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Lonely Liar  作者: Laugh
-Episodeβ-
172/344

-Episode61-

「う……ん」

 頭痛に悩まされながら目を開けると、暗い空が映っていた。夢から覚めたのだろうか。視界には迅と怜の顔が入っている。

「大丈夫か?」

 迅が心配そうに声を掛けてきた。そりゃあ急に意識を失ったら心配されるか。

「ごめん、急にめまいが起きて……」

 僕は迅に謝ってから起き上がる。

「三十分も、気絶してました、です」

 迅の後ろで弥奈が僕の気絶していた時間を教えてくれた。ということはそれだけの間この場所に留まっていたということか。弥奈のおかげで黒い奴等からの襲撃はないものの、正直弥奈に申し訳ないと思う。魔法の維持に集中力が必要であることがから考えるに、弥奈は三十分間も魔法の維持に意識を向けていたのだ。きっと疲労が溜まっていることだろう。

「ごめん、気絶なんかしちゃって……」

 僕は弥奈に謝りながら立ち上がり、これまでの遅れを取り戻そうと出口を探して歩き始め――。

「朔君ー! さっきから私が何を言っても無視するってどういうことなの!?」

 実は僕が目を開けた瞬間から僕の名前を呼んだり何度も良かったと口にしたり抱き着いてきたりしていた怜が、ついに不満を口にした。

「あ、う、うん……ごめん」

 僕はまともな返事すらできずに、怜と顔を合わせないまま歩く。夢の中で見た光景がまだ忘れられず、僕は怜にどんな顔を向ければいいのか分からない。動作だけが無駄に早くなり、周囲を困惑させてしまう。

「なぁ、本当に大丈夫なのか? 俺が言うのもなんだが、なんだか困っているように見えるんだが」

 迅が僕の様子を見て肩に手を当ててくる。その気遣いは本当に嬉しいが、僕はその気遣いにどう接すればいいのか分からず、ただ曖昧な笑顔を浮かべ、

「だ、大丈夫。うん、大丈夫だと思ったり思わなかったり」

 よく分からないことを言っていた。どうしてこんなに慌てているんだろう。

「それは……大丈夫じゃないだろ……」

 苦笑いと呆れ顔を足して二で割ったような表情で、迅が肩に当てていた手を離した。

「あ、出口です」

 ふと、弥奈が右の方を指差す。そちらを見ると、そこだけ黒い奴らの姿がなく、代わりにどこかの住宅地のような景色が広がっていた。どうやら黒い異形は裏通りにしかいられないらしい。ということは、裏通りの外に出られれば後は安全ということか。

「うにゃぁぁぁああ!」

 急に後ろから奇声が聞こえてきたかと思うと、怜が僕の脇をくすぐり始めた。

「う、うわっ!? れ、怜、やめがふっ! ちょ、まじでうふぇっ! お、それいぶぁ! だめぇぅん!」

 怜を制止しようとする度に僕もよく分からない声を上げてしまい、迅と弥奈から複雑な視線が向けられてしまった。

「さっきからなんで無視ばっかりするの!? こっちも向いてくれないし! 意識を失ってる間に何かあったの!?」

 何かあった、と言えば確かにあった。あれは僕の記憶なのか、それとも僕の生み出した妄想なのか。どちらにしても、怜が僕に非常に好意を抱いていること、そしてそれに対する僕の反応が――少なくとも好意的であることが分かってしまった。明確に好きかどうかは分からないが、少なくとも異性として気にしてしまう程には。

「な、何かあったんでしょ! それ以外考えられない!」

 怜は僕の後ろで何度も僕を振り向かせようとしたり、回り込んで僕の顔を見ようとしたりするが、どうしても顔を合わせづらい僕は、顔を逸らしたり、回り込まれる前に向きを変えるなどして、必死で抵抗する。

「しゅん……」

 何度も同じ応酬を繰り返していると、怜が諦めたようにくすぐっていた手を離した。大きな罪悪感が僕にのしかかってきて、何か言わずにはいられなくなる。

「あ、あのさ怜、僕は別に怜のことを嫌いになったとかそういうんじゃなくて」

 そんなことを言いながら怜の方を振り向いてしまったのが、僕の失敗だった。彼女は僕の方をじっと見つめていたのだ。まるでどう振り向くか分かっていたかのように、僕の視線は怜の視線とぴったり重なってしまう。

「――あ、朔君、赤くなってる」

 怜が無意識に発したその言葉に、僕は思わず顔を背け、

「え、な、何が? 熱でもあるのかなぁ? もしかしたら頭痛からくる風邪だったのかもしれない! 早く家に帰って治療しないと――」

 と言った。自分でもおかしいことを言っているのが分かる。見なくても分かる。怜はにやにやしながらこっちを見ているんだ。そしてきっと僕を思い切りいじり倒すに決まっている。僕はそんな覚悟をして、もう一度怜の方を振り向いた。

「あ――」

 そして、僕は言葉を失った。あまりにも予想外で、言葉が出てこなかった。振り返った先では、怜が、ナズナのような笑顔を浮かべながら――泣いていた。どうして泣いているかなんて分からない。ただ、その表情がとても美しいと思った。

「あの、僕――」

 そう口を開いたとき、薄暗かった空が闇色に染められた。

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