-Episode68-
「そっか、そんなことが……」
僕は迅の話を聞いて、僕が杣に連れ去られた後の状況を理解した。どうやら僕が連れ去られた直後に怜が僕を追いに行ったまま帰ってこないらしく、連絡が取れない状況になっているらしい。まさか舞に見つかったりしてないよな……いや、見つかっているならさっき彼女が目的がどうのこうのとは言わなかっただろう。……しかし、あの黒い異形にやられてしまった可能性も否定できない。怜の安否が心配になってきた。まぁ、僕も他人に心配をかけているので、早くその心配を取り除いてやりたい。迅の話だと、優奈が僕のことを本当に心配していて、下手したら彼女が一人で僕と怜を探しに行きかねないと言っていた。今は弥奈が説得をしてなんとか思いとどまらせているようだ。優奈が本気になったときの行動力は半端なものじゃないからなぁ。怜から聞いた話だと、優奈の魔法は雷らしいし、下手したら死人がでそうだ。優奈に限ってそんなことはないだろうけど。……寝起きのときを除くなら。
「それにしても、杣は一体何が目的なんだ?」
迅も僕からの話を聞いていろいろと思うところがあったらしい。杣が何を目的にして動いているのかは僕にも分かりかねる。舞と一緒に行動していたことから、怜の何かに関係している気はするのだが……。怜に害を与えようとしている節は感じられなかったし、僕を誘拐した後の扱いもそこまでひどいものではない。僕が偶然暇だと呟いていたら、それを聞かれたらしく、知恵の輪やルービックキューブなどの玩具を持ってきてくれたりした。なぜ頭を使う系が多いのかは謎だが。他にも僕の好きそうなジャンルの小説を持ってきたり、僕の好きなおかずが弁当の中に必ず含まれていたり、なんだか誘拐されているのに接待を受けているような気分になったこともある。これが餌付けだとするなら僕はまんまと引っかかっている訳だが。
「僕たちを誘拐してもなんのメリットもないと思うんだけどなぁ」
僕は迅と一緒に杣の目的について考えることにした。
「メリット、ねぇ……俺たちの関係者が不安になる――うーん、杣はそんなことの為に動くか……? うーん」
迅は彼なりのメリットを思いつきながら試行錯誤しているみたいだ。僕はそんな迅の様子に少し違和感を覚えて、質問をする。
「ねぇ迅、迅と杣さんって付き合ってるんでしょ? そりゃ常日頃一緒にいる訳ではないと思うけど、それでも比較的長い間行動を共にしてるはずなんだから、何かしらの兆候とか、見つからなかったの?」
少なくとも、僕と怜みたいな感じだったら、多少の変化は分かるはずだと思うんだけどなぁ。僕の場合を例にすると、怜は僕の顔が見えないと真意を分かりかねて少しずつ慌てだす、とか。
「それなんだがな……なんだか、奇妙な感じなんだ。俺と杣は確かに付き合ってるはずなんだが、温度差を感じるんだ。杣が冷めているというか、いや、もともと俺と杣が付き合っていないような振る舞いを見せることが時々あってな。それに、杣はよく楓っていう少女のことを口にしてたんだよ。彼女が誰なのか俺には見当がつかないんだが……どうも彼女には何かあるらしい」
そういえば、舞の携帯電話の連絡先にも、楓という名前があったなぁ。彼女は一体何者なんだろう? 名前のイメージからすると、杣の親戚か何か、という印象を受けるが。そもそも杣という名前が滅多にないものなので、杣の本名は楓であると言われても納得できてしまいそうだ。そのことを迅に話すと、
「うーん。親戚の線はあるかもしれないな。ただ、それがどうして――あ、いや、この話はやめとく。この話をしてるときの杣は、なんだかいつもより悲しい表情をしてるんだ。そういう話をあんまり無造作に広げたくないからな」
迅は杣のことを思いやって杣に関係のある話を伏せた。僕はそこを追及することはできたが、そんなことをしてもあまり得なことはなさそうなので、しないことにする。代わりに、
「杣の目的については、後々話す機会があるかもしれないよ。だから、状況確認が出来た今は、外に出る方法を考えない?」
話の方向性をシフトさせた。
「……そうだな」
迅は少し考えたのち、頷いてくれた。迅の魔法があれば、選択肢に幅が出る。
「脱出方法としては、上に上ってから僕の魔法瓶で道を作って脱出する、黒い異形達を迅が殲滅しながら出口を目指す、杣をどうにかして説得する、っていうのがあるんだけど……」
迅に意見を求めてみると、
「二つ目はまず却下な。あと、三つ目と一つ目なんだが……上に上るくらいなら、俺の魔法でなんとかなるかもしれない」
少し光明が見えるような情報が手に入った。とりあえず、僕と迅は上に上ることを試してみることにした。




