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Lonely Liar  作者: Laugh
-Episodeα-
74/344

-Chapter17-

 杣の目の前で手を振ってみたが、芳しい反応は返してくれなかったので、とりあえずそっとしておいた方がいいのかもしれない。俺は夕食を作り、出来上がった肉じゃがをテーブルの上に置く。少し離れた位置で椅子に座って呆然としている杣に、声を掛ける。

「夕食、作っておいたからな。お腹が空いたら食べてくれ。なるべく早く食べないと、冷めるぞ」

 そう言っても杣は椅子に座ったまま窓を見続けていたが、聞こえていないなんてことはないだろう。俺は椅子に座ったまま、杣がテーブルの方へやってくるのを待った。しばらくすると、杣が立ち上がって、こちらへやってくる。テーブルの向かいに彼女が座ると、彼女は意外そうな顔をして、

「てっきり、もう食べているのかと思った。何かあったの?」

 と聞いてきた。俺は首を振って、

「いや。俺一人で食べるのは、なんだか勿体なくてさ」

 と、半分真実を込めて答えた。残り半分は、杣が一人で夕食を食べている光景を目に浮かべると、いたたまれない気持ちになるからだった。ただでさえ一人、俺の大事な人にそういう思いをさせているのだから。

「そう、ありがとう」

 杣は微笑みながら、俺の作った肉じゃがを食べ始めた。それを一口口に入れた時、彼女は目を見開いて、

「……この味……ねぇ、この料理、誰から教わったの?」

 そんなことを聞いてきた。そんなにおいしかったのだろうか?

「まぁ、料理全般は母さんから教わってるけど……」

 俺が答えると、杣は考え込むような顔をして、

「……どうなっているんだろう……?」

 意味深なことを呟き、黙々と肉じゃがを食べ始めた。肉じゃがに一体何を感じたのだろうか。こんな様子では、朔におかしな人と言われても仕方ない気さえするぞ。

 風呂の時間になって、俺はまだ考え事をしている杣より先に風呂に入ることにする。風呂上りに冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップに注いで飲んでいると、

「ねぇ、その牛乳、取ってくれない?」

 ふと、考え事が終わったのか、杣がテーブルに置いたばかりの牛乳を指差して言った。自分で取ればいいのにと一瞬思ったが、杣の身長や手の長さでは届かないことに気付き、取ってあげることにする。杣はそれを近くにあったコップに注いで、一口飲む。そして一言、

「これは、違うんだけどなぁ……」

 と呟いて、また考えこんでしまった。肉じゃがと牛乳を合わせたメニューでも考えていたんだろうか。それなりに想像してみたが、少しおいしそうではある。ただ、なぜ今杣がそれを考えているのかよく分からない。そんな疑問を残したまま、今日の夜は更けていった。

 翌日の朝、母さんに明日は肉じゃがを作って欲しいと頼む。母さんは笑顔で了承してくれた。俺は何度もお礼を言って、今度何かお礼をすると約束した。その後杣は肉じゃがに関する資料を探すためなのか、外に出かけようとしていたので、俺はついていくことにする。始め杣は遠慮していたが、自転車があった方が移動時間が短縮できることと、俺の自転車だと杣の身長では自転車を利用できないことを伝えると、多少ためらいながらも同行を許可してくれた。とりあえずどこに向かうか分からないので、杣に道案内を頼むことにする。杣は後ろで俺の背中に掴まりながら、口頭で道順を教えた。楓と記憶を共有しているからなのか、まるで町の構造を知り尽くしているような口調である気がする。そんな道案内の途中で、

「あ、止まって」

 杣が指示を出したので、俺はブレーキをかけ、止まる。辺りはただの住宅街で、目的地に着いたわけではないと思うのだが……。そう思って辺りを見渡すと、以前見たことのある少女――舞を見つけた。彼女もこちらに気付いたようで、

「どうしたの、こんなところで。何か進展でもあった?」

 こちらに駆け寄りながら、杣と話を始めていた。俺が耳をそばだてて聞いてみると、どうやら二人は協力関係にあるらしい。そして二人は朔について何らかの行動を起こしているみたいだ。朔って、そんな人気者なのか。俺は実際に出会うまで聞いたこともない人物だったけどなあ。そんなことをぼんやりと考えていると、住宅街をぶらぶらと歩いてくる少年の姿が見えた。考え事をしていたため、気付くのが遅れたが、彼はどこかで見たことがあるようだ。こちらに近づいてくる若草色の髪と、歪に歪んだ笑みを見るまで、俺は今危険な状況にあることに気付かなかった。

「見つけたぜぇ……さぁ、ぶっ殺してやる!」

 少年はこちらに風の弾丸を飛ばしてくる。反応が遅れたせいで、魔法が間に合わない。急所を守ろうと、両手で顔と心臓をかばったとき、目の前に炎の壁が現れた。

「――へぇ」

 若草色の少年は、歓喜しているかのように笑った。それとは対照的に、不機嫌そうな顔を見せて、

「誰よ、あんた」

 炎の魔法使い、舞が少年を睨んでいた。

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