-Episode37-
「――でね、この魔法の組み合わせは、土、土、風、炎、水、でガラスを操ることおが出来るように――あれ、もう着いたの?」
僕が怜の魔法講座を無視するようになって十数分、僕達は僕の家にたどり着いていた。とりあえずこれで後半から興味を完全に失っていた僕は救われたということだろうか。
「怜さん、おかえりなさ――あれ? お兄ちゃんも帰って来たんだ、よかったぁ」
怜が玄関を開けると、優奈が出迎えてくれた。僕の姿を見ると、彼女は心の底から安堵の声を上げていた。優奈には心配をかけてしまったな。
「あ、そうだ、お兄ちゃん、ご飯食べる?」
そういえば、花火を作っているのに夢中でご飯とか食べてなかったな。お腹が空きすぎるとその感覚がなくなるというのは本当だったのか。
「じゃあお願いしようかな」
僕は優奈にお願いして夜食を作ってもらった。もちろんネギ料理なのは言うまでもないのだが。
そして翌日、僕は夜まで起きていた影響で、昼までぐっすりと寝ていた。
「朔くーん!」
――昼ごろになると突然怜が部屋に飛び込んできたのはかなり想定外だったが。
「怜!? ここ僕の部屋だけど!?」
僕がそう叫ぶも、
「うん、そうだね?」
怜はおそらく僕の言いたいことが全く分かっていない。
「落ち着くんだ……怜、ここは僕の部屋だ」
僕は冷静になりながら怜に説明をしていく。……だが、
「ちょっと何言ってるか分かんない」
怜は僕の話をまるで聞いていない。
「もういいよ……」
僕は怜に勝手に男子中学生の部屋に入ることを禁止させることは無理だった。
「よし朔君、下に降りてご飯食べようよ! 私の作った冷奴もあるよ!」
冷奴は作ったと呼べる代物なのだろうか。そう疑問に思いながら階段を降りてみると、
「やっと起きたのね」
……なぜか、舞がここにいた。
「ふぁっ!? なんで!? なんでいるの!?」
最初に驚いたのは、僕ではなく怜だった。
「満に運んでもらっただけだけど」
舞はさも当然であるかのように言った。まぁ、彼なら舞をここに運ぶくらいなら造作もなくやりそうだからなぁ。
「え、この人、お兄ちゃんの友達だって言ってましたけど……」
優奈は怜の反応が以外だったらしく、戸惑った様子だ。
「全然違う! むしろこの人は、私から朔君を奪った悪人なのよ!」
怜は優奈に間違った知識を植え付けようとしていた。
「え、そ、そうなんですか……?」
そして優奈はそれを素直に信じようとする。いややめてください二人とも。何も悪いことをしていない舞が――
「半分間違いではないわね」
――舞もあからさまな否定はしなかった。というか、半分正解なのか。怜から僕を奪ったのが正解なのか、彼女が悪人であるのが正解なのか。
「そ、そう来る!? いや、まだだ、まだ何かある……!」
怜は一体何に驚いたのか。僕がそろそろこのやりとりについてこれなくなったところで、舞が昼食を食べ終えたらしく立ち上がる。
「さて、タイミングもそれなりに丁度良かったし、行きましょうか」
行くってどこにだろうか。そして僕の昼食を食べる時間は……。
「待ちなさい! 朔君は連れて行かせないわ!」
怜は僕の腕を掴んで言った。止めてくれるのはまあいいのだけれど、なんだかこの雰囲気が微妙におかしいのが嫌だ。まるで修羅場のような……。いや、そんなことは全然ないはずなんだけど。
「別にあんたに止められる筋合もないし、行くか行かないのを決めるのは朔のはずでしょうよ」
舞は溜め息を吐いて行った。……あれ、つまり、僕が行かないと言えば行かなくてもいいのか。
「そうだ! じゃあ朔君! この人に言うのよ! 僕は怜と結婚するから君と一緒には行けないって!」
……怜の何かを間違った発言だけは本当にやめてほしい。
「ご飯を食べ終わるまで待ってくれる?」
とりあえず僕はそう返事した。舞は軽くうなずいてくれたが、
「朔君!?」
怜が驚愕に満ちた表情で僕を見ていた。
「いや、まぁたまにはいいかなって、どこに行くかは知らないけど、舞さんなら危険なところに連れて行くことはしないだろうし」
僕の知る限りもっとも危険な場所である裏通りも彼女がいればなんとかなるし。
「嘘……あの引きこもりがちで私が無理やり外に連れ出してあげないと外に出ようとさえしない朔君がそんなことを言うなんて……」
怜は色々と失礼なことを言いながらその場に膝をついてしまった。一体何がそんなにショックだったのか。
「さて、早めに昼食を食べてちょうだいね」
舞にそう言われ、僕は椅子に座る。目の前には怜の作った冷奴が……。
「もう、朔君にはこの冷奴あげない!」
怜が僕の目の前の冷奴を皿ごと奪ってしまった。唯一のネギ料理じゃない料理が怜に取られてしまった……。僕は残念に思いながら、優奈の作った昼食を食べた。




