生徒会長と副会長
・・・・そして何事もなく入学式は終わった。
ガヤガヤと新入生が出て行く体育館の入り口で、進行の邪魔にならない
場所で命達を待つ。ちなみに、父さんから渡されたビデオカメラには、
しっかりと入学式の映像を映してある。これで、後から父さんや芽衣さ
んに文句を言われる心配はない。
「遅いなぁ。やっぱり三家の本家って言うのは目立つんだなぁ」
健一が横に立ちながら体育館の中を覗いている。
体育館の中には朝の校庭の様に命達を中心に人垣ができていた。
「・・・あぁ、AクラスかBクラスの人達だろ?お前も去年は似たよう
な状況になったじゃないか」
健一は身長が高く、すらりとした体格をしている。顔も美系でいわゆる
イケメンと言われる分類だ。神楽家の分家とはいえ、神楽家本家の次に
発言権があった武藤家。兵藤家と遠藤家に分かれてしまったがそれでも
まだ、強い発言権を持っている。そんな、兵藤家次期当主のイケメン青
年が注目される事は必然だった。
「まぁな。当事者だから分かるが、あれは決して良いもんじゃないな・
・下心を隠したままで近付いて来る奴とか客寄せパンダみたいに物珍し
げに見てくる奴らばかりだ。まぁ、一割程度ぐらいは真剣に来る奴らも
いたけどな」
去年の苦労を思い出しているのか少し苦笑している。
「でも、もうそろそろ移動しないと間に合わなくなるじゃないか?」
「だよなぁ」
健一の言葉で腕時計を見ればもうそろそろ体育館を出て教室に移動しな
いといけない時間となっている。新入生は、一旦教室に戻り明日からの
スケジュールを確認してから解散となっている。ちなみに保護者同伴で
も良いが、自分達は校庭の所で待つ事にしていた。
命達(命、志乃、あかね)は、あまりの事にパニックになっていて人垣
の中から上手く抜け出す事が出来ないでいた。
「何をしているのですか貴方達は・・・」
さすがに声を掛けようかと決心した時に、鋭い女性の声が体育館の中に
響いた。
別に怒鳴り声では無かったのだが、ガヤガヤと五月蠅かった喧騒が一瞬
にして静かになる。騒いでいた生徒達は一斉に声が聞こえた方向を向いた
。その女子生徒は、黒い髪を後ろで結び少し幼さが残っている顔をしてい
た。体格はすらりとしたモデル型、街を歩けば異性だけではなく同性の女
性までもが一度は振り向いてしまうほどの美人だった。
その女子生徒は一斉に向けられた視線を難なく受け止め優雅に歩いて来る。
三年生である証の黄色いリボンをして腕には生徒会員である証の腕章を付
けていた。誰もが見惚れる程のこの女子生徒は、神鳴学園の生徒会長、神
奈雫だった。その後ろには体格の良い男子生徒副会長の神童克己がいた。
「浮かれる気持ちは分かりますが、時と場所を考えて下さい。貴方達が
今するべき事はここでおしゃべりをする事ですか?」
決して上から抑えつける言い方ではなくて、あくまで諭すように優しく
声を掛ける。
命達の人垣となっていた生徒達は慌てたように一斉に謝り次々と体育館
の外へと出て行った。残されたのは、人垣の中心になっていた命、志乃
、あかねと生徒会長雫と副会長の克己そして体育館の入口に立っている
健一と俺だけとなった。ちなみに、この七人は本家分家関係なく仲の良
い親友同士でもある。
「ほら、貴方達も行きなさい。今日は大目に見ますが、今度からは自分
達でちゃんと対処しないといけませんよ。特に命ちゃんは、神楽家次期
当主として見られて行くのですから」
「はい、すみません・・雫姉さま。克己兄さまも迷惑を掛けてしまいま
した」
「いや、俺は・・・ただ、雫の後を付いていただけだからな」
雫の言葉を聞いて頭を下げる命に対して克己は何でもないように首を振
る。神童克己、神童家の次期当主は一目見ただけで鍛えていると分かる
体系をしているが、なぜかむさ苦しさを感じさせない。女子生徒の間で
は、健一と二人並んでかなり人気がある。
「・・ありがとうございます。それでは私達も失礼します」
命達はもう一度、雫達にお礼をして体育館から出てくる。外で待ってい
た俺達に気が付いた様子だったが、時間がないのだろう軽く頭を下げる
程度の挨拶だけして行った。