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Lonely Liar  作者: Laugh
-Episodeβ-
203/344

-Chapter01-

「……ん、う」

 頭を抱えながら、俺は起き上がる。夏だからなのか、体が異様に暑い。まるでついさっきまで炎の中にいたみたいだ。どうにも寝覚めが悪い。俺は現在の時刻を確認する。八時二十三分……今四分に変わったようだ。このまま調子を悪くしていても仕方がないので、俺は起き上がってカーテンを開ける。眩しい日差しを浴びていると、太陽から力をもらっているような気がするのだ。十分に気分が回復してから下に向かうと、おいしそうな香りを放つ今日の朝食が用意してあった。

「おはよう、迅」

 母さんが、既に食べ終わったらしい食器を洗いながら話しかけてくる。俺はそんな母さんに挨拶を返してから、椅子に座って、朝食を眺める。単純な材料――目玉焼きとパンのみでつくられたトーストを俺は頬張りながら、今日から始まる夏休みのことを考える。

「迅、夏休み、遊ぶのもいいけど、課題もしっかりするのよ?」

 俺が夏休みの予定について考えると同時に、母さんが俺の夏休みについて一言注意をした。だが、母さんは俺を信頼しているようで、すぐに皿洗いの作業に戻っていった。俺が朝食を食べ終わり、食器を台所に持っていこうとして、立ち止まる。居間の方に、なんだか嫌な感じのする誰かが寝転がっていたような――。いや、何を言っているんだ俺は。母さんは俺をここまで女手一つで育ててくれたんじゃないのか。俺の父は遊び癖のある人間だったらしく、俺が生まれてからほんの数か月で母さんの元を離れていったらしい。あんな男、父とさえ呼びたくない。そんなことを考えていると、玄関から呼び鈴の音が鳴った。

「あら? こんな朝早くにお客さんかしら? はーい……」

 母さんが呼び鈴に反応して玄関に向かおうとするのを、俺は慌てて止めた。誰が来たかなんて、俺はすぐに分かってしまう。俺は母さんの代わりに玄関に行き、ドアを開けると、

「楓――」

 と、知らない人の名前を呼んだ。つい口をついて出て来てしまったが、一体誰の名前だったのだろうか?

「ごめんね、楓さんじゃなくて」

 代わり――というわけではないのだが、ドアを開けた先には俺の彼女である杣がすました顔で立っていた。

「え、いや、ごめんよ。今日の朝、ちょっと妙な夢を見てさ。頭がぼんやりしてるんだ」

 俺は少し苦しい言い訳をしながら、杣の名前を間違えたことを謝る。

「別に謝らなくていいよ」

 杣はあまり表情を変えないまま言う。彼女はいつも物静かで感情の変化が分かりづらい。――だが、俺と杣ぐらいの付き合いになると、杣が何を考えているかなんてすぐに分かるように――。

「じゃあ、私はこれで」

 杣はそう言うと、足早に玄関から去っていこうとした。俺は慌てて彼女を引き留めると、

「ご、ごめん! 名前を間違えたことは本当に悪かった! だからその、俺も一緒に杣の行くところに連れてってくれ!」

 俺は杣に頭を下げて謝った。すると彼女は、

「そこまでされるとなんだかなぁ……まぁ、いいけど」

 薄く苦笑いを浮かべ、俺の同行を許可してくれた。ほっと胸を撫で下ろし、俺と杣は外に出かけることになった。

「なぁ杣、今からどこに向かうんだ?」

 俺は杣に尋ねてみる。すると彼女は、

「病院」

 とそっけなく答えた。病院――なぜだろう、俺はそこにことあるごとに通っていたような気がするが、一体どうしてだったかが、思い出せない。頻繁に怪我でもしていたのだろうか?

「よし、じゃあ俺の自転車で病院にまで向かうか」

 俺は家の敷地から自転車を引っ張り出してくると、それに二人乗りして病院まで自転車をこいで行った。

 病院に着く頃にはすでに九時半を少し過ぎていたが、病院はまだ待合室が開いているだけだった。緊急の場合を除き、診察や見舞いはまだ不可能のようだ。

「少し早く来すぎたか……?」

 俺が右手で頭を軽くかきながらそんなことを言っている間、急に杣の姿が消えていることに気付く。

「あれ、杣ー?」

 俺は迷子になったらしい杣を探すため、杣の名前を呼びながら病院内を探して歩く。三十分程探しても、杣は見つからなかった。もしかして、病院の外にいるのだろうか? 俺は杣を探しに外に出ようとする。――すると、丁度入口から杣が入ってきていた。

「杣、勝手に俺の所から離れないでくれよ。心配したんだぞ?」

 俺が杣に話しかけると、

「ごめん。ちょっと用事があって」

 そう言って、杣は何事もなかったかのように病院の待合室の椅子に座った。暫く杣と雑談を繰り広げていると、入口の自動ドアが開き、誰かが入ってくるのが分かる。周りをきょろきょろと見渡して、少しばかり挙動不審な人物だ。ただ、見た目からの印象で言えば彼は不審者と言うよりは、ただ気弱なだけの少年であるような気がした。不意に、杣が立ち上がって、その男性に声を掛ける。

「君……刀祢君、だよね?」

 その質問に、俺とその少年は戸惑うことしかできなかった。

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