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私達の王さまになりなさい!  作者: 宇井琉尊
第三章 探し物の正体
27/38

シルクの覚悟

お互いに顔を赤くして顔を背けるが、まだ話は終わっていない。シルク

に目線で話を促すがシルクはぽかんとして表情になる


「まだ・・お話する事がありましたか?」

「・・・本気で言っているのか・・・」


多分、今まで言えなかった事を言えた事でほっとしているのだろう。そ

れとも、自分の事だから気が付かないのだろうか


「・・今度は、シルクの事だよ。君は今どういった状況なんだい?」

自分の事も聞きたかったが、それ以上に俺はこの事を聞きに来たのだ。

「・・・えぇ~と・・・そうでした。シンイチ様は私のあの姿を見たの

でしたね・・もう、リアラはあの場所から持ってきただけならまだしも

シンイチ様に見せるなんて・・・もう少し良い洋服を着ていれば良かっ

たかなぁ・・・どう思います?」

「いや~あれはあれでシルクに似合っているんじゃないかと・・・って

違う!その事は一旦置いといて・・どうしてあぁ言う状況になっている

かを説明してくれ」


なんか少しリアラが横道にそれそうになるのを強制的に戻す。


「うぅ・・女である私にとってはとても重要な事なのですが・・・」


何やら小言で言っているがはっきりとは聞こえない。


「・・こほんっ・・それでは真面目な話に戻ります」

「・・あぁ頼むよ」


やっとしっかりと戻って来たシルクをみて頷く


「と言われても、先程リアラが説明した内容でほぼ間違いないです。ど

こからか宝剣がなくなっていない事が漏れたのでしょう。数日前、私達

の国は“血刀の集団”に襲われました。丁度その時、国の騎士達は別の

用件で国を離れていました。国に残っていたのはわずかな騎士と戦う能

力が低い者達だけでした。同盟国も今だいない私たちでは、あの集団を

食い止めておく事すらできず、ただ逃げる事しかできませんでした。・

・・・あの集団の目的は確実に私でした。ですので、誰にも触れること

のできない状態になれば諦めてくれると思っていたのですが、考えが甘

かったようですね」


今度はリアラが狙われてしまいました。と顔を伏せる。でもそれは多分

、リアラがシルクの入った結晶を敵に見つかる前に持ち出した事も原因

だと思う。探していた人物がいなくなった。そう言う事になれば必死に

探し、シルクの傍にいつもいたリアラに目を付けるのは当たり前の事だ

った。もしかすると、結晶に入ったシルクの姿を見れば諦めたのかもし

れないのだ。でも


「・・・そうだな。あいつ等が、結晶に入ったシルクを見ても諦めると

は到底思えない。だからシルクは頑張らないのいけなかったんだ。一族

を守る事、宝剣を守る事、そして・・・・自分の命を守る事を一生懸命

に」

「・・はい。その通りです。」


シルクは逃げた。自分ではどうしようもない事から何者にも接触できな

い結晶の中へと。まだ成人していない自分と同じ歳の娘に言う事ではな

いけど、シルクは一族を守る立場にあったのだ。だからこそシルクは考

えないといけなかったのだ。


「私もこの中に入って後悔しました。自分は間違った選択をしてしまっ

たのだと」

「いや間違いではないと思う。混乱するかもしれないけど、間違いじゃ

ないけど正しくなかったんだ。自分の選んだ選択を決めるのは自分だ。

だから、最後まで自分でいる事から逃げてはダメなんだよ」


周りから落ちこぼれとして見られ、それでも自分の周りには自分の事を

心配してくれる人が沢山いてくれた。その人達の為にもがむしゃらに頑

張った。自分の為でもあったけどそれ以上に自分の味方になってくれた

人達に恩返しをしたかったからだ。だから、今も頑張る。胸を張って頑

張っていると大きな声で言えるように・・・自分でいられる様に過ごし

てる。


「・・・シンイチ様はお強いですね。もし、シンイチ様が私の立場だっ

たらもっと他の選択をしていたのかもしれません」

「それは違うよ。俺は強くない、ただ強くあろうとしているだけだ。ま

ぁ俺もこの選択が良かったのか悩んでいる事があるんだけどね」

「シンイチ様の悩み事ですか・・・少し興味があります」

「・・・・まぁ今はそれは置いておこう」


自分の考えを隠して命やあかねに学校生活のあれこれの事だ。いつか近

いうちに相談するかもしれない。・・・・女心は非常に難しい


「話はもどすけど、あの結晶はどうやったら解けるんだ」

「・・・それは簡単です。私があの扉から出て行って自分の身体に戻れ

ば結晶化は解けます」


シルクは自分の後ろを振り返って遠くにある扉を指差す。


「なら話は簡単じゃないか。早くその扉を出て行ってリアラを喜ばせれ

ば良い」

「・・・・それはできません」


これで一見落着と思っていたが、帰って来たのはそれを否定する言葉だ

った。


「なぜだ。君は早くここから出て自分の身体に戻ってやらないといけな

い事が沢山ある筈だ」

「・・・・はい」

「ここにいる事は逃げている事だ。その事に後悔しているんじゃないの

か」

「・・・・はい」

「・・シルクがここにいればリアラが狙われ続ける。それが分かってい

て言っているのか」

「・・・・はい」


正直自分の質問の仕方も卑怯だと思うけどそれでもシルクは首を縦に振

らない。


「・・・・なんでだ」

「・・・それは・・」

そのまま口を閉じるシルク。

正直訳が分からない。


「血刀の集団の事か?・・それなら尚更ここから早く出ないといけない」

「・・・・・・・」

「・・・・俺の身体の事か・・・」


ビクッ!


小さく呟いた声に少しだけ、ほんの少し、じっと見てないと分からない

程度に肩がかすかに動く。それをみて確信する。

少し考えて・・っていうよりもうこれしかない。シルクはここに逃げ込

んだ事を後悔している。だから、その時点で本当は帰る事が出来たのだ

。でも、それをせずにここに留まっている。なら答えは簡単だ。問題が

あるのがシルク側じゃなくてこちら側。つまり俺の身体と言う事になる。


「話してくれ・・・頼む・・」

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・

「・・・・はい」


ずっと黙っていたシルクがやっと声を出してくれた


「ここに入って後悔した事が幾つかあります。一つはここに入った瞬間

にシンイチ様の身体に一方的に負担が掛かってしまった事です。今は私

が調節してますがこれもいつまで保つか分かりません」


一昨日に急に倒れてしまった事だろう。でもそれは


「はい、私がここを出ていけばすぐに解決する事です。今まではこの扉

もなかったのですが、リアラが私の身体を近くに出した事によって帰る

事が出来るようになりました」

「だったら尚更・・・」

「ですが、それ以上に私がここを出れば取り返しの着かない事になって

しまうのです」


そう言って口を閉じる。なかなか言いづらい事の様だ。


「・・・私がここに入った事でシンイチ様の中に眠っている力のバラン

スが崩れてしまいました」


そう言ってシルクが手をかざすと四本の武器が出現した。一つは大きな

剣、それを囲むように、刀、太刀、双刀が浮いている。


「これは分かりやすくシンイチ様の身体の中にある力を具現化したもの

です。真ん中の大きな剣はこれはお分かりになると思いますが“帝龍剣

”私達の宝剣です。そして残りの三本は・・・」

「・・・俺の神具だ」


その三本の刀を見て呆然と言葉を零す。なぜならそこに浮いていたのは

、心刀の儀で自分が受け入れる筈だった神具の形をしていたからだ。初

の三本同時と言う事で、三家の特徴を持った神具が用意されていた。神

鳴家の刀、神童家の太刀、神楽家の舞踏用の双刀、それぞれの家が協力

して作ったこの神具はこの世に二つとない物だ


「・・嘘だ。俺の神具は・・・・眼の前で壊されたはず・・・」


心刀の儀を失敗した者は、次期当主としての座を無くすと同時に己の神

具も壊される。元々、その人にあった神具を作るのだから残してもしょ

うがないのだ。だから、俺も目の前で無残に壊される己の神具を見てい

るのだ。


「・・・はい。私もシンイチ様から話を聞いていたのでこの三本の刀が

ある事に驚いたのですが・・・それと同時に納得もしました」

「何がだ」

「私は不思議に思っていた事があります。“帝龍剣”をその身に宿して

誰にも気付かれず過ごす事が本当にできるのかと言う事です。“帝龍剣

”はとても大きな力を宿しています。ですので、私は常にその力を抑え

る法具を身に付けています」


そう言って右の腕に光る腕輪を見せる。


「ですが、シンイチ様は何もされていない。剣の事やいろいろ隠してい

た私は今までその事を聞く事が出来なかったのですが・・・この三本の

刀が“帝龍剣”の力を完璧に抑え込んでいます。その所為でシンイチ様

の神気は人よりもかなり少なくなってしまっているのですが」


シルクの翳している手の上では、大きくなろうとする帝龍剣を他の周り

の刀が必死に抑え込もうとしているのが分かる。


「じゃぁあの時壊された刀は・・・」

「多分偽物かと・・」

「なんでだ・・・なんでそんな事を・・・」


もしこれが本当なら心刀の儀は成功していた事になる。神鳴家を追い出

される事もなく、落ちこぼれとして周りから虐げられる事もなかったは

ずだ。


「シンイチ様はその心刀の儀と言う儀式を詳しく説明する事が出来ます

か?」

「・・・それは・・・」


嫌な方向へ考えが流れそうになる思考を止めて取り敢えずシルクの話を

聞く。でも、シルクのその質問に答える事が出来ない。なぜなら、心刀

の儀の記憶が一切ないからだ。現当主に呼ばれ、関係者がいる中でこれ

からのする儀式の説明を受けた事までは覚えているのだが、その後は記

憶になく、ただ、失敗したという事と神具をその場で壊された事しか記

憶にないのだ。今までは、失敗した事を無意識に思い出さないようにし

ているだけだと思っていたが、そう言われれば確かに不思議な感じがす

る。


「・・・いい・・・その事は後で父さんに聞く。・・・それとシルクが

出て行かない理由は関係あるのか」

「・・はい。帝龍剣とこの三本の刀は絶妙なバランスで調和を取ってい

ました。ですが、私が帝龍剣に関与した事でそのバランスが崩れてしま

いました。今は私が調和を取っているので平気ですが・・・」

「その調和が崩れるとどうなる?俺は死ぬのか?」

「いえ、身体は完全に治癒してないとはいえすぐには死ぬ事はないと思

います。ただ、帝龍剣の力を隠す事が出来なくなり、血刀の集団の様な

集団に狙われる危険性があります・・・それに」

「まだあるのか・・・」


正直、血刀の集団みたいな連中に狙われる事になる事は避けたいが、そ

れぐらいなら神楽家に迷惑になる前に自分が神楽家を出ていけばいいだ

けの話だからどうでも良かったのだけどまだ何かあるらしい。


「と言うより、ここからが問題なのですが・・・私が出て行こうとして

いる扉。この扉が帝龍剣の力を逃がしてしまう穴になってしまうのです」


帝龍剣の力がその扉から外に出るという事は、抑え込まれていた自分の

神気を取り出せるという事だ。


「どうしてそれが問題なんだ?」


俺にとっては逆にうれしい事の様に聞こえるが、シルクの表情がそうで

はないと言っている。


「・・・先程、説明したように帝龍剣の力はシンイチ様の神気と同調し

てシンイチ様の身体の修復に使われています。その力が一時とはいえ外

へ出るという事は・・・」

「・・その間は身体の治癒に使われている力が衰える」

「そうです。正直、帝龍剣と三本の刀の調和が乱れる事は、相手に気付

かれる事になったり、風邪みたいに身体が重くなったりとする程度です

が、帝龍剣の力が外に出る事だけはシンイチ様の命にかかわります」

「・・・その力が少しでも外へ抜ければ俺は死ぬのか」

「すぐに死ぬと言う事にはならないと思います。ただ、使い続けると徐

々に身体の崩壊が始まり、使い過ぎると・・・・」

「・・・死ぬか・・」


シルクの話が本当の事か分からないが、シルクがこんな事で嘘を着く様

な人でない事は確かだから信じる事にする。


「でも、だからってシルクがここを出ないという事はあり得ない。俺は

無理矢理でも外へ放り出す・・・ここにシルクが留まれば穴は開かない

と思う。けど、それはシルクの命を掛ける事じゃない」

「・・・なぜその事を」

「ここに来る途中にリアラから聞いた。あの結晶はシルクの存在が消し

てしまうものなんだろ?」


部屋に戻る途中リアラに呼び止められた。俺が何をするつもりなのか見

当はついていないようだったけど、シルクと会うなら絶対に連れてくる

ように頼まれると同時にあの結晶の事を聞かされたのだ。


「ですが!それでは・・」

「ですがも何もない。要するに帝龍剣の力を無暗に外に出さないように

訓練すれば良い。それだけだ」


今までと一緒だ。いつもの修行に神気を抑え込む修行を組み込めばいい

だけだ。もともと、落ちこぼれとして見られている身だ。周りの視線も

生活も何も変わらない。


「血刀の集団が襲ってきたらどうするのですか!?生身の力で勝てる相

手でなないのですよ!」

「それは・・まぁ・・分かっている」

「ではなぜ!」


シルクは興奮しているのか顔を真っ赤にさせながら声を上げる。でも、

その声からは俺の事を真剣に心配している事が分かる。正直俺は幸せな

んだと思う。母さんは死んで父さんは病気になり、落ちこぼれのレッテ

ルを貼られている。でも、そんな事を関係なく接してくれるクラスメイ

トや幼馴染がいる。そして、自分の命と引き換えてでも俺の事を守ろう

としてくれる人がいる。これを幸せと言わず何と言う


「あっ・・」


顔を真っ赤にさせているシルクの頭をゆっくり撫でる。


「大丈夫だ・・・・死にそうになっても生きる事を諦めない。血刀の集

団が襲って来ても、それ以上の敵がやって来ても足掻いて・・足掻いて

・・そして生き残ってやる。だから、大丈夫。シルクはここにいれば確

実に死んでしまうけど・・・俺は足掻いて生き残る事が出来るのだから」

「・・・・シンイチ様は本当にお強いのですね」

「俺は強くない。ただ意地悪く卑しいだけだ」


前にあかねにも言った言葉をシルクにも言う。あかねは怒って去って行

ったがシルクはその言葉を聞いてくすくすと笑い始めた。


「ふっふふ!分かっています。シンイチ様はご自分の立場がどこにある

のかが分かっています。だから使える手段は何でもします。それがいく

ら汚い手だとしても」

「あぁそうだ。俺は決して聖人じゃない」

「ただ、その手を向けるのが自分の大切な人を守る時だけ・・・違いま

すか?」

「・・・・・」


シルクの言葉にぐぅの音も出せない。そこまでは自覚した事はなかった

が、確かに自分の為だけに何かをした事はあまりない。命やあかねに学

園の事を敢えて訂正しなかったのは、自分が嫌われ者になったとしても

自分の目で確かめ自分で決断してほしいからだ。健一は自分で考え自分

の意志で俺のクラスに来る事を決めた。だから俺は何も言わないのだ。


「・・・俺の事はもういいんだよ。帰るぞ」

「ここで嫌だと言ってももう無理なのでしょうね」

「当たり前だ」

「分かりました。では・・・」


シルクから結晶に意識を戻す方法を聞きこの場を去る事にした。が


「・・・・・・早く・・・目ぇ覚ませ俺・・・」


まだ、一時はここにいる事になりそうだった。

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