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Lonely Liar  作者: Laugh
-Episodeβ-
185/344

-Episode74-

 杣のまるで何かに裏切られているかのような表情に、僕は心のどこかが痛むような感覚を覚える。その表情を見ていると、優奈の言葉だけを鵜呑みにすることは出来なかった。

「ほ、本当……?」

 僕は杣に聞いてみる。聞いた後で、たとえ杣が本当に優奈を襲おうとしていたとしても、こう聞かれたら自分はやっていないと答えるであろうことに気が付いた。僕が慌てて発言を取り消そうとすると、

「――半分正解で、半分間違いかな」

 予想外のことを、杣は口にした。わざわざ半分間違いがあると言ったということは、この言葉は概ね真実でいいだろう。となると、気になるのは間違っている半分の方だが……。

「杣さんは、優奈を襲ったわけじゃない……?」

 僕は考えられる仮説の一つを、杣に尋ねてみる。しかし杣は答えず、少し視線をそらしていた。これ以上聞き続けても同じような反応しか返ってこないように思える。

「お、お兄ちゃん、実は、それどころじゃないの」

 自分の言ったことで空気が少しよくない方向へ向かったことに責任を感じているのか、優奈が僕の服を引っ張って言った。

「実は――」

 そこまで優奈が言ったとき、急に周囲から亀裂の走るような音が聞こえてきた。

「今の音は……!?」

 その音に最初に驚いたのは、杣だった。その後すぐ、僕と迅は驚くことになる。

「結界が……!」

 今まで僕達がどんな方法を使っても破れなかった結界に、ひびが入っていた。

「そんな、どうして……?」

 杣は今までになく動揺していた。僕は結界が壊れたことで、一瞬外に出られると喜びかけたが、すぐにそう言ってられない状況であることを理解する。

「朔、俺の後ろに下がっとけ!」

 迅が既に魔法を纏った状態で僕に話しかける。ひびによって割れた所から、黒い異形が少しずつ近づいてきたのだ。次第に逃げる範囲を狭められていく中、僕は魔法瓶を使う決意をした。ポケットに手を突っ込み、魔法瓶を取り出して地面に投げつけようとした時、僕の腕に何かが巻きついていることに気付く。

「い、いつの間に……!?」

 僕の腕には黒い異形がはりついていて、そこから僕の全身を包み込もうとする。腕が動かず、魔法瓶を手放しても、黒い異形に受け止められ瓶が割れずに地面に転がってしまった。

「朔!」

 迅が僕を助けようとするが、彼は他の黒い異形達の相手で精一杯なようだ。

「お、お兄ちゃん……! あ、わ、私、どうしよう……!」

 優奈は僕が少しずつ黒い異形に浸食されていく様子を見て、恐怖しているように見える。この感情が限界を超えれば、魔法が発動するかもしれないが、優奈にそんなつらいことはさせたくない。だが、僕に出来ることはなく、悔しさに歯噛みするしかなかった。その口も黒い異形に浸食されかけた時、急に僕にへばりついていた黒い異形がぼとりと地面に落ちた。見ると、それは何かに串刺しにされているようだった。黒い異形たちと同じ、黒く細い槍のようなもの。その槍の根元を見ると、杣が立っていた。彼女の足元にある影から、細い影へいくつにも分離し、それらが黒い異形を突き刺していく。

「――ここから離れる……! 掴まって!」

 杣はそう言うと、手を差し伸べた。彼女の力ならこの場から逃げ出すことは容易だろう。

「迅!」

 僕は迅に手を伸ばす。彼は僕の姿をちらと二度見すると、すぐにどうすればいいのか理解したのか、僕の手を掴んでくれた。その手で僕は優奈を抱え、残った手で杣の手を取った。すると、視界が真っ暗に染まり、次に目を開けた時には真っ暗な空と近くにある電灯の明かりが見えた。

「……裏通りから出たのか……」

 迅は少し複雑そうな顔で言った。僕の服にしがみついている優奈は状況をあまり飲み込めていないようだ。意図しない形で裏通りから脱出できたが、ここから僕の家までどれぐらいの距離があるのかよく分からない。近くに目立つ建物もないし。

「杣、ここがどこだか分かるか?」

 迅も僕と考えることがほぼ同じだったようで、杣に場所の確認をしていた。

「ごめんなさい、突然の出来事だったから、ここがどこかは分からないの。少なくとも町から出てはいないはずだけど……」

 どうやら杣も明確なことは分かっていないらしい。それだけあの状況が予想外であったということなのか。……逆に、夏休み始めの刀祢のときはあの状況を予想できていたのだろうか。随分落ち着いていたし――いや、未来が視えるなんて、虹魔法使いの弥奈じゃあるまいし、あるわけないか。

「まぁ、ここならあの黒い奴等はやって来ないんだろ? ならなんとかなるさ」

 おそらくこの中で一番落ち着きを取り戻している迅が、僕達を励ますように言った。確かに、あの黒い異形に襲われることは無い。ひとまずの危険が去った今、落ち着いて行動することが大事だ。そう思ったとき、

「朔君!」

 後ろから、怜の声が聞こえて、僕は振り向いた。

 

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