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Lonely Liar  作者: Laugh
-Episodeγ-
332/344

-Episode45-

「だ、誰?」

 僕は僕の腕を引っ張っている人物に聞く。僕がその人物の姿を見る前に、僕達は灰色の煙の中に入って行った。どうやらこの辺りで爆発があった場所らしい。かなりの大がかりな爆発であったのか、たくさんの煙が充満している。下手に息は吸えない上に、視界も悪い。転んだりしないかが心配だったが、腕を引っ張っている人物はこういう場所に慣れているのか、立ち止まることなく走り続けていた。

 一分弱僕達は走り続けたが、一向に煙が消える気配はない。誤って煙を吸い込まないよう僕は服を口に当てて呼吸をしながら走っていた。しかし、それも暫く続くと、なんとなく胸のあたりがむかむかしてくる。応急的に布を口に当てるだけででは、いくらか限界がある。……と思っていると、煙が少しずつ薄くなっていることに気付いた。よかった。これでちゃんと呼吸が出来る――。

「これで撒いたかしら。おそらく姿を見られてはいないはずだけど……」

 息をした際に顔を上げた瞬間、僕は信じられない人物が僕の腕を引っ張っていたことに気付く。

「ま、舞さん!? あれ!?」

 舞は怜と一緒に驚いていたはずなのだが……。なぜ彼女が今ここに?

「……どうしたの? あたしがどうかした?」

 舞は僕が驚いている様子を不思議そうに見ていた。

「え、いや……その、舞さん、なの?」

 僕は舞とその後ろを交互に見る。

「あたし以外に誰がいるのよ。……大体何が起きたのかは分かるけど」

 舞はそう言って、僕を掴んでいた腕を離した。

「何が起きたって……爆発?」

 彼女の言っていることがいまいち理解できていなかったので、僕はそう聞いてみる。すると彼女は軽く首を振ってから、

「あんたが経験したものは大体知っているわ。――まぁ、かなり特異な状況なんだけど。これが起きたのはどれぐらい前かしら……」

 舞は遠い記憶を思い出すように頭を軽く指でつつきながら言った。

「僕が経験したもの……?」

 さっきから一体何を言っているのか分からない。ただ、怜と対峙していたときのような違和感はない。

「ついさっきまで、あたしと怜が魔法で対決していたんじゃないの?」

 まるで他人事のように彼女は言った。自分で自分が対決していたと言っているなら、それは他人事ではないと思うのだが……。

「――まぁ、これはあたしも完全に理解している訳じゃないから、どう説明や対策をしたらいいのか分からないけど」

 舞は頭をつつくのをやめた。

「信じられる話じゃないでしょうけど――さっき怜と戦っていたあたしは、あたしじゃないわ。どういう原理でもう一人のあたしが出来ているのか分からないんだけど……」

 怜と戦っていた舞が舞じゃない? 違和感自体は感じないものの、こちらはこちらで僕を置いてきぼりにするなぁ。

「試しに戻ってみたら? まだあの場所にはあたしがいると思うわよ」

 僕が話を理解していないことに気付いたのか、彼女はそう言ってきた。

「え、いや、舞さんはここにいるから、戻っても――ん?」

 僕は顎に手を当てて考える。仮に戻っても舞がいるとすると、この場所にいる舞と、怜と戦っていた舞がいて……つまり二人の舞がいる?

「そんなの、あり得るのかなぁ」

 普通に考えてあり得ないとは思うのだが、魔法自体がとにかくあり得ないものなので、完全な否定ではなく否定的は疑念になる。

「普通はあり得ないわ。だからこそあたしも完全に理解できていないのよ」

 舞は肩をすくめた。――とりあえず、怜が危険だから戻っておきたいが……。僕が戻っても何の力にもなれないので、舞に同行を願うと、

「あぁ……怜はやめたほうがいいと思うけど」

 少し困った顔をして、同行に少し難色を示した。……そう思っていると、上から人が降りてきた。さっきまでまるで姿がなかった刀祢だ。

「舞さん、怜たちの確認してきました。――優奈ちゃんはともかく、二人は朔さんを探そうとしていましたね」

 彼はそう言うと、周囲を軽く見渡した後、地面に着地した。

「――ただ、もしかしたら見つかったかもしれないです。この場にじっとしておくと危険じゃないです?」

 刀祢の言葉に、舞はそうかもしれないと軽く頷いた。

「――そうね。朔、二人の様子は彼が見てきたわ。話は聞いていたでしょ? ……あんたに残されている行動は二つ。このままじっとして怜かもう一人のあたしに回収されるか、あたしたちと逃げるか」

 舞に方針を言われ、僕は非常に迷う。これはつまり怜か目の前の舞のどちらかを選べというようなものだ。

「決断は早くしなさいよ」

 舞はもう歩き始めていた。まだ走らずに歩いているのは、僕の決断を待ってくれているからか。

「――分かった。僕は舞さんに着いて行くよ」

 どうしても僕が優先してしまうのは、目の前の出来事だ。僕は舞さんの後を追うことを決めた。

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