたのだ。


 まるで生贄の儀式を始める邪教の集団が酒を飲みながら不気味に笑い、さも楽しそうにしている光景がしばらく続き、フードで顔を隠していたダークエルフが熱くなったのかフードをはずしその素顔をあらわにした。

 すると、ギルド内にいた男たちはその美貌に見とれてしまった。ダークエルフの女が昼日中に大勢の前にその姿を晒すことは珍しいというかまったくないといっていいほどである。


 ダークエルフの女にはもともと魅了の魔法でもかけられているのか、様々な妖魔や人間達の欲望を集めやすい体質があった。しかも華奢であり、妖艶な雰囲気を漂わせている。

 エルフも美しいのではあるが、それはどこか人外の雰囲気であり、高嶺の花を思わせるため、あまり口説こうとするものはいない。


 それにつられたのか、暗黒騎士の男も邪魔だとばかりに冑を脱いだとき、ギルド内の緊張は一気に増した。


 そこに現れたのは牛の角を持ち体毛だらけの顔をもつミノタウルスの姿であった。

 

 ミノタウルス、ダンジョンの深い階層に住み絶えず徘徊し冒険者達を狩る存在。

 出会ってしまえば逃げ切るのは難しく、倒すことも難しいだろう。体力に知性を持ち合わせ、いざとなれば狂化状態になり斧を振り回す。

 それが冒険者ギルドで駄洒落を連発し、何が面白いのか闇神官は不気味な笑いを繰り返し、ダークエルフは「うめー、酒うめー」とぐびぐびと飲み続け、魚人は身体が乾くのか酒を頭から被っていた。

 

 その様子に現実感を失っていた彼女は不意に肩を叩かれ、振り向くと後ろにギルドマスターであるギルバートがおり、一言声をかけられる。


 「今日からあいつらの担当よろしく」


 そういってギルバートは去っていった。

ヘルミーナ:カナン王国の首都グローリーキャッスルにある冒険者ギルドの受付職員、カインたちからの紹介状を受け取った縁で担当にさせられる。


ギルバート:カナン王国の首都グローリーキャッスルにある冒険者ギルドのギルドマスター、シリウス卿からの紹介状により、カインたちに便宜を図り、ギルドの加入許可と無制限の探索許可証を与える。


カイン:エジャル島の暗黒騎士、秘宝探索のため、マーモル本島にて冒険者となる。ミノタウルスであることを特に秘密にしておらず、暑ければ普通に脱ぐ。


ダクマ:闇神殿アモンの神官、カインの秘宝探索に同行する。本業は暗殺者で一切の証拠を残さないプロフェッショナル。


モース:エジャル島にある闇の森のダークエルフ、カインの秘宝探索に同行し村の未来を切り開こうとしている。恥ずかしがり屋でフードで顔を隠しているが、暑ければ普通に脱ぐ。


ジャズゴ:エジャル島との玄関口バサルの港湾職員、カインの秘宝探索に同行し、父親である天界十二使徒の一人海王ナザルに会いに行く。暑いので常に脱ぐ。


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