0.5
気が付くと、見覚えのない場所に立っていた。
住宅街のようで、周りには家が建ち並んでいる。
まだ空は明るいのに、人の気配は無い。
さっきまで何をしていて、どうしてここにいるのか、全く思い出せなかった。
とりあえず家に帰りたいので、歩いてみた。
道をどんどん進んで行く。しかし、やはり周囲の風景に見覚えは無い。
仕方が無いのでそのまま進んで行くと、真っ白な、金目銀目の猫がいた。
僕は、猫が好きだ。
友達から「猫」と呼ばれるくらい好きだ。
猫に近づいて、抱き上げてみた。
「こんにちは」
僕は猫に言う。もちろん返答なんてあるはずは─────
「降ろせよ、人間」
…………なくもなかった。まあ、猫が喋るということは─────
「ふむ、夢か」
不機嫌そうに猫が言う。
「夢でもなんでもいいが、早く降ろせ。引っ掻くぞ」
慌てて猫を降ろす。そのまま猫は歩き出した。
「あ、待って」
聞こえているのかいないのか、そのまま行ってしまう。
「待ってよ。ここから帰りたいんだ。どうやったら帰れるの?」
僕は猫を追いかけて、細い道に入って行った。
夢中で猫を追いかけていくと、小さな広場に出た。その真ん中に何故かマンホールがあって、その前に猫が行儀よく座っている。
「ここは……?」
「夢世界の門だ。そこの穴が出入口だよ」
ぶっきらぼうに猫が言う。どうやら僕がついて来ているのを知っていて、連れてきてくれたらしい。
「ありがとう。ここから帰れるんだね?」
「ああ、ベッドから落ちて目が覚めるよ」
「それは嫌だな……」
僕が苦笑してマンホールから少し離れると、
「行かないのか?ずっとここにいてもいいが、永眠するぞ?」
「いや、行くけど……ていうか僕、ここに来なかったら永眠してたのか」
また苦笑しながらマンホールの縁に立つと、
「早く行けよ。いい感じにスッキリ目覚めるぞ」
そう言って猫が僕を押した。
「そりゃあベッドから落ちればね」
そう突っ込むまもなく落ち、辺りは暗闇に包まれた。