-Episode32-
「作り方なんて紙に書かれても、そう簡単に花火なんて作れる訳ないよ……」
僕は色々なものが散らばった床にあぐらをかきながら、花火を作ろうと四苦八苦していた。どういうわけか専門的な知識が必要になりそうな部分は既に作られていて、あとは僕達が花火となる星を導火線や紙などを使って綺麗に並べていく作業なのだが……。
「こっちはこっちで専門家とかがいないと作れないと思うんだけどなぁ……」
僕は色々と愚痴に近いものをこぼしながら花火を作っていた。最初は星を詰めるだけでも苦労していたが、数時間も格闘していると、少しずつ並べるくらいは出来るようになってきていた。ちなみに僕の隣では、ゴル先輩が猛スピードで花火を組み立てている。もしかすると、今までこれらの花火を作っていたのは、ゴル先輩なのかもしれない。
「朔よ、某は今三十二個ほど作り終えたが、朔の方はどうだ?」
ゴル先輩は作業に集中しているからか、僕が一個も作れていないことに気付いていないようだ。……まあ、その方がいい気もするけど。
「それにしても、舞さんは何だってこんなものを作ってるんだろうね」
僕はさりげなくゴル先輩に聞いてみた。
「某も理由は聞いたことがないな……まぁ、某は花火を作ること自体愉快であるから何の問題もないのだがな! ちなみにここにある花火の九割は某が作った!」
ゴル先輩は高笑いを上げていった。やはり彼が作ったのか。まぁそれより、気になるのは舞が花火を作って何をしようとしているかだ。花火だって、使い方によっては爆弾や大砲になりうる。そして舞は炎の魔法を使う。点火するのに着火器具を要する僕達と違い、彼女は何もなくても、そしていくらか離れた位置でも、花火を点火することができるのだ。長い導火線がないのはそのためだろう。――まさか、これらを使って怜を殺そうという馬鹿なことを考えているんじゃないだろうか。少なくとも、僕と刀祢がこの件に関わっている限り、そんな物騒なことはやめさせなければならないと思う。そもそも舞の時間関連の話は彼女の言っていることが正しいことが前提の話だ。彼女が完全に嘘を吐いている訳ではないだろうが、逆に全て真実であるはずもない。
「そうだ、某は夏祭りの日に出店をやる予定なのだが、朔も手伝わぬか?」
ゴル先輩がそんなことを言ってきたので、僕はつい彼の開くお店を想像してしまう。得体の知れない物体や、奇妙な人形、おおよそ人類には理解できない物質、プロテインなど、テーマもへったくれもなく、縁日などとはかけ離れたお店。考えただけで寒気がしてきた。
「ゴル先輩、多分お店は開かない方がいいと思う……」
僕の予想だけではあるのだが、彼の出店が失敗しそうなのは目に見えていた。
「う……く、くるし……はっ!?」
ふと、隣の部屋で気絶していた刀祢が目を覚ました声が聞こえてきた。僕は花火を作る手を一旦止めて、刀祢の元へ向かう。
「あれ、ここは……。あ、朔さん」
刀祢は僕の姿を認めた後、周囲を見渡す。僕はとりあえず今の状況について軽い説明をした。説明を受け状況を確認したらしい彼は、不意に彼の両手に視線を落とした。
「なんだろう……気絶する前、何か妙なことが僕の身に起こったような……」
そういえばと、僕は彼が黒夜のようなものを飛ばしたことを思い出した。彼はいまいち覚えていないようなので、僕がそのことについて話してみると、
「黒夜? あぁ、僕を襲おうとしていたあの黒い変なの達ですね……それを僕は飛ばした……うぅん、考えれば考えるほど分からないです。僕がなぜそんなことをしたのか、そしてなぜそんなことができたのか」
どうやら刀祢にも何が起こったのか分かっていないようだ。あの時の状況を思い出すと、舞が何か知っていたようだが……まぁ彼女は何も教えてくれないだろう。
「そうだ、刀祢にも手伝ってもらいたいことがあるんだけど」
僕は花火について彼に一緒に手伝ってもらうように話した。主にゴル先輩しか仕事をしていないようなものだが、僕と刀祢の二人いれば、少なくともゴル先輩の仕事の十分の一ぐらいはできるようになるだろう。
「ぼ、僕ですか? まぁいいですけど……」
彼は花火作りに自信がないらしい。あったら逆に僕が驚くけど。
「お、刀祢も花火を作るのか! がっはっは! 分からないことがあれば某に何でも聞くがよい!」
僕が刀祢も手伝ってくれることをゴル先輩に伝えると、彼は僕の背中をバシバシ叩きながらそう言った。刀祢に言っているなら僕のじゃなくて刀祢の背中を叩けばいいのに。そんなことを思いながら作業を再開しようとした時、ぽつりと、水滴のようなものが頬に落ちたことに気付く。雨? いや、でもここは室内だし――。
「朔くぅぅぅううん!!」
そう思った矢先、刀祢が寝ていた部屋の方から、怜がいきなり飛び出して僕に飛びついてきた。




