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Lonely Liar  作者: Laugh
-Episodeα-
33/344

-Episode32-

「でっすとろーい!」

 そんな叫び声が市民プール内にこだまする。同時に悲鳴も上がってはいるのだが、高圧で噴射される水鉄砲の音でそれはかき消されていた。

「し、死ぬぐぶぶうぅ」

 僕は八方から襲いかかる水に半ば溺れかけていた。絶対怜は魔法を使っているに違いない。僕の水鉄砲? 最初に渡された水鉄砲なら避けるのに邪魔だから遠くに投げ捨てた。しかしそれでも水は容赦なく襲ってくる。僕は一度水中に潜り水鉄砲の攻撃を避けるが、

「ちょいさー!」

 そんな一言と共に僕の周囲にある水ごと僕が空中に放り出される。そして一斉射撃。勝ち目なんてまるでない。こんなのただの虐待じゃないか。

「ちょ、休憩させて……」

 やっとのことで発することができた一言で、世にも恐ろしい水鉄砲合戦は一時休戦状態となった。僕はプールサイドに腰掛け、辺りを眺める。僕たちが入ってくる前までは結構人がいたのだが、僕たちの乱闘のせいでプールには誰一人としていなくなってしまった。係員だけが半分殺意のこもった目でこちらを見ているのを除いて。

「いやーやっぱりプールは楽しいねー!」

 僕の隣に怜が腰掛けて言う。彼女は水色のビキニを着ていた。まぁ普通ならちょっとドキっとしてもいいかもしれないが、今の僕にとっては恐怖の対象でしかない。

「そ、そうだね。楽しいね」

 完全に棒読みで答えたはずが、彼女はさらに気分を良くして、プールで一人サーフィンを始めてしまった。……結構上手だな。暫くぼうっとして彼女の姿を見つめていると、急に肩をがしっと掴まれる。この感じはもしかしなくてもあの人だ。

「がっはっは! 久しぶりだな朔よ! 入院したと舞から連絡を受けて某はぷろていんなるものを一箱お見舞いにと献上したが、体調が良好であるようで何よりだ!」

 ゴル先輩はすごく嬉しそうに僕の背中を叩く。皮膚に直に衝撃が来るので倍以上の苦痛が僕に襲ってきた。ついでにプロテインならゴミ箱に捨ててあったので手にとってさえない。

「す、すいません僕泳ぐので……」

 僕がそう言って立ち上がると、

「なんと奇遇な! 某も泳ぐためにこの水場に来たのだ! さぁ共に泳ごうぞ同志よ!」

 と変なことを言いながら僕の首根っこを掴んでプールの中に飛び込んでしまった。鼻に水が入り、咳込む。

「ぬあっはっはっは! ばたふらい! ばたふらいだぞ朔よ!」

 そう言いながらゴル先輩は見事なバタフライを披露する。それはいいけど僕の首根っこを掴みながらそれをするのはやめてください。死にます。その後十分程バタフライにつき合わされ、僕はプールサイドの日陰で仰向けになってぐったりしていた。いつの間にか係員が同情するような目で僕を見ている。同情するくらいなら助けてくれ。ゴル先輩は今度はクロールで市民プールを流れるプールへ変貌させていた。怜は流れに合わせて水上をサーフィンしている。この二人の組み合わせはひどい。というかゴル先輩は怜が見えてないはずなのに二人で見事なコンビネーションを披露していた。しかし、プールに浮かばなくても、こうして横になっている時間はすごく楽だ。妥協を許せばこのままじっとしていてもプールを楽しめるんじゃないだろうか。そう思った矢先、僕の胸を誰かに踏まれた。大した重さはなかったが、それでも痛いものは痛い。胸をさすりながら起き上がると、

「あれ? 朔じゃないか。お前も泳ぎに来たのか?」

 後ろから迅の声が聞こえてきた。とすると、ついさっき僕を踏んづけたのは……うん、夕焼け色のツインテール、楓だ。

「ほら迅ー! プールだよ! プールプール!」

 楓は中学生とは思えないほどはしゃいでいる。もしかして彼女って精神的にも小学生なんじゃないだろうか。水着もスクール水着だし。

「ま、俺はこういう訳で楓に無理やり誘われた訳だけどな。……って、ゴル先輩もいるじゃん。うわ、すげえクロール」

 無理やりと言う割には全然嫌そうじゃない迅だ。ふと、ゴル先輩が迅たちを見つけたのか、泳ぎをやめてこちらにやってくる。

「おお、迅とちびんてーるではないか! どうした!? 俺と一緒に青春の汗を流しに来たのか! 某は大歓迎だぞ!」

 そう言いながらなぜか僕の背中を叩く。ひどい。楓はチビンテールと言われたことに腹を立てたのか、ゴル先輩の足をげしげしと蹴る。ゴル先輩はまるでこたえていないみたいだが。

「せっかくですが、遠慮しますよ、ゴル先輩。俺は今日楓と泳ぎに来てるんで」

 迅はとても冷静な対処を見せる。ゴル先輩はちょっと驚いたような顔をして、

「ふむ、そうか。二人は仲良し、いいことだな! さてもう一つの仲良し組である朔よ! 休憩は終わっただろう! さぁ泳ぐぞ!」

 僕に話しかけてきた。とんだとばっちりだ。僕は何度も首を振って否定しようとするが、不意に背中を押され、

「朔君、せっかくだから泳ごうよ! せっかくのプールだよ?」

 怜が話しかけてきた。僕に逃げ場所なんてあるはずもなく、地獄のような水泳が始まろうとしていた。

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