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Lonely Liar  作者: Laugh
-Episodeα-
34/344

-Episode33-

 オリンピックとか、競技や勝負としての水泳ならともかく、市民プールで遊ぶための水泳に、本気を出す必要があるのだろうか? これは僕の一意見だが、遊ぶというのは楽しむためにやるものであって、別に本気を出す必要性はないと思うのだ。そんな意見を無視して本気で市民プールを泳ぐ人間が一人いる。何を隠そう、この僕だ。

「がんばれ朔君ー! 負けるなー! 十中八九負けると思うけど!」

 プールサイドでは怜がよく分からない応援をしている。僕は元凶が偉そうに何を言っているんだと言い返したくなったが、そんなことをしてたら間違いなく負けるので無視して泳ぐ。事の発端は僕とゴル先輩が泳ぎ始める寸前だった。適当に泳いで終わらせようとしていた僕に、怜がそっと耳打ちをしてくる。

「ゴル先輩がプールを十往復する前に反対側まで泳ぎきれなかったら、朔君には水鉄砲の刑をプレゼントしてあげるからね」

 ……という訳で、僕は死に物狂いで泳ぎ続けている訳だが。やっと二十五メートルを泳ぎきった時点で、ゴル先輩は四往復を終えて僕を抜かして行った。確認するがゴル先輩には怜が見えてないし怜の声も聞こえていない。つまり彼は完全なるお遊びで泳いでいるのだ。それでこのスピードって……僕が遅いのもあるかもしれないが、この人が本気を出したらオリンピックで金メダルでも取れるんじゃないか? と、余計なことを考えているうちに、ゴル先輩が戻ってきていた。このままじゃ五往復されて抜かされてしまう。僕は必死に手足をバタつかせ、前へと進んでいく。が、前半ほどの勢いは消え失せ、半分溺れかけのような状態になって泳いでいるため、十メートル進むころにはゴル先輩は九往復を終えていた。このままでは、僕の決死の努力が無駄になってしまう。涙目になりながら泳ぎ続けていると、

「ぬ!? ちびんてーる! 浮き輪で入ろうとするとは何事か! 何、泳げないだと!? ふっ、安心しろ! それならこの某が水泳のいろはを教えてしんぜようぞ!」

 と、ゴル先輩の声が響く。そして間もなく十往復目を終えようとしていた彼は方向を転換し、浮き輪でプールに入ろうとしたらしい楓のもとへとてつもないスピードで泳いで行った。楓には申し訳ないが、これはチャンスだ。ゴル先輩は言わばマラソンのコースを逆走している状態。彼は遊びのつもりで泳いでいるのだから、そりゃしょうがないのだが、僕の泳ぎ終わった後の人生がかかっているから情けは無用だ。僕は残った力を振り絞って何度も足で波を打つ。あと十メートル、七メートル、五、三――

「おおっと! 日課である一万メートル水泳がまだ途中であった! しばし待てちびんてーるよ! 某は日課を終えてから教えることにする!」

 残り一メートルの時点で、ゴル先輩がこちらに猛スピードで泳いできた。ラストスパートのつもりか、今までにないスピードで追いかけてきている。その姿はまるで鮫のよう――なんて考えている場合じゃない! このままだと負ける! ゴル先輩はもう二十五メートルラインを超えていた。くそう、間に合ってくれ――! 僕は神にも祈るような気持ちで右手を伸ばし――

「あぁ朔君、ゴル先輩は十往復したようなものだから朔君の負けってことでいいよね?」

 ゴール前に立っていた空色の少女に祈りをへし折られた。

 あの後絶望した僕はそのまま水中に沈んでしまい、ゴル先輩のゴールを許してしまった。僕は日陰の隅っこで寝転んでいるしかなかった。怜の罰ゲームらしい水鉄砲の刑は努力賞ということでみんなが帰ってからすることになったらしい。とりあえず体が動く気がしない。首を傾けてプールサイドを見ていると、楓がゴル先輩の指導を受けていた。色んな意味で可哀想である。ちなみに迅はプールサイドの日向で体育座りをしていた。何があったんだ。

「朔君、やっぱりプールって楽しいね!」

 水着姿でありながらさっぱりプールに入っていない怜が楽しそうに話しかけてくる。僕は何のリアクションも返さない。怒ってるとかじゃなくて、言葉を話す筋力がもうない。

「ほら、私って水の魔法が使えるから、プールだとかなり調子がいいんだよねー。……でもプールばっかりでちょっと飽きちゃったかも」

 プール楽しい宣言からまさかのプール飽きた宣言である。じゃあ帰ろう。刑が執行される前にすぐ帰ろう。

「だから、スケートでもやってみない?」

 怜の一言に、僕は耳を疑った。スケートって、冬にやるものじゃないのだろうか。季節が逆だ、そう思ったとき、

「うわ!? なんだ、水が凍ってるぞ!」

 迅の声が聞こえてきた。まさかと思って体を起こす。目の前に広がっていたのは、プールではない。プール全体が凍ってしまったらしい、一つのスケートリンクだった。ちなみにプールに入っていたのはゴル先輩だけ。彼は氷に半身が浸かってしまっていた。そんな光景に、隣でにやにやしている少女以外は開いた口が塞がらなかった。

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