生徒会長との関係そして・・
「しっかし、相変わらずすごいな・・」
命達が見えなくなるまで見ていたら健一がぼそりと呟いた。
「俺達が声を掛けてもあんな綺麗には収まらなかっただろうな」
「だろうね」
雫と克己が俺達に気が付いてこちらに来るのをみながら同意する。俺は
兎も角、遠藤家の次期当主の健一が言ってもあそこまで一瞬であの場を
納める事は出来なかっただろう。
「お二人とも来ていたのですか」
「みていたのなら、お前達が止めればよかっただろう」
先程見せた凛とした姿の女子生徒と同じにみえない、柔らかい笑顔で雫
が挨拶をしてくる。克己も肩の力を抜いてリラックスした感じに話しか
けてくる。
二人とも次期当主と学園での顔とは別に気の知れた親友同士にしか見せ
ない顔である。
「無理無理!雫姉さんと克にぃだから出来たんだよ」
健一が少し大げさなぐらいに手を振る。
「・・・・僕もそう思います」
「・・・・・」
その言葉を言った瞬間、雫の表情が暗くなり顔を伏せる。表情をみて、
自分も胸が痛む。別に責めている訳ではない。あれはしょうがないも
のだと諦めている。
中学に上がる頃、神鳴家、神童家、神楽家本家と分家の次期当主候補は
“心刀の儀”というのを行う。その儀式に成功した者が次期当主として
認められるのだ。その“心刀の儀”を失敗し神鳴家の次期当主候補を剥
奪された俺の代わりに、神鳴家の次期当主と選ばれたのが神奈雫であっ
た。神奈家は、神鳴家の分家の一つであるが神鳴家を支えて来た家系で
もあるのだった。自分より一足早く、神奈家の次期当主として選ばれて
いた雫だったが、本家、分家の話し合いで中学生にて既に現神鳴家現当
主と同等の力を持っていた雫が次期当主と選ばれた。
今現在の神奈家の次期当主は雫の弟になっている。
雫は俺から神鳴家の次期当主としての権利を奪ってしまったと思ってお
り、俺が次期当主になるべきだと今だに言ってくるのだ。神鳴家の次期
当主と選ばれてもなお神奈の名を捨てないのはそこにある。
「・・・・大丈夫だ進一。ここ一帯には俺達以外誰もいない」
克己が少し周りを確認しながら、肩を叩いてい来る。
「・・・あぁ」
周りに誰もいない事は、分かっていた。でも、用心に越した事はない。
次期当主達と落ちこぼれの俺が仲良くしている姿を見せればどうなるか
分かったもんじゃない・・・改めて、周りに誰もいない事を確かめて体
の力を抜く。
「なぁ・・今さらだけど・・お前、俺の時は普通じゃん!俺もこれでも
兵藤家の次期当主なんですが!」
今のやり取りを見て、納得いかないように健一が迫ってくる
「・・だって・・お前。入学当初から自分達のクラスは面白くないって
言って、俺のクラスに入り浸りじゃないか・・・」
休み時間の度に俺の教室に来ては他のクラスの人達と喋っている。クラ
スの人も最初は戸惑っていたが、今じゃぁ休み時間の恒例となっていて
誰も気にしている人はいない。健一の要望で敬語も一切使わなくても良
いようになっている。次期当主でありながら気さくの人という事で俺の
クラスでも人気が高い。
「それとも、何か・・俺に畏まって言って欲しいのか・・・健一様」
「いい・・やっぱり止めとく・・・お前にそう言われるとなぜか凹む」
気持ち悪そうに腕を摩っている健一を「なんでだよ!」と言い返しなが
ら笑う。克己や雫までも一緒に笑う事ができた。さっきはしょうがない
と思ったけどやっぱりこういう関係が一番良い。
「そう言えば、進一様達はこれからどうなさるおつもりですか?」
「・・・・・雫さん」
今度は俺が黙る番だった。さっき落ち込んだ表情が嘘のように明るい表
情の雫をみながら頭を抱える。
先程、説明をしたように神奈家は神鳴家を支えて来た家系だ。主従の関
係で言えば、神鳴家には古くから風間家が仕えている。だが、神奈家は
それとは違い神鳴家に寄り添うように献身に支え、決して神鳴家より前
に出ず逆に神鳴家を立てるようにしている家系だった。神鳴家初代当主
が神奈家の当主の危機を救った事があるという事でそれ以降、尽くす様
になったと言われている。
そんな家系で育った雫は、神鳴家直系の息子の進一を今だに“進一様”
と呼ぶ事があるのだ。いつもなら、本当に気が抜ける所でしか言わない
のに、先程の仕返しなのだろう。
「いつも言っているじゃないですか・・・その言い方はしないでくださ
いって・・」
「私もいつも言っているじゃないですか“雫さん”じゃなくて“雫”と
呼んで下さるようにって・・」
「それは無理です。目上の人に対して名前を呼び捨てなんて・・」
「目上ってなんですか?歳の事ですか?歳はそうかもしれませんが、進
一様は神鳴家の当主となられるお方なんです・・私より進一様の方が立
場的に上なのですから名前の呼び捨てぐらい普通ですし、私が進一様と
呼ぶのも普通の事です」
「・・・・・・」
言い返す事はいくらでもあるが(次期当主は雫であって、自分ではない
とか)、あまりの迫力に咄嗟に何も言い返せなかった。
ポンっと両肩に手を置かれてみれば、健一と克己の二人が諦めろという
感じに首を横に振っていた。
「・・分かりました。そう勝手に呼ぶのは構いませんが、俺も勝手に呼
ばせて貰います。ですが、他の人の前では絶対に止めて下さい」
「やはり、納得はできませんが・・進一様の言う通りにします」
「・・・・ありがとうごさいます」
やや疲れたお礼だけを言う。頭なんか下げてしまうと、向こうも下げて
しまい、周りからみられたら、生徒会長に頭を下げさせている生徒とし
て有名になってしまう。
「・・・えぇと・・これからの事ですか?雫姉さん」
会話の決着(?)が付いた時に、健一が横から入り込んで来る。
「はい。何もないようでしたら、生徒会室でお茶でもと思いまして・・
他の役員の人達は片付けが終われば解散の予定なので生徒会室には誰も
来ません。ですから、大丈夫ですよ」
最後の言葉は俺に向けて言ったのだろう。気を使わなくても良いように
と・・
「別に大丈夫ですよ!命ちゃん達が来るまで待っているだけですから」
「そうだな。命達が終わったらメールして貰うようにすれば良いか」
春先とはいえまだ寒い。そんな中を外で待つよりはお言葉に甘えた方が
良いと判断する。
「では、行きましょうか」
少し、嬉しそうに歩きだす雫の後ろを付いて行くように一歩踏み出した。
・・・ドクンッ!
その瞬間、胸が急に痛くなって呼吸をするのが苦しくなった。
「ガッ!」
ドクンッ!・・ドクン!
あまりの痛みに、胸を握りしめながら膝を着く。
「おい、どうした!」
隣で歩いていた健一がすぐに気付いた。少し先に行っていた雫と克己も
慌ててこちらに駆け寄ってくる。
「だい・・じょ・・」
ドクンッ!
大丈夫と言いたかったけど、痛みの所為で上手く喋る事が出来ない。
「保健室に!」
「分かっている!進一立てるか!」
克己と健一の二人が両脇から支えるように歩き出す。
ドクンッ!・・・ドクンッ!・ドクンッ!
さっきから心臓が不定期に大きく動く。まるで、自分の心臓と別の心臓
が二つあってそれぞれが別に動いているような感じだ。
「進一様・・・」
ぼやけた視界で心配そうにしている雫の顔が一瞬、見た事もない金髪の
少女に見えた。その少女は悲しげな表情をしていた。
「しっかりしろ!」
健一の声が聞こえたら、金髪の少女はいなくなり心配そうな雫の顔があ
った。
ドクンッ!!ドクンッ!・・・ドクンッ!
心臓がやけに五月蠅くなった。心配そうな雫達の声も半分以上聞こえな
い。
保健室に向かう廊下が、何処かの祭壇みたいな所に見えたり、雫の顔が
金髪の少女顔になったりとする。自分の身体も徐々に動かなくなり、段
々と水晶に覆われていくのが見える。自分を支えている健一と克己が何
も言わないのをみると、この水晶は自分にしか見えていないのかもしれ
ない。
ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!
・・・・何も出来ない自分が悔しかった
・・・・ただ、逃げる事しかできないのが嫌だった
・・・・何も守れなかった自分が許せなかった
心臓が早くなるにつれて、自分かまたは別の意志が入り込んで来る
ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!ドク
ンッ!ドクンッ!
これ以上早く動いたら心臓が壊れてしまうというほど心臓が早く動いて
・・
ドクンッ!
・・・こんな悲しい顔をさせている自分が悔しかった
大きく心臓が鳴って徐々に視界が暗くなっていった。