雫の答え
「いいのですか?」
「何がですか」
静かになった部屋で雫が窺うように聞いてきた
「あの言葉です。あれは嘘じゃ」
「嘘じゃないですよ。全部が本当というわけではありませんが・・・あ
の言葉も俺の本音ですよ」
雫や志乃、健一と克己には説明をしているから正直に答える。というよ
りも、親しい人から初めてきつい言葉を聞かされて心がどうにかなりそ
うで少しでも心を軽くしようとしたのかもしれない
「・・そうですか」
「俺も一つ聞いて良いですか?」
「なんですか?」
さっきの説明で少しだけ気になる事があった。説明を聞いていた二人は
気付いていたのか分からないが・・・
「さっきの説明、生徒会長としての言葉じゃなくて神奈雫本人としての
言葉だったらどういう説明になりましたか?」
雫は説明をする前にしっかりと前置きをしていた。“生徒会長としての
私”と
だから、それは神奈雫本人の意見じゃない。あくまで生徒会長としての
意見だ。
「ふふっ気付きましたか。あの二人もいつもみたいに冷静だったら気付
いたのでしょうけどね。それ程今日の事がショックだったのでしょう」
俺、健一、克己、雫、命、あかね、志乃は各次期当主として幼馴染とし
て仲良く過ごしてきた。特に命やあかねに対しては過保護というほど世
話を皆でしてきた。だから、命やあかねは自分達の力で格差が生まれて
いる事を今まで知らなかった。特に、俺が儀式を失敗して次期当主の権
利を剥奪されても皆同じ様に接していた事もあって、力の差はあっても
しょうがない、でもそれが見下す、見下される関係になるとは思ってい
なかったのだ。たぶん、その事が一番ショックだったのだろう
「・・かもしれません。でも、命達はこれから各家を引っ張っていかな
いといけない存在です。もう、過保護に守ってやる事はできません」
「だから、取り敢えず社会に出る前に自分が嫌われ者になってでも今の
状況を教えようとしたのですか?それもある意味過保護ですよ」
「・・言ったでしょ、俺はもっと意地悪く卑しいだと」
「そう言う事にしときます。でも案外・・でもないか・・すぐにあの二
人は気付くと思いますよ」
クスクスと小さく笑いう雫を見て自分もその時が来るのが楽しみだった
。なぜなら、その時は二人とも今よりずっと強くなっている筈だから・
「それで、さっきの答えは教えてくれないのですか」
「そうですね・・・克己や健一君の言葉を借りるなら“そんな考えクソ
喰らえ”です。と言っても、私達も進一様がDクラスに入られて初めて
気付いたのですから、進一様には悪いと思いますが・・進一様のお陰で
気付く事が出来てとても有り難かったです」
「そうですか・・・神鳴家の落ちこぼれでも役に立つ事がある・・」
雫が綺麗な指を俺の唇に当ててそれ以上の言葉を出させないようにする。
「それ以上は言ってはいけません。進一様は自分を卑下し過ぎです。あ
まりご自分を嫌わないで下さい。そのままの進一様に好意を持っている
人は結構いるのですから・・」
そう言って、顔を赤くしながら顔を覗き込んで来る。綺麗な顔がすぐ目
の前にあってすごくドキドキする。すこし潤んでいる瞳、頬を赤く染め
てお互いの息遣いも肌で感じる。もう少しでお互いの唇が触れそうにな
った時に
「・・・今日はここで失礼します」
恥ずかしくなったのか紅い顔を隠す様に勢いよく振りかえり部屋から出
て行く。
「・・・・・」
結局、雫が家から出て行く音を聞くまで心臓がドキドキして一歩も動く
事が出来なかった。
第二章はもう少しゆっくり投稿するつもりです。