2度目の戦闘
この声は、あの影から出て来た男の声だ。
「っ!・・飛んで!」
「っ!」
影から足元を刈るように大きな鎌が振るわれるのを寸前で飛んで避ける。
「・・はっ!」
上着の内側のポケットに差しこんでいた折り畳みのナイフを影に投げつ
ける。ナイフが鎌を握っている手に当たる瞬間に影の中に鎌ごと入り「
カンッ」と地面にナイフが当たる音しかしなかった。
「・・・武器は?」
地面を跳ねたナイフを慌てて取りに行ってリアラに聞く。今日はただの
情報収集だったし昼間から刀を持ち歩く訳にもいかなかった為武器はこ
の折り畳みナイフしかない。一方、リアラと言えば俺より軽装な服装で
どこにも武器を隠し持っている様には見えない。それなのにリアラは余
裕を持って立っている
「大丈夫よ。私に任せなさい」
リアラは右手を前に突き出して構える。
「・・・・出番よ“龍騎剣”!」
その言葉と同時に、リアラの胸が光り出しそこから光の粒が右手に集ま
りそして剣の形になった。リアラはその剣を躊躇なく掴み一振りする。
「クッ!」
その瞬間物凄いエネルギーが放出され吹き飛ばされそうになった。
・・・何とか、踏ん張り目を開けると、リアラの手には昨日戦っていた
剣が握られていた。
「おい!その剣は・・」
「話は後で!今は目の前の敵を片付ける事が先!」
確かに、悠長に話している場合では無い。話はこの後だ。
「やはりその剣はいいですね~」
ぬ~と長くなった影法師の中からあの男が出て来た。
「自己紹介がまだでしたね。私は“血刀の集団”の一人、クロムと言い
ます。そしてこちらが」
「ギリエだ」
「「ッ」」
クロムが手を向けると、誰もいないと思っていた場所にあの奇妙な男が
立っていた。
「おや?ギリエが見えてなかったのですか?・・・・それでは私達には
勝てませんよ」
クロムが黒よりも黒い暗闇の様なマントをはためかせる。
「俺今はいいや~」
ギリエは昨日みたいな好戦的ではなく、何処かだるそうにしていた。
「いいでしょう。私一人でも十分の様ですし貴方はそこで休んでいて下
さい」
「はいよ~」
ギリエは道の端っこまで歩いてそのまま地面に横になって眠ってしまっ
た。
「・・・その余裕・・後悔させてあげる」
リアラはギュッと剣を握りしめて前を睨みつける。
リアラは悔しそうだが俺としては二人が一人になってくれて正直ホッと
している。
「では、今夜も楽しんでいきましょう・・・始まりますよ“夜のダンス
パーティー”が」
夕日が沈み始め徐々に薄暗くなってきている。影を移動できるであろう
クロムにとってはかなり有利な状態だ。
「何か策はあるか?」
目の前でゆっくりと影の中に沈み込んでいるクロムをみながらリアラに
声を掛ける。
「・・ない・・万全な態勢だったらいざ知らず、この剣を出すのが精一
杯の今の状態なら逃げる事も危ないかもね」
正直驚いた。もっと好戦的な性格だと思っていたのだが、ちゃんと自分
や周りの事を考えて冷静に今の状況を分析している。
「なら、やる事は一つだ」
「相談は終わりましたか?」
「右ッ!」
ヒュゥン
右側にある電柱の影の中から鎌が襲いかかって来た。
「クッ!!」
右足を地面に円を掻くように反対側まで引いて、左足を軸にその勢いで
身体を回転させて紙一重で鎌を避ける。
「・・ハッ!!」
そして、その勢いを利用したまま右手に持っていたナイフを投げつける。
本当ならさっきみたいに壁に弾かれる筈のナイフが、鎌が出ている影に
刺さっていた。
「おや・・なかなかやりますね。まず、邪魔な貴方から始末しようと思
っていたのですが・・・・昨日も思いましたが・・貴方はそれなりのち
ゃんとした武器があれば相当な実力者になっていたでしょう」
影の中からすこし感心した様なクロムの声が聞こえる。
「そいつはどうも。だけど、俺相手にそんな事を言っているとこの日本
じゃやっていけないぞ。俺の周りは俺以上の実力者ばかりだ」
「それはそれで面白そうですね。ですが、今回は遠慮しときましょう」
クロムの気配が影から消え、ナイフがカランと地面に落ちた。影が人外
の影響を受け無くなった為ナイフが刺さっていられなくなったのだ。
さっき投げたナイフには“神気”を載せていた。人外を倒す為に必要な
この“神気”は、通常ならあり得ない現象に対しても有効なのだ。
ナイフの柄に巻き付けていた細い糸を引っ張り落ちたナイフを引き寄せ
る。
「あなた、結構やるのね」
「いや、今のが精一杯だ。リアラが声を掛けてくれなかったらあの時点
で真っ二つになっていたさ」
手を胸の所に置くと横一線に切り傷が出来ていた。そこまで深くは無い
がその傷からどくどくと血が流れている。さっきの攻撃の時クロムの気
配は全然なかった。いや、正確には俺には感知できなかった。リアラが
声を掛けてくれたおかげで、致命傷にはならなかったが軽症でもない。
これで俺は十分に戦う事が出来なくなってしまった。
でも、なぜか初めて会った筈のに、初めて戦う相手の筈なのに、知って
いるような気がするのだ・・・
「となると・・やっぱりこれしかないか」
リアラは胸の傷をみると、すぐさま判断した。
「ここから、離脱します」
「あぁ!」
多分、ここから生きて帰る為にはそれしか方法ない。俺の傷もそうだが
、昨日から少しの休憩しか取っていない状態では体力が保たないのだ。
「どこに行くのですか」
リアラと一斉に駆け出すと、どこからかクロムの声が聞こえる
「生憎、こっちは予定があるからな!今度からは暇な時に声を掛けてき
てくれ!」
クロムの声に軽口を叩くが、胸の傷の痛みを我慢しながら疲れている身
体に鞭を打って必死に走る。
「その様な事は言わずに・・私のおもてなしを受けて行って下さい」
ヒュゥン
キィン!!
曲がり角の影から鎌が回転しながら飛んで来たのをリアラが剣で弾き飛
ばす。鎌はそのまま地面に出来ていた影に入って行く。
「さぁ、いつまで逃げ切れますか・・・さぁ踊って下さい“黒鎌の演舞”」
ヒュゥン・・キィン!
ヒュゥン・キィン!
「クッ!これじゃ進めない!」
高速で飛んでくる鎌を受け止めながらリアラが呻く。もう完璧に夕日が
沈んでしまって周りは暗闇になっている。しかも、街灯が所々にある為
、影が不規則な所に出来てしまっている。そんな影や暗闇の中から飛ん
でくる鎌を受け止めるのは至難の業だ。
「なかなか、粘りますね・・・それならこれならどうですか」
そんな声が聞こえた瞬間、鎌が影から出てくるスピードが二倍になった。
「・・ッ!」
さすがのリアラも全ての鎌を捌く事が出来なくなって徐々に、服は破れ
傷だらけになって行く。
「この服借り物なの!弁償させられたらどうするの!?私お金持ってな
いのに!」
「今それどころじゃないだろ!?」
「なら、あなたどうにかしてくれる!」
リアラが来ているワンピースの裾は太ももの所までざっくりと切られて
いてさっきから下着がちらちらと見えてしまっている。胸元に視線を上
げるとそこも斬られていて谷間が見えていた。
「・・・・ムリ」
もう服としての大半の機能を失っている服をみて首をふる。
「・・それ、芽衣さんのじゃなくて命のなんだ」
リアラが朝着ているのをみて気付いてはいたが、その服は命が最近買っ
たお気に入りの服で嬉しそうに見せていたのを思い出す。
多分、芽衣さんの服じゃ体型(特に胸)が合わなかったから、命のを無
断で借りたのだろう。芽衣さんはそういう一面も持っているのだ
「なら、これ以上被害が広がらない内にどうにかしてよっ!」
もう既に手遅れの様な気がするし・・助けられるなら助けたいのだが・・
「こっちも精一杯だ!」
こっちだって、指を咥えてただ見ているだけでは無いのだ。大半はリア
ラに向かっているが、しっかりとこっちにも攻撃は飛んでくる。それを
、リアラみたいに剣を持ってないから無様に転がりながら避けているの
だ。リアラの服が傷だらけだとしたら、俺は泥だらけだ。
「まだ、その様な余裕があるのですか・・・でも、もうこちらは飽きて
しまいましたので、もう終わりにしたいと思います」
その言葉と同時に鎌の速さが早くなった。
「がぁあぁ!」
「くっぅ!」
さっきみたいに本数を増やしているのか、それともただスピードを速く
したのか分からないが、避ける事が出来なくなった
ドサッ
「リアラ!」
鎌の攻撃を集中して受けていたリアラがとうとう倒れてしまった。どう
やらまだ息はしているが意識はないようだ。




