入学式の前に
食卓の上には、ご飯、味噌汁、焼魚に漬物と純和風の朝食が並んでいた。
「いただきます」
皆が席に着いたのを確認して一緒に唱和する。いつもは、俺、命、志乃
の三人で食事をするのだが、今日は俺の父親の神鳴純一と命の母親神楽
芽衣も一緒に食卓についている。ちなみに、いつも食事は命が作ってく
れているがさすがに今日は母親の芽衣が作っていた。
「おっ・・おいしい」
味噌汁を飲んですぐに違いが分かった。いつも作っている命のご飯がま
ずいというわけではないが(て言うか凄く美味しいが)さすが母親、少
しランクが違う
「・・まだまだだなぁ~・・・どうやったらこの味がでるかなぁ?」
命はしきりに首を傾げながら黙々と食べている。偶に母親にどうやった
ら美味しくなるか聞いている。
「ところで、父さん。今日は調子いいの?」
ゆっくりとしたペースで食事をしていた父さんに確認する。この親は、
自分が病気だという事を自覚しながら無理をするから目が離せないのだ
。どうせ、今日も命と志乃の入学式だからといって、学校まで行けない
からせめて朝食だけでもと思ったに違いない。そう言う所は好きだが、
自分の体を少しは考えてほしいと思う。
「はは・・大丈夫だよ。逆にずっと寝ていたらそれこそ身体に悪そうだ」
そう爽やかに言っているが、俺の父親センサーによれば調子が良い時の
四割程度、少し無理をしている程度だと分かる。現に隣に座っている芽
衣さんが父さんの事を心配そうにみている。
俺の両親と命の両親は四人とも幼馴染同士だったらしい。小さい頃に俺
は母親を命は父親を亡くしている。俺が“心刀の儀”を失敗して本家か
ら追い出された時に手を指し延ばしてくれたのが芽衣さんだった。どち
らも最愛の片割れを亡くしていた為かすぐに恋仲になっている事はバレ
バレなのだが、どちらも再婚をしようという気はないみたいだ。命が前
に一度理由を尋ねた事があったが、芽衣さんが
「再婚したら、進一君と本当の兄妹になれるけど、本当の兄妹になって
しまったら後悔する事になるよ」
と笑いながら命に言っていた。その時命は顔を赤くさせて俯いてしまっ
たが、いまだにどうしてだか分からない。
「・・分かったよ。芽衣さんにあまり迷惑掛けるなよ」
「はいはい、分かってますよ。・・・ところで進一?お前機械は詳しか
ったか?」
そう言って、父親はおもむろに机の上にビデオカメラを置いた。いつ買
ったのか最新式だ。
「説明書を読めば撮ることなら出来そうだな・・・分かった、撮るから
・・撮ってくるから落ち着けって」
病人とは思えない程目をランランとさせて迫ってくる父さんを抑える。
芽衣さんもそうだが父さんも子供達の事を本当の子供として接してくれ
る。それが本当にありがたい。
・・・・落ちこぼれの俺と病気の父さんの事を悪く言う人は結構いるの
だ。
「ごちそうさまでした」
いつもより騒がしい朝食が終わり、出発の時間になった。
父さんは少し顔色が悪くなっているが、命達の制服姿をみたいのか芽衣
さんに支えながら外に出て来た。
・・・そう言えば自分の入学式の時も無理やり出てきていたような気が
する。
どたばたと慌てて準備をしている音が聞こえてくる。朝食の時に準備を
しとけばよかったんだが、「朝ごはんの時に、制服が汚れてしまうかも
しれないから」と断固して聞かなかったのだ。他の人に見せるのだから
汚したくないというのは分からなくもないけどな。
神楽家の次期当主とその付き人じゃぁやっぱり違うってことだろ。
でも、それで遅刻ギリギリなのはどうかと思うけどな
「ほれ!遅刻するぞ~」
「ちょっと待って下さい~」
慌てている命の声を聞きながら微笑ましい感じになった。ちなみに俺は
、今日はただの付き添いだから準備なんていらない。隣には、先程準備
が整った志乃が並んで立っている。俺より頭一つ分ぐらい小さいこの身
体でどこにあんな力があるのかと朝の訓練の事を思い出していたら、志
乃がこちらを向いた。
「・・・なにか」
幾分朝より少し冷たく言って来た。自分から頼んでいるとはいえやはり
胸に来る。言わせている本人がこれじゃぁダメだとは分かってはいるん
だけど。言っている方はもっときつい筈だから・・・志乃が喜んでなけ
れば良いなぁと思う。
「・・・いいや」
だから、何でもないように答える。若干こっちも冷たく返したら
「・・・・・」
暗くなりそうな表情を必死に隠そうと頑張ってはいるんだが、良く見れ
ばショックを受けていた。多分、付き合いが長い連中じゃないと分から
ない程度だが・・・
「・・・・・」
その姿を見たら、昔、志乃が落ち込んでいた時にしていた癖が出てしま
い。・・・あっいかん。つい頭を撫でてしまった。志乃は今度は、顔を
にやけるのを我慢しているみたいだ。
そんな志乃の姿に萌え死にそうになっている時に、やっと命が出て来た。
「どうですか、お兄様?」
玄関から出て来た命は志乃の隣に並んで一緒のポーズをとる。志乃も少
し恥ずかしそうだ。
ってか、親より先に俺に見せるのはどうかと思うのですが。嬉しいから
良いけど。父さんと芽衣さんも苦笑している。
今日から命達が通う学園“神鳴学園”。その女子生徒の制服は、可愛い
と周りの学校からも評判が高い。少し大きめの胸のリボンが特徴な上着
とチェックのスカートにニーソックスそんな制服だった。一年上の別の
幼馴染のこの姿はみた事はあるが、それとは別に見惚れてしまった。
その人は、綺麗なんだけど
「・・可愛い」
無意識のうちに言葉が漏れてしまった。
「あ、ありがとうございます」
「・・・・」
二人としっかりと聞こえたらしく、顔を赤くして俯いている。
「はいはい・・・写真を撮るから並んで並んで」
三脚を立てながら芽衣さんが声を掛けてくる。命と志乃を真ん中に、後
ろで父さんを真ん中で右が俺で左を芽衣さんが支えて立つ。
フラッシュと一緒に皆良い笑顔で写真が出来た。