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私達の王さまになりなさい!  作者: 宇井琉尊
第一部 第一章 夢の中の少女と落ちこぼれの少年
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ちょっとした朝のハプニング

「・・・さ・ま。・・・・お・・・様・・・おき・・く・・い。」


意識が夢から現実に帰って来た事を自覚する。


「ちょ・・!おにい・・ま・・・起きて・・さい」


意識が回復するにつれて聞き覚えのある声が聞こえてくる。


「お兄様!起きて下さい・・お兄様・・」


俺の事をお兄様と呼ぶのは今の所一人しかいない。神楽家本家の一人娘

の命だ。数年前“心刀の儀”を失敗した俺と父親は神鳴家本家にいられ

なくなった。そこで、父親の幼馴染である神楽家の当主の家にお世話に

なる事になったのだ。その当時から、命は俺の事を“お兄様”と呼んで

いる。どうやら優しい兄が欲しかったみたいだ。自分が優しい兄になれ

ているか分からないが、俺も命の事は大切な妹として思っている。


「ん~~~」


あの夢から覚める時は少し頭が回らない。現実みたいな夢と本当の現実

を頭が理解するまで少し混乱するのだ。現にまだ、自分の右手には柔ら

かい感触が残っている。


「お兄様~起きて下さい~・・・じゃないと・・」


命の朝は早い。神楽家次期当主の命は日が昇るよりも早くから敷地内に

ある井戸水で体を清めないといけないからだ。俺もその時間に起きて自

主訓練やバイトの準備をしないといけないからいつも命に起して貰って

いるのだ。早く起きないといけない事は分かってはいるのだが昨日も夜

遅くまでバイトをしていたので中々起きる事が出来ない。


「お兄様~~お~き~て~ください~・・・・ひぅ~」


しまった!命が泣きそうになっている!!

早く起きようとしてまだ残っている右手の感触を振り払う為に力を入れ


「きゃぁ!」


少し右手を動かしたら、命の恥ずかしい様な声が聞こえた。右手にはまだ

シルクの柔らかい手の感触が残っている。


「??」


不思議に思って何度も握ったりして確認してみるが、落ち着いて考えてみ

れば手の感触ではなかった。手より柔らかく、それでいて張りがある。

同時に今まで感じられなかった他の感覚が戻ってくる。男からは決して

嗅ぐ事が出来ない甘い匂い・・・これは命の匂いだ。それがすぐ近くに

感じられる。そして左腕には人を抱えている様な気が・・・・


「・・・・・」


目を瞑ったまま(怖くて目が開けられない)たらりと冷や汗が出てくる。


「おにぃさま~~」


泣き声の様な甘えた声で命が呼びかけてくる。吐息が感じられる程近く

で・・


「・・・・うわぁ・・・」


ゆっくりと目を開けると想像通りの光景があった。

つまり、寝ている所に近付いて俺を起そうとしたのであろう命を左手で

抱きかかえて、さらに動けなくなった命の胸を右手で鷲掴みしている状

態だった。命の顔はすぐ近くにあって目が濡れていた。頬も赤く染めて

おり見方によっては欲情しているみたいに見える。


「うわぁ!すまん!」


慌てて手をどけて勢いよく起き上がる。


「・・・・・・!!!!」


命は顔を真っ赤にしたまま自分の体を守るように体を丸める。

このまま禊ぎにいくのか薄い生地の白い装束のを着ており、長い黒髪と

紅い顔が目立っている。俺が触ったと思われる胸は、一個下の同学年よ

りは少し発育が良いらしく薄い浴衣では隠し切れていなかった。


「あぁ・・・すまん。悪かった」


視線をどこに向ければ良いのか分からず、頭を掻きながら改めて謝る。


「・・・いえ、お気になさらないでください」


まだちょっと顔が赤いまま立ち上がる。乱れた着衣を戻し改めて頭を下

げる。


「おはようございます、お兄様。本日から宜しくお願い致します」


改めて命を見る。黒い長髪を腰まで下ろし、しっかりと脚をそろえて両

手を前に組んで綺麗な礼をしている。その立ち姿はさすが神楽家の次期

当主と言うところだろう。身長はそれ程高くなく、俺の肩ぐらいに頭が

来るぐらいだ。そして、同学年の子より発育している胸が礼をした瞬間

着物の隙間からちらりと見えた。・・・・下着はまだ付けてないようだ。


「あぁ!おはよう。・・・・そうか、今日からか」


慌てて視線を反らしながら、壁に立てかけているカレンダーを見る。今

日は、命の入学式だ。


「はい。やっとお兄様と一緒の学園ですのですごく楽しみです」

「ははは・・・」


前の学校はそれぞれ別だったから良かったんだが、あまり学園の俺の姿

は命には見せたくない。だから、乾いた声で笑うしかなかった。


「では、先に失礼いたします」

「おう、がんばれよ」

「はい、お兄様も頑張ってください」


そう言って、笑顔と共に部屋を出て行った。


「よしっ!俺も準備をするか」


自分に活を入れて朝のお勤めの準備をしていく。


「まだ、ちょっと寒いな・・」


全身ジャージに着替えて屋敷の外に出る。まだ、日の出も拝む事が出来

ない。


「じゃぁ行きますか!」


軽くストレッチを終えた後走り出す。早くもなく遅くもなく一定のスピ

ードで走りだす。冷たい空気が肺に入り込んで痛いような、清々しいよ

うな微妙な感じがるす。でも、決して不快じゃなく俺はこの朝のランニ

ングが好きだった。


「おはようございます」


軽く十キロを走って目的地に着く。


「おはようさん。今日も走って来たのか・・若いっていいねぇ」


奥から眼鏡を掛けた男が出て来た。無精ひげを生やしてまだ眠たそうだ

。この男性は永浜新聞の店長だ。ここで、学園に入ってから毎日早朝の

新聞配達のバイトをさせて貰っている。


「おはようございます。・・じゃぁいつも通り行ってきます」

「はいはい、気を付けろよ」


店長から新聞を受け取り外にでる。皆バイクやら自転車やらで行く中俺

は走っていく。別に近い所だけ回っている訳じゃない。どちらかと言う

と一番遠い場所を担当している。


「よし!少し本気で走りますか」


来る時より少し早めに走り出す。残りの新聞の数と時間を見ながら配っ

ていく。もう少ししたら日の出が拝めそうだ。明るくなり始めた街を結

構の速さで走っていく。


「ふぅ・・・到着っと」


新聞配達が終わり、そのまま流す程度の速さで屋敷まで帰ってくる。急

には止まらないでゆっくりと歩きながら庭のある場所に向かう。


「・・・早かったですね」

「ちょっとペースを早くしてみたんだよ。ちょっときつかったけど何と

かなりそうだな」


屋敷の裏側、他の人が来ても気付かない所に少し広めの場所があった。

そこには、俺を待つように立っていた一人の少女がいた。

風間志乃、元々は俺が神鳴家にいた頃に俺に仕えていた忍だ。今はいろ

いろあって、俺じゃなくて命について貰っている。歳は命と同じで俺よ

り一つ年下だ。


「・・そうですか・・昨夜も遅くに帰ってきてますのでお体には十分お

気お付けて下さい」

「はは・・・分かっているよ、ありがとう。でも・・」


少し心配そうな表情で聞いて来る志乃に対してお礼を言うがすぐに表情

を改める。


「・・・・分かっております」


志乃は少し複雑そうな表情になる。

まぁ志乃にとってはまだ納得できない事は分かってはいんだけどねぇと

内心思いながらもこれだけは俺も譲れない。


「まぁ誰もいない時はいいさ・・・俺は志乃と本当に仲違いしたい訳じ

ゃないからな」

「・・・はい」


少し照れたように俯く。志乃は髪を短く切り揃えており動く時に邪魔に

ならないようにしている。身長は命より少し小さく、ほっそりとした体

をしている。そんな表情を見ていれば歳相応の少女にみえるのだが


「時に進一様・・今朝は早くからお盛んだったようで」


顔を上げた志乃はさっきまでの柔らかい雰囲気を吹き飛ばし鋭い眼光を

飛ばしてくる。中々のプレッシャーだ。気配を断って相手に近付く忍に

はあるまじき行為だ。


「いやいや!あれは事故!不可抗力!!」


あまりのプレッシャーに一歩下がると、志乃も一歩前に出る。


「進一様から命様をお守りするよう言われている身。進一様本人だとし

ても許されないと思うのですが・・・いかがでしょう?」

「そ、そうですね。お互いの同意がなければいけないと思います」


また一歩志乃が前に出て、その分俺が一歩下がる。


「・・・成敗!」

「ご、ごめんなさ~い」


一気に踏み込んできた志乃を躱ながら必死に逃げる。

朝ごはんの準備ができたと命が迎えにくるまでこの地獄の鬼ごっこは続

いたのであった。

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