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Lonely Liar  作者: Laugh
-Episodeβ-
173/344

-Episode62-

「え? これって……」

 光一つ届かない暗闇に、僕は見覚えがあった。杣の使っていた呪いだ。しかしなぜ今? なぜここで? ……それより、この状態になったということは、僕の存在は迅や弥奈はおろか、怜にさえ認知できていないということなのか。まるで故意に引き起こされたかのように、タイミングが悪すぎる。

「どうしたの、朔君? ――あれ? 空が……」

 怜が声を掛けてきたことに、僕は少し驚く。 そして怜も空が真っ暗であることに気付いたらしい。もしかしたら怜も杣の呪いを受けていたのかもしれない。

「ねぇ弥奈ちゃん、この空の色、なんとかできる?」

 怜は弥奈に話しかけるが、おそらく返事はないだろう。

「え? うーん……出来ないわけじゃ、ないけど……」

 僕の予想は外れ、弥奈は怜に返事をした。一体どうなってるんだ?

「迅、少しいいかな?」

 僕はあり得ないと予想しながら、迅に声を掛けてみる。……案の定、反応は返ってこない。予想は付いていたが、実際にそうであると何とも言えない空しさがこみ上げてくる。

「ちょっと! 私の前で朔君を無視するなんて、いい度胸してるね!」

 ふと、怜が怒った様子で迅を蹴っ飛ばしていた。彼女の蹴りは見事に迅の脇腹に当たり、彼は横向きのまま倒れる。迅は脇腹を押さえながら、何のことか分からないというような表情を見せて、

「朔――? 誰のことだ? ここには俺と弥奈、あと怜しかいないが――」

 僕の存在が認知できないことを改めて思い知らされた。まぁいいか。呪いが解けない訳じゃないし、解ければ何の問題もなく元に戻れることも分かったし。

「え? ちょ、ちょっと、冗談だよね? ほら、ここに朔君はいるでしょ?」

 怜は僕の腕や足を持ち上げたりしながら言う。これ以上言っても泥沼化しそうなので、僕は口を挟むことにする。

「怜、今僕は誰からも、いや怜以外からはいないものとみなされているんだ。多分迅に何を言ってもどうしようもないと思うよ。あー……えーと、大丈夫! 時間が経てば元通りになるから!」

 途中怜が半泣きになって僕の方を見るので、僕は怜を安心させるために色々と説得のための文句を考えては口に出していく。

「ねぇ朔君、私も他の皆みたいになっちゃうの? 朔君のことをいないものだと思うようになっちゃうの? たとえ一時のものだとしても、私は嫌だよ……」

 対して怜は、彼女の抱えている不安を口に出す。――しまった、言うべき言葉を間違えた。僕は自分の失態に気付き、どうすればいいか迷う。あぁ、どうして僕はいつもこう大事なところで間違えるんだ。

「――いつもじゃないよ――」

 ふと、ノイズのような音に混じって、そんな声が聞こえてきた。どこかで聞いた声だ。誰の声だっけ。一瞬だけ視界に線がちらつき、目を閉じると、そこには別の世界が広がっていた。一人の少年が一人の少女に抱きかかえられている。同年代に見える二人。少年の方はきっと恥ずかしいことこの上ないだろう。本来は逆の立場であるべきなのに――逆?

「怜――」

 僕は直感に任せ、怜の肩を掴む。そしてそのまま、怜を抱きしめた。

「え、――え? ちょ、ふぇ!?」

 顔を真っ赤にさせながら何かよく分からない言葉を叫ぶ怜。――やばい。これは抱きかかえている方もかなり恥ずかしい。しかし、今離すのはあまりにも最低すぎる気がする。

「ご、ごめん、その……」

 せめて怜を安心させることが出来ないかと、何か面白いジョークを考えてみる。今まで一度もそんなことを考えたことはないので、思いつくはずもないが。

「不安そうにしてたから、なんとかしなきゃって……」

 結局、僕は思っていたことを素直に言うことしか出来なかった。何の格好よさもない返答。ちょっとした後悔を抱え――。

「――嬉しい」

 怜はそう言うと、僕の背中に手を回してきた。え? これって、もしかして、いやでも……え?

「あ、え。う……」

 僕は怜のようによく分からない言葉を放つ。まずい、頭が沸騰しそうだ。なんとかしないと……いや、もういいかな? なんだか、このままでも別にいいような気がしてきた。

「幸せそうだね」

 背後から冷たい刃のような言葉が添えられたのは、その直後だった。

「杣……!?」

 振り返ると、杣が僕を、いや僕のことなど見ていない。彼女が見ているのはどこだ? いやどこも見ていない。焦点が定まっていない。とにかく杣が僕の首を掴んでいた。

「な……!」

 怜がそう叫ぶのと、杣が僕を影の中に引き込もうとするのは、ほぼ同時だった。彼女は僕を怜から引き剥がし、そのまま彼女自身と一緒に地面の中に引きずり込んでいく。何とか抵抗できないかと、僕は僕の首を掴んでいる手を離そうとする。しかし、話すことはできない。それほど強い力は入っていないはずなのに。

「怜っ!」

 僕は必死で怜の名前を呼んで手を伸ばす。

「朔君っ!」

 怜も僕の方へ手を伸ばす。指先がちりと触れた所で、僕の視界は完全に影の中に落ちた。

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