-Episode77-
ゴル先輩達がこの場所に集合するまで、怜はボードに乗ってもう一度周囲を探してくれた。出来れば裏通りなんて危険な場所に優奈が連れ去られていないといいのだが……。しかしそんな僕の期待も虚しく、怜は優奈を見つけられなかったみたいだ。迅はその間杣に電話をかけてみたらしいが、案の定電話に出てくれることはなかった。怜が戻って数分経つと、ゴル先輩と、弥奈がやって来てくれた。舞は都合が悪いからと断ったらしい。僕としては優奈の危機を都合が悪いというだけで断るのはひどい話だと思ったが、舞と怜が鉢合わせするとまた危ないことになりかねないから、これでよかったとも思えた。
「まぁ弥奈がいれば結界を張って安全に探せるから、良かったよ」
僕は安堵の溜息を吐く。彼女が虹魔法使いというだけで、なんだかとても心強い味方を得たような気がする。彼女はそういう所を鼻にかけたりもしないし、とても立派な人だと思った。
「むー! 浮気は駄目だよ!」
怜が僕の頬を引っ張りながら怒る。いや、別に浮気とかじゃないけど。もしこれが浮気になるなら、僕は誰かのことを立派な人だと思う度に浮気をしたことになるのだろう。そうしたらこれから何人の人と僕は浮気をすることに――。
「おーい朔! 置いてくぞー!」
迅の呼ぶ声で、ふと我に返った僕は、慌てて迅達の方へ駆けていく。怜のペースに乗せられてしまうと、本来の目的をきれいさっぱり忘れかねない。ただ、怜のおかげで大分緊張がほぐれてきたのだけれど。こういう場面で緊張がほぐれることがいいことなのかはさておき。
「じゃあ、いきますね……」
弥奈はゆっくり呼吸をすると、彼女の手のひらからシャボン玉のようなものを生み出した。やがてそれは大きくなり、僕たちを包み込む。
「おおお! これが弥奈の魔法というやつか! 綺麗な球状であるな! 某はこの名前を知っているぞ! 確か巨大な玉とかいうやつだったな!」
ゴル先輩の勘違いな発言も、怜とどっこいどっこいである。僕の周囲にはどうしてこういうよく分からない人が集まるんだろう。迅と弥奈ぐらいだ。僕がまともでいい人だと思える人は。杣もまともそうな人ではあるのだが、今回の件でそれが疑わしくなってきている。怜やゴル先輩とは違い、舞とも違っている、なんだか奇妙な内面を彼女は持っているような気がしてならない。
「うわ、裏通りに入った途端にびっしり……」
迅は結界の外側に張り付いた黒い異形を見て、若干引いていた。弥奈は結界を張ることに集中していて、怜とゴル先輩は能天気に黒い異形を見ていた。僕は平気そうにそれを見ている二人に若干引いていた。
「朔君! 引くならゴル先輩だけにしなさい!」
僕の視線に気が付いたのか、怜が文句を言ってくる。ゴル先輩は話の内容を理解していないらしく、ただ笑っていた。僕の中で怜のことを思い出しても、僕と怜のやりとりがほとんど変わらないことになんだかおかしくなって、僕は少し吹き出してしまった。
「な、なんで笑うのかな?」
僕が考えていることはしっかり読めているはずなのに、怜はそんな質問をしてきた。僕の考えていることがおかしかったのかな?
「ん? いやー、なんでだろうね……不思議と笑っちゃったんだよ」
僕は思ったことを正直に話す。怜が少し不満そうに、しかし口元は少しだけ緩めて顔を逸らした。そんなひと時を過ごしていると、弥奈が立ち止まる。
「心なしか……結界が、狭く、なっている、ような、気がします……」
結界が狭くなっている、ということは、黒い異形が結界を圧迫しているということなのだろうか? 破壊できないから、結界ごと重さで押しつぶそうとしているのか? 弥奈が黒い異形を吹き飛ばせばそれぐらい解決しそうなものだが、こうして狭くなっていることを口にしたということは、それが出来ないということなのだろう。なら――。
「む? そうか? 某、目はいい方であるが、結界は全く狭くなっていないぞ?」
ゴル先輩は腕組みをしながら言った。ゴル先輩の言葉は大抵はよく分からないものであるが、目がいいというのは事実だろう。そのゴル先輩が結界は狭くなっていないというのだ。つまり、どういうことなのだろう? 狭くなっているように見えて、実は狭くなっていない。まるで錯覚のようだ。……あるのか? 僕たちを錯覚させている何かが。そう思って周囲に目を凝らすと、地面にある変化があることに気付いた。
「見て、影がこっちに向かって伸びてるんだよ。だから、地面を見ると半径が短く見えるから、結界が小さくなって見えるんだ」
そこまで説明して、僕は一つの違和感を覚える。こんな薄暗い裏通りで、こちらに伸びていることが分かるほどはっきりとした影があるのか? そう思った瞬間、その影から黒い異形が飛び出してきた。




