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Lonely Liar  作者: Laugh
-Episodeβ-
174/344

-Episode63-

 視界は一瞬で蘇ったものの、そこに怜の姿はなかった。ここはどこだ?周囲の妙に古く寂れている建物の様子から、裏通りであることは間違いないが……いや、今はそれより、

「どうしてこんなことを! 杣さん!」

 僕はきっと近くにいるであろう杣に呼びかけた。彼女のことだ、何の理由もなしにこんなことをするとは思えない。だが、僕が考えうる範囲では、この行動の理由が説明できない。

「――少し抽象的な表現になるけど、これからのため、かな」

 裏通りの電柱らしきものの影から、杣が現れて言った。これからのため、つまりこれから何かが起ころうとしている、ということか?

「僕だけをあの中から連れ出すことに、何の意味が?」

 僕は聞けるだけ聞き出しておこうと、さらに質問を続ける。

「――八月十五日、何の日だか分かる?」

 杣は質問を質問で返してきた。文句を言ってやろうとも思ったが、無駄なことを話してあの黒い異形達が集まってくるのはまずい。今僕たちの周りには弥奈の張っていたシャボン玉の結界はないのだ。

「夏祭りの日、だけど」

 その回答に、杣は小さくうなずいた。

「そう。そして、夏休み最後の日」

 杣は最後の部分を少し強調して言った。そこに何か特別な意味があるのか?

「最後の日に、何が?」

 きっとその日に起こることが僕を連れ出した理由につながるのだと思い、僕は質問を変えてみることにした。

「その日に起こる出来事は大きく分けて二つ。一つは、黒い影がこの裏通りだけじゃなく、どこにでも出現できるようになること」

 杣の言っていることは、ある意味妄言に近かった。未来の予測をしているだけなのだから、そこに信憑性はない。しかし、ただの妄言として聞き流すには、その情報は危険すぎるような気がした。

「もう一つは、八月十六日を迎えた時点――もしくは、ある任意のタイミングで、時間が巻き戻って、夏休み初日まで遡ってしまうこと」

 今度の言葉には、僕は明らかな疑念を抱いていた。

「時が巻き戻る? いくら魔法とはいえ、さすがにそこまでは……」

 僕が信じられないでいると、杣は更に驚くべきことを言う。

「魔法じゃない。時を巻き戻すのは、魔法によるものじゃないよ」

 魔法、じゃない? じゃあ一体何なんだ? 杣の呪いと同じようなものだということか? そういえば、怜が杣の使っている影の魔法は魔法じゃないと言っていたな。つまり、その時が戻る現象って――。

「杣が、その時を巻き戻してるんじゃ――」

 僕の仮定を、杣は否定するように首を振ることも、肯定するように頷くこともしなかった。ただ、

「だと、良かったんだけどな――」

 と、フウリンソウのような笑みを浮かべて微笑んでいた。くそ、頭の中がこんがらがってきた。

「とにかく、この裏通りから出ないと――」

 僕が歩き出そうとすると、杣はその腕を掴んで引き留める。

「駄目、ここから出ない方がいい」

 ここから――裏通りから? どうして? ここに留まっていたら、あの黒い異形がいつ襲ってくるか分からない。

「大丈夫――黒い影は、私の近くには絶対に近寄らない」

 杣は、確信を持った表情で言った。どういうことだろう。杣も弥奈と同じような結界をもっているということだろうか?

「でも、なんでそんな話を僕にだけ? 迅とか、怜とか、弥奈さんにも、その話をすればいいと思うんだけど――」

 とりあえず杣の話を信じて、僕は杣との会話を続ける。杣は少し困ったような顔をして、

「ごめんなさい、弥奈さんや迅さんならともかく、怜にはその話をしない、いえ、してはいけないの」

 と言った。何を言っているのか分からない。その口ぶりからすると、まるで――。

「怜が時の巻き戻しを利用して何かをしようとしている……って考えているみたいな顔をしてるね。半分正解で半分間違いだけど、そう考えていいと思うよ」

 杣も僕の表情から考えていることをある程度読み取れるらしく、僕の考えを口にした上でそれに対する回答をしてきた。

「怜は、そんなことを企むような人じゃないよ……仮に時を巻き戻したとして、何をするっていうの?」

 僕が一瞬考えてしまったことではあるが、僕はそれを否定して杣に問う。

「――さぁ。とりあえず、朔君を連れ出した理由について話さないとね」

 ちゃっかり最初の方の質問を覚えていた杣が、ついにその理由について話してくれるようだ。

「それは――朔君には、ここで八月十六日まで待機していてもらうためだよ」

 なんだか微妙に理由になっていない。わざとはぐらかしているのか、説明が難しいのか。

「八月十六日までここにいるって、つまりさっきのアレ――時の巻き戻りか何かを止めるための何かでしょ? なら今僕を連れ去る理由はないじゃないか」

 そう言うと、彼女は少しだけ悲しそうな表情をして、

「今から――私も動くから」

 とだけ口にして、影に溶け込むように杣は消えた。

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