-Episode78-
「な、なんで……!?」
僕は結界の内側に現れた黒い異形に驚く。他の皆も同じような反応を示していたが、弥奈は結界を消滅させないためか目を瞑り、ゴル先輩はまだ黒い異形の存在に気付いていない。そして迅と怜は、
「とりあえずこいつらを倒せば大丈夫だろ! まだ出てくるみたいだし、数が増えてどうしようもなくなる前に、なんとかする!」
勇敢に黒い異形に立ち向かっていった。迅は僕たちに近づいてくる黒い異形を吹き飛ばしていき、怜は吹き飛ばされた奴を凍らせて動けなくしていく。動けなくなれば弥奈の結界が移動するときに外に追い出されるので、再び入ってくることはおそらくない。しかし、結界の内側からはまるで侵入口が影の中にあるかのように、次々と黒い異形が出てくる。
「む? 何者だこやつら? ……ふむ、つまり、敵という奴だな! ならば某は容赦せんぞ!」
ようやくゴル先輩も奴らに気付き、倒しにかかる。素手で倒せるのか心配になった僕は一旦ゴル先輩を止めかけたが、それは杞憂だったようだ。迅の魔法で行っていることと全く同じことを、彼は生身の体で行っている。これほどゴル先輩がすごい人に見えたことはない、と言い切れるくらい、彼は活躍していた。それでも、侵入してくる黒い異形の量は依然として変わらず、迅は少し疲労してきていた。よく考えてみると、こうして三人がかりでやっと抑え込める量のこれらを、優奈はよく一人で突破できたものだ。それだけ彼女の魔法が強力だったということか。
「――優奈ちゃんが朔君の所に向かってこんな危険なところを進んできたの? 何というか、優奈ちゃんの行動力って、すごいね……多分色々な感情が重なってそんな行動をしたんだと思うけど……。あ、そういえば、強い感情で生まれる魔法っていうのは、頭で深く考えて使うものと違って、とんでもない威力があるらしいよ。もしかしたら優奈ちゃんがここを突破できたのは、そのおかげかもしれないね」
怜は僕の表情を読んだり、つい呟いてしまった僕のいくつかの発言を聞いたりして、黒い異形を凍らせながら僕の考えていることに反応する。そんな彼女を見ていると、何もできていないことが悔しくなって、僕にも何かできないかと必死で考える。魔法は僕は使えない。身体能力もあまりない。頭だってそんなにいい訳じゃないけれど、僕にできることは考えることしかない。少なくとも僕はこの中の誰よりもこの中に長く居たんだ。僕にしか分からないことがあるはずだ。
「そうだ、上だ!」
しばらく思考を重ねたのち、僕は一つの考えにたどり着く。思い出したのは、迅と一緒に建物の上にまで登った時。あのとき黒い異形は、上に這い上がろうとしていたものの、建物の近くに黒い異形が発生したりはしていなかった。杣の結界と弥奈の結界には多少の差異があるので、これで確実に奴らの侵入を防げるとは思えないが、やってみる価値はある。そのことを説明すると、真っ先にゴル先輩が手を挙げた。
「それなら、某の出番だな!」
彼がそう言うが早いか、急に地震のようなものが起こる。地震が起こったのかと思う頃には、僕の体が少し上に上がって、いや、僕たちのいる周囲の地面が上昇していることに気付く。まさかこれは、ゴル先輩の魔法? そう思っている間にも地面は結界のあるところを綺麗に切り取って上昇していく。周囲の建物と同じくらいの高さにまでやってきたとき、もう黒い異形は影から現れなくなっていた。
「とりあえずは、一段落、ですね」
状況が落ち着いたためか、少し余裕を取り戻した弥奈が話す。迅は集中を切らしたのか少し疲れた様子で地面に座り込んだ。ゴル先輩と怜はほとんど披露している様子がない。怜はあれだけの魔法を使っても集中が切れないのか。むしろ最初から集中しなくても魔法を使えるのか?
「なんだか、初めてゴル先輩をすごいと思ったぞ」
迅も僕と同じような感想を抱いていたらしい。それだけ彼の普段がどれだけ残念なのかが分かるのがさらに残念であるのだが。
「ふっふっふ、もっと褒め称えてもよいのだぞ!」
ゴル先輩は嬉しそうに僕の背中を叩く。なんだかこの痛さも微妙にしっくりくるようになってしまった。
「朔君がマゾヒストに変化した!」
「全部言われるとなんか本気でそれっぽいからやめて!」
一段落した途端、怜は急にふざけだした。変な勘違いは本当にやめてほしい。
「そんなこと言っても、なんだか嬉しそうな顔してたしー」
怜はにやにやしながらさらにおちょくってくる。僕だけがこの会話を聞いているならいいのだが、
「え、そ、そうなん、ですか?」
弥奈のような純粋な人がいる場所でこういうことは言ってはいけない気がする。怜とゴル先輩がいると、場が切り替わるのが早い。そんな感想を抱いていると、僕の視界を何かが掠めた。今のは――雷?




