プロローグ
「姫様!早くこちらに!!」
綺麗な金髪を振り回し、元はお揃いの髪型の面影もなく敵から逃げるよ
うにリアラが手を引いて走っている。リアラの反対側の手には、この少
女の可愛らしい容姿には似合わない程の大きな両手剣が握られている。
「急いでこちらの中に!」
リアラが急いで隠し通路の扉を開けて促してくる。こういう事を見越し
てこの建物にはいろいろな所に抜け道が用意されているのだ。
「・・いいえ。ここから先に行くのは貴方だけです」
私は入口の前で足を止めて必死に手を引っ張っているリアラの手を優し
く解く。
「何を言っているのですか!もうそこまで“血刀の集団”が来ているの
ですよ!部下もみんなバラバラになって・・・。姫様だけでも生きて頂
けないと、誰がこの後の事を纏めるというのですか!」
いつものように夢の中で“あの方”とお話をした後、建物の奥にある神
殿でお祈りをしている時に襲撃にあった。敵は魔剣を集めている集団。
その為には手段も選ばないと残酷性から“血刀の集団”と呼ばれる集団
だった。もちろん、目的は自分とあの方が持っている剣。
「私が死ねばもう二度とあの剣は取り出す事はできません。・・・後の
事は貴方だけでも出来るでしょ?」
諭すようにリアラのサラサラとした金髪を撫でる。いつもなら、少し照
れたような笑顔を見せてくれるのだけど、今回はいやいやと弱弱しく首
を振るだけだった。
「・・いやだ・・・いやだ!・・・姫様が・・・シルク様がいなくなる
なんて・・私はシルク様の騎士です・・最後までご一緒させて下さい・
・」
リアラは頭に乗せていた私の手を両手で握りしめ祈るように涙を流して
いる。
「・・それにあの人達は死体からでも欲しい情報を得る事が出来るとい
う話です。ですから、最後まで諦めないでください」
涙を流しながら見つめてくるリアラの姿に自分の決意が鈍りそうになる
。
・・・・でも、もう無理なのだ。準備はもう整ってしまった。
それに敵はもうすぐそこまで来ている。自分はお世辞にも運動神経は良
い方ではない。だから、このままだと目の前のこの親友とまで言える少
女を見殺しにしてしまう。それだけは何としても避けたかった。
「えぇ・・私も“あの方”以外の人に触れられたくありません・・です
から・・」
「・・・・っ!姫様!!」
リアラがやっと私の体の変化の事に気が付いた。リアラに握られている
手が、恐怖から震えていた脚が徐々に水晶で覆われて行く。
「・・大丈夫です・・私の精神が戻ればこの水晶も元に戻ります」
自分の存在を代償として作られるこの水晶は、今現在どんな攻撃でも壊
す事が出来ないし、一度発動したら術者でも止める事が出来ない。唯一
の解除方法は、分離された精神を元の体に返すことだけ・・・
水晶の中に閉じこもっている間は自分の精神はあの剣と同化する。ある
一定期間までに精神が戻らなければ精神はずっと剣に閉じ込められたま
まとなり、水晶の中の体は存在自体を消されてしまう。
「姫様!・・・シルク様!!」
徐々に水晶に覆われていく自分に少女が抱きつく
「・・私が必ず・・・必ずお救い致します!ですから・・・どうか・・
・どうか!!」
「えぇ・・信じています・・・それに“あの方”なら何とかしてくれる
とも思っています」
動かなくなった手の代わりに、安心させるように笑顔を向ける。死にた
くないという想いは当然ある。恐怖もある。でも“あの方”がいるとい
うだけで少しだけ安心する事が出来た。と同時にこのまま巻き込んでし
まっても良いのかとも思う。
“あの方”は覚えていない様子だが、数年前にも巻き込んでしまった事
があるのだから。
「・・・もう時間ですね・・・では、少しだけ休む事にします・・」
そして完全に体全体が水晶に覆われた。
「・・・シルク様?・・・・・シルク様ぁぁぁ!!」
何かの間違いであってほしいと・・・いつもみたいな悪戯だと・・すぐ
にあの皆が癒される様な笑顔を向けてくれると思ったが目の前の水晶は
消えてくれない。水晶の中には綺麗な銀髪の少女が微笑んでいた。建物
の中少女の声だけが周りに響いた・・・・