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Lonely Liar  作者: Laugh
-Episodeβ-
191/344

-Episode80-

「仮に杣が今別のことに呪いを使っているとして、何に使っているんだろう?」

 僕は迅とひそひそ話を続ける。彼女の呪いを彼女が使っている特殊な能力すべてだとすれば、彼女の使える呪いのバリエーションは影を伝って移動すること、影を自由に操ること、そして、呪いをかけた相手の存在を認知できなくさせること。これは仮定に過ぎないが、存在を認知できなくさせることというのは、その人の影を薄くしているのではないだろうか。

「うーん……杣が何のためにあの能力を使っているか……俺も杣の能力についてはあまり詳しく聞かされてないしなぁ……」

 迅は何度か考えながら答える。迅が杣の呪いのことを呪いと呼ばずに能力と呼ぶのは、彼女のことを想ってのことなのだろうか。

「僕の予想なんだろうけど、彼女の呪い――いや、能力って言った方がいいかな? その能力って、影を操るものに近いんだよね……だから、そこから何か分からないかな?」

 思ったことを口に出して整理しながら、僕と迅は相談する。しかしなかなか答えは出ず、状況は好転しなかった。

「朔君、さっきから何を話してるの?」

 先程のショックから立ち直ったらしい怜が、再び僕たちの会話に関心を持ち始めた。――その瞬間、周囲に妙な熱気を感じる。この熱気は――。

「見つけた」

 その声が聞こえた瞬間、周囲が業火に包まれる。肌を焼くような感覚が、僕達を襲う。……間違いない。舞だ。なんてタイミングで彼女が現れるんだ。僕が数回瞬きをする内に、僕らの周囲を氷の壁が覆う。しかしそれはすぐに溶け、水、蒸気へと変化した。氷の橋も溶けかけていて、このままでは下に落ちてしまう。

「捕まって、ください」

 ふと、弥奈が僕たちに声をかける。彼女が差し出した手に迅が掴まり、迅の手を僕が掴む。僕が怜に向かって手を伸ばしたとき、その背後に舞の姿を見る。彼女は左手を前に構え、何かを打ち出そうとしていた。僕は咄嗟に迅から手を離し、怜の方へ向かう。

「間に合ってくれ――!」

 僕は心の内からそう叫んだ。あの炎に包まれた瞬間、彼女がどうかるかなんて、誰だって容易に想像できる。妙に現実的に見えてしまう怜の炎に包まれた後の姿が脳裏に浮かび、僕は恐怖と拒絶と不安と勇気から、その言葉を絞り出した。その言葉を口にしたとき、一瞬だけ、時が止まったかのような錯覚を受ける。そして、それと同時に、指鳴りの音が聞こえた。

 目を開ける。景色は変わらない。周囲の業火、炎によって溶けて不安定になっている氷の橋、虹魔法で浮遊し上昇している弥奈たち。残された怜と、残った僕。一つ相違点を上げるならば、位置関係。僕と怜の位置が、真逆に変化していたのだ。目の前には、炎を放つ寸前の舞。これで僕は理解する。燃やされるのは僕だ。それが分かった瞬間、僕の心の中にどこか安堵の気持ちが湧き上がってくる。きっと、それは怜を救うことが出来たからだと思う。後ろにいる怜の表情は、見なくても分かる。僕が死んでしまうことで、彼女を悲しませてしまうだろうか。僕はそんな罪悪感を感じながら、目の前にある未来を受け入れるように目を閉じた。

「――ぁぁああぁっ!」

 誰かの叫び声が聞こえる。同時に僕の耳を何かが掠め、焦げ付くような感覚が僕の耳に現れる。ゆっくりと目を開けると、肩で息をしている舞が、僕の方を睨んでいた。――まさか、外した?

「なんで、あんたは、そうやって、いつも――!」

 彼女は苛立っているようだった。先程見た魔法を放つ寸前の舞の表情とは、明らかな差異がある。放つ前は冷静な表情をしていた彼女が、今は苦悶と苛立ちの表情に変化している。あの魔法を放ったことが何かしらの原因なのだと思うが。

「朔君、大丈夫!?」

 怜が慌てて僕のもとに駆け寄る。僕たちは裏通りの地面に着地したが、舞の炎のおかげか黒い異形が現れてこない。

「うん、ちょっと耳に変な感じがするけど、大丈夫だよ」

 僕はそう言って焦げた感覚のする方の耳に触れる。じりじりした痛みはするが、焼けていたりはしない。どうやら火傷で済んでいるようだ。

「良かった……で、彼女……どうする?」

 心の底から安堵したような溜息を吐いた怜は、その後スイッチが切り替わったかのように冷淡に、僕に相談を持ちかけてきた。彼女の声色から、選択肢は一つしかないように思える。

「はぁっ、はぁ……」

 舞はかなり疲弊しているようだ。怜は着々と準備を進めている。彼女の周囲は少しずつ凍りはじめ、炎も消えかけている。

「れ、怜……駄目だと思う、それは……」

 僕は本当に否定していいのか分からないまま、怜のやろうとしていることを止める。怜はその言葉を聞くと、心配と後悔の入り混じったような表情を見せた後、魔法を使うのを止めた。

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