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私達の王さまになりなさい!  作者: 宇井琉尊
第二章 金髪少女の探し物
22/38

強くなるためには

「結構、頑張りましたね」


立てず這うようにリアラの所へ進んでいると、リアラのすぐ傍の影から

クロムが出て来た。


「やめろ!」


意識が朦朧とする中叫ぶ。

まだ立てない・・・けど必死に・・・無様に・・地面に血を残しながら

這う。


「・・・はて?前にもこのような事があった様な・・・」


クロムはリアラの首に当てていた鎌を離して少し考える様な素振りをす

「・・気のせいですかね・・そうだ一つ思いつきました」


クロムは考えるのを止めてリアラの身体を持ち上げた。そして、そのま

ま壁に向かって投げ付け、すぐさま小さな鎌を五本投げた


「やめろっ!!」


カッカッカッカッカッ!


両手・両足そして首の所に鎌が刺さった。正確にはその壁に刺さったの

だが・・・リアラは両手両足を大きく広げた状態で張り付け状態になっ

てしまった。


「今夜最後の余興です」


クロムはゆっくりとリアラの所へ歩き出し、途中落ちてあった俺のナイ

フを拾う


「人が手っ取り早く強くなる為には何が必要だと思いますか?」


クロムは拾ったナイフをリアラのぼろぼろになった服に当てて徐々に下

げて行く。

止めろと叫んでもナイフは止まらない。ただ、惨めに、無様に這って行

くしかできない


・・・・何も出来ない自分が悔しかった


「努力?根性?いいえ違います。ましては愛など聞かされた時は鳥肌が

立ったのを思い出します」


ジリジリとナイフが下がるにつれて、リアラの白い肌が見えてくる。

リアラはまだ意識を取り戻さない。もっと自分が戦う事が出来たら、せ

めて足手纏いじゃない程度に戦えたらこんな事にはならなかったかもし

れない


・・・・まともに戦えず、逃げる事しかできないのが嫌だった


「じゃぁ何か・・・それは“憎悪”です。これだけで人は強くなれる。

そうは思いませんか?」


ナイフが下まで通りらパサリと服が地面に落ちた。

リアラは月に照らされながら下着姿になってしまった。

クロム達の結界のお陰で、周りに人はいないがそれでもリアラの意志と

は関係なくこんな辱めを受けさせてしまった事が許せなかった。


・・・・何も守れなかった自分が許せなかった


「あなたは強くなる。強い武器もなく自分の方が各下だと思ってもなお

、私に向かってくるその意志。すばらしい!」


そこでやっとリアラが目を覚ました。状況を理解する為に周りをみてす

ぐにどういう状況なのか理解した。そして、無様に這っているこっちを

みて


「・・・・ごめんなさい」


と小さく呟いた。それはとても小さい声だけど、消える様な小さな声だ

けど、俺の耳にはすごく大きく聞こえた


・・・こんな悲しい顔をさせている自分が悔しかった


そこで思い出した。思い出す事が出来た。

数年前、隠れて夜遅くまで修行をした帰り道に一人のリアラと同じよう

な髪型をした銀髪の少女を助けた事を・・・そして、その時自分は・・・


「あぁぁ!!あぁぁぁ!!!」


無意識に口から声が出た。立てなかった両足に力を入れて血を出しなが

ら立ち上がる


「そうです!私を憎みなさい!そして私を殺しなさい!その時あなたは

、今よりずっと強くなる!」


もう、クロムが何を言っているのか分からない。興味もない。ただ、も

う二度と同じ過ちをしないとそれだけを考える


「・・何をしているの!逃げなさい!この人達の狙いは私です。貴方に

は関係ないことでしょ」


リアラが何か言っているけど当然無視だ。というより、今日一日手伝っ

たのに関係ないと言われて逆に頭に来た。


「うるさいっ!関係ないなんて言わせない。言わせてやるもんか!」


悦に入っていたクロムも逃げろと言っていたリアラも俺の大声を聞いて

驚いている。


「リアラ、お前に一つ聞きたい事がある。そして、一つ言わないといけ

ない事がある・・・だから、一緒に帰るぞ」

「・・・えぇ分かったわ」


リアラは一瞬呆けていたが俺の顔をみてしっかりと頷いた


「・・この状態で一体どうするのですか?」


クロムはそんな光景をみて首を傾げている。


「あんたとは二度目だな・・・再会を分かち合いたいが一撃で仕留めて

やる」

「ほう・・今のあなたに私を倒す事が出来るのですか」

「できるさ」


その瞬間周りの空気が重たくなった。クロムはナイフを捨てて鎌を持っ

た。


「あなたなら、あの魔剣を使いこなす事が出来ると思ったのですが・・」


クロムが影の中に入る瞬間に飛び出す。

神鳴家体術“矢足”

ゼロ動作から一気に加速する。胸や足やらの傷が開いて血が出るが我慢

する。


「うぉぉぉぉ!!」

「影に入る前なら倒せるとも思っているのですか・・」


クロムは本当にがっかりした様な表情になる。

でも、それでいい。存分に俺の事を見下せば良い。それだけ、俺の勝率

は上がるのだ。

結局間に合わずクロムは影の中へと入って行った。


「あっちか!」


影の中に消えたクロムを一切気にせず周りを見渡して目的な場所を見つ

けて走り出す。その途中で落ちていた自分のナイフも拾うのを忘れない

。もともと、ここに来たのはこれを取りに来るためだ。


「その様な小さなナイフで倒せると思っているのですか」


周りの影という影からクロムの声が聞こえてくる。


「あぁこいつで十分だ」

「・・・・そうですか」


・・・くるっ!


急激に殺気が強くなり咄嗟に地面を転がる。今まで自分の首があった所

を黒い鎌が通り過ぎる。危機一髪だった。

元々、クロムの気配は俺には感知できない。だから、敢えて挑発めいた

言葉を繰り返し、気配を殺せない程怒らせたのだ。

・・・まだ目的の場所まで遠い。自分の体力を考えても本当にギリギリ

だ。


「いいでしょう・・敢えてその手に乗って差し上げます」

まだ余裕なのか、自分の感情をコントロールされている事に気付いたが

敢えて、こっちの思惑に乗って来てくれた。


「ありが・・たいねっ!」


転がり、跳ねて、走っる。格好なんて気にせずに目的の場所までただ走

る。

もうすぐ、目的の場所だという時に背後から物凄い殺気を感じた。


「シンイチ!後ろ!」


リアラの叫び声が聞こえるが反応する暇はない。すこし、早いがこちら

も行動に移す。

上着のポケットからもう一つのナイフを取り出して素早く街灯に投げつ

ける。


「光を消せば不利になるのは貴方ですよ」


影や暗闇を移動できるクロムにとっては、街灯はない方がいいのであろ

う。

ナイフはそのまま真っ直ぐに飛んで街灯に刺さり、周りは暗くなった。


「・・・終わりです」


後ろにあった殺気が強くなる。今から振り向いてももう遅い。賭けに勝

つことだけを信じてただ前だけをみる。鎌が俺の命を刈っていく瞬間


カッ!


急に後ろから光が照らされた。

月明かりの所為で後ろにあった俺の影は後ろからの光で前に来るように

なる。当然、影を利用して攻撃していたクロムごとだ。


「なっ!」


クロムが驚きの声を出すがもう遅い。前後が急に入れ替わった事で動揺

しているクロムの背中にさっき拾って右手に持っていたナイフを刺す


「ぐぅ!」


確かな手応えを感じてすぐさま後ろに飛び去る。


「成程・・・防犯用の街灯ですか」


周りが暗くなると、人がセンサーに触れると勝手に光り出すあれだ。常

に光っている街灯では無かったからクロムも計算に入れていなかったの

だ。でも、少し仕掛けるタイミングが早くて自分の立つ位置と後ろの光

の位置が微妙にずれた為、致命傷を与える事が出来なかった。

でも、それだけで十分だ。時間は稼げた。


「伏せて!」


後ろから力強い声が聞こえて反射的にしゃがみ込む


「・・・羽ばたけ龍騎剣!」


リアラが剣を大きく振り上げているのが見える。剣の刃の所に風が渦に

なって集まって行く。


「・・・“駆けよ疾風”!」


そのまま剣を振り降ろす。すると、全てを吹き飛ばす様に風の塊が物凄

い勢いで飛んでくる


「ぐぁぁぁ!」

「ぐぅう!」


吹き飛ばされないように、地面にしがみ付くがそれでも身体が吹き飛ば

されそうになる。クロムに至っては、自分が刺された事に驚いていても

ろに攻撃を受けて吹き飛んでいた。


「シンイチ!今の内に!」

「わかっている!」


暴風が収まらない内に無理やり身体を起して、リアラの所に走る。リア

ラは下着の上に破けた服を胸と腰に巻いた状態という、少しセクシーな

格好になっていた。そして良く見るとあの張り付け状態から無理やり抜

け出したのだろう。手と足そして首には傷が出来ていてそこから血が流

れていた。


「私に見惚れるのは分かるけど後にして!」

「・・・・おう」


本当は怪我の具合をみていただけだけど、見惚れてしまったのも嘘では

無いのでただ頷く事しかできなかった。

そして、そのままこの場所から逃げ出す。


「はぁはぁ!」

「はぁはっぁはぁ!」


二人とも服はボロボロで血も流れている状態だ。リアラに至ってはほぼ

裸と言っていい恰好をしている。その為、人目につかない場所を必死に

走る。

多分、さっきのリアラの攻撃で“斬気”の隊員が気付いた筈だからクロ

ム達も逃げている筈だ。そうとは頭では理解できるがお互いに何も言わ

ず走る。

ある程度あの場所から離れたらリアラが立ち止まった。


「・・・ごめん。もう限界・・」

「・・・あぁ分かった。後は任せろ」


その言葉を聞いて安心したのか崩れるように倒れて来た。そんなリアラ

を受け止めて背中に背負う。正直自分もきついが、男の意地もある。ま

た開いてしまった足の傷をしっかりと止血して歩き出す。まだまだ、家

は遠いのだ。


「はは!ふははっ!思い出しました!あの青年は、あの時の少年なので

すね!」


クロムは廃墟となっているビルの中で愉快そうに笑っている。


「ふぁぁぁ・・なに?もう終わったの?」

「いいえ!いいえ!でも、それ以上に興味深い事がありました」


今まで眠っていたギリムが起きたがクロムは一切気にしない。


「そうです。あの目、あの真っ直ぐな意志。間違いありません。あの少

年です。・・ふははっ!不思議ですね!どうして生きているのでしょう

?あの少年は・・・したはず・・どう思います!!」

「・・知らん、何もないならもう一回寝る」


テンションの高いクロムについて行けず、ギリムはまた寝る事にした。

クロムは稀にこういった風になる事があるのだ。


「不思議です!不思議ですねぇ!」


廃墟のビルにいつまでもクロムの声が響いていた。

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