-Chapter30-
「こんなところでオーロラなんて見れるものなのか……?」
俺は疑問に思いながら空に浮かぶ虹色のカーテンを眺め、俺は呟く。誰かが魔法を使っているのだろうか。一体何の為に使っているのかは分からなかったが、美しい自然現象を眺めていると、自然に心が落ち着いてくる。俺はこのオーロラを出した張本人に感謝した。俺はベッドに寝転がると、窓から差し込んでくる光をぼんやり眺めながら、ゆっくり眠りについた。
八月一日。夏休みの折り返し地点であるが、俺、いや俺たちにとっては、それ以上に意味のある日であった。
「わーい! プールだ、プールだー!」
楓は俺の自転車の後ろで騒いでいる。俺はそんな彼女をたしなめながら、プールへの道を走り抜けていく。今日は楓とプールに行くと約束した日。俺にとってプールに行くこと自体は特になんともないのだが、楓にとってはかなり重要なことらしい。彼女は昨日から準備をしていたらしく、興奮のせいかちょっと夜更かしまでしてしまったらしい。楓にしては珍しいことだなと思いつつも、俺は楓らしいとも思う。適当に雑談を交えながら、久しぶりに夏休み前のような時間を過ごす。最近はずっと杣の人格が現れていたから、なんだか楓とこうして話すのも懐かしく思えた。そうしている内に、俺たちはプールに到着する……のだが。
「な、何……? 水に誰かが吹き飛ばされてるんだけど……」
楓がプールを指差して言う。……確かに、誰か分からない人が水に吹き飛ばされている。だが、決して襲われているという訳ではなく、むしろ弄ばれているような……あれ? むしろそっちの方が大変な事態じゃないか?
「と、とりあえず中に入るか……」
吹き飛ばされている人はボロボロになっていそうなのにもかかわらず悲鳴の一つも上げない。きっとそういうショーなのだろう。どんなショーなのかは分からないが。
更衣室で着替え、俺はプールサイドに出る。楓はまだプールサイドに出て来ていないようだ。そういえば楓って特別な水着を用意していたんだっけ。一体どんな水着を――。
「迅ー! どう? この水着!」
一言で言えば、スクール水着だった。まぁ学校指定の水着じゃなくて珍しい白のスクール水着なのだが。それを普通に着てくると、小学生にしか見えないよなぁ。楓はプールサイドを駆けていく。彼女が何かを踏んづけた気がするのは気のせい――ではないよなぁ。踏んづけられた少年は、痛そうに胸をさすっている。あれ? 彼は――。
「あれ? 朔じゃないか。お前も泳ぎに来たのか?」
つい最近まで入院していた、朔だった。退院後すぐプールに来るなんて、随分とアウトドアな人なんだな。
「ほら迅ー! プールだよ! プールプール!」
楓は嬉しそうに飛び跳ねている。下手をして転ばないかが心配だ。ふと、朔が恨めしそうに楓を見ていたので、
「ま、俺はこういう訳で楓に無理やり誘われた訳だけどな。……って、ゴル先輩もいるじゃん。うわ、すげえクロール」
と適当に朔に経緯を説明しようとしたところで、ゴル先輩を発見した。なんであの人がここにいるんだ。もしかして、さっき水鉄砲で飛ばされていたのはあの人か? ふと、ゴル先輩が俺たちを見つけて、
「おお、迅とちびんてーるではないか! どうした!? 俺と一緒に青春の汗を流しに来たのか! 某は大歓迎だぞ!」
なんて呟いて朔の背中をバシバシ叩いていた。ちなみに楓はチビンテールと言われたことに腹を立てたのか、ゴル先輩の足をげしげしと蹴る。楓とゴル先輩を一緒にしておくのは危険な気がして、
「せっかくですが、遠慮しますよ、ゴル先輩。俺は今日楓と泳ぎに来てるんで」
遠慮しておくことにした。楓はすごく嬉しそうな顔をして、俺に抱き着いてくる。水着を着ているとはいえ、ちょっと恥ずかしい。
「ふむ、そうか。二人は仲良し、いいことだな! さてもう一つの仲良し組である朔よ! 休憩は終わっただろう! さぁ泳ぐぞ!」
ゴル先輩は後半はすごく楽しそうな顔をして、そんなことを言っていた。
「え!? それは無理というか、無謀な気が……」
朔は何度も首を振ってゴル先輩の提案を否定する。まぁ、俺もゴル先輩と泳ぐのは遠慮したいなぁ。彼は一人で太平洋を横断できそうだし。ふと、朔がプールへ飛び込んだ。それと同時に、ゴル先輩が声を上げる。
「おお、泳いでくれるか! ふはは、さすが朔だな! さあ行くぞ!」
嬉しそうにプールへ飛び込んでいくゴル先輩を見ながら、俺は朔の対応に驚いた。彼は、もしかしたらかなり勇気のある人物かもしれない。なにかのはずみでプールに飛び込んでしまっただけかもしれないが、ゴル先輩の前というある種とてつもなく緊張する場面では、ほぼありえないだろう。俺は楓の手を取ると、楓に泳ぎを教えるために朔達から離れていった。




