-Episode59-
黒い異形は僕たちの姿を見ると、まるで僕達を引き込むかのように近づいて憑りつこうとしてくる。怜は水の魔法、迅は魔法で纏った鎧のようなもので、黒い異形を倒していく。僕も加勢したいところが、僕が今持っている魔法瓶は全部で四個。下手な使用は避けなければならない。――ふと、僕の背後に気配がして、僕は慌てて前に飛び込む。なんとか受け身を取って、背後を見る。すると、そこにはフードを被った少女がいた。
「あ、あの……」
そういえば、弥奈も迅と一緒に来ているんだっけ。随分と存在感が希薄だな。そういえば、彼女は虹魔法使いだ。彼女ならこの状況を簡単に好転させられるかもしれない。
「弥奈さん、今周りにいる黒い奴等、なんとかできないかな?」
僕が声を掛けると、彼女は元からそのつもりだったのか、小さく頷いて両手を前に出す。するとそこからシャボン玉のようなものが現れ、次第に大きくなってこの場を包んでいく。
「な、なんだ……? これは、弥奈が?」
最も弥奈から離れていて、かつ黒い異形に最も近かった迅がシャボン玉の中に入る。すると、黒い異形だけがまるでフィルターにひっかかったかのように、シャボン玉の外へ追い出されていった。
「すごいね……もう反則技じゃないかな」
怜は驚いた様子で今の状況を見ていた。
「す、すみません……」
弥奈は反則技という言葉に反応したのか、謝った後しょぼくれてしまった。
「ま、まぁいいんじゃない? これのおかげで安全に優奈を探せそうだし」
弥奈が可哀想だったので、僕はフォローを入れつつ優奈の捜索を再開する。
「――うーん、何ともシュールな光景だよね」
怜は裏通りを歩きながら、のんびりと言う。
「ま、まぁそうだね……」
僕は弥奈の張っているシャボン玉の外側を見ながら言う。そこには先ほどまで僕たちを襲っていた黒い異形がびっしりと張り付いて、こちらをじっと見ている。しかし弥奈の張った結界のようなものが強力だからなのか、こちらに入ってくることはない。弥奈の近くが安全地帯となってしまった今、黒い異形がなんだか可哀想になってきてしまった。勿論襲いかかられたらたまったものではないのだが、ずっとこの光景を見ていると、黒い異形の表情がなんだか泣き苦しんでいる人に見えて来て、同情を誘う。
「あんまりこういうのを見ているのは好きじゃないな。いくらこんな奴らだとはいえ、人間みたいな表情をしてると、なんだか情が湧いてきそうだ」
迅も僕と同じようなことを考えていたらしい。それにしても、とんでもない量の異形がここに集まっているな。弥奈のシャボン玉の外は、もう完全に真っ黒いもので埋め尽くされている。目のやりどころに困るくらい大量にひしめいている黒い異形が、必死でこの結界を破ろうとあがいている。
「このまま優奈ちゃんを探してると、優奈ちゃんの方にこれだけの量の変なのが襲いかかっちゃいそうで、危険だよね……」
ふと、怜がそんな言葉を漏らした。確かにそうだ。きっとこいつらが僕たちを襲おうとしているのは、この辺りに僕らしかいないからであって、僕達とほぼ同じ距離、しかも結界の張られていないところに人がいれば、間違いなくそちらに向かうはずだ。――そう考えると、これ以上優奈を捜索するのは困難だということになる。
「優奈……」
僕は優奈の名前を呼ぶと、小さく溜息を吐いた。未だ安否の確認が取れない中、僕の不安だけがどんどん大きくなっていく。
「俺がこんなことを言うのもなんだが、気にし過ぎるなよ。下手に悪い方へ考えすぎると、本当にそっちの方向へ自体が悪化するって言うしな」
僕の不安そうな表情を見てか、迅がそんなことを言う。確かに少し考えすぎていた感じはある。迅の言うとおり、僕が勝手に事態を悪化させていてはいけない。優奈なら大丈夫だ。僕は無理やりにでもそう信じ込んで、今日の捜索は一旦中断することにした。
「――ん?」
そして帰り道、弥奈の虹魔法で探し出した出口へ向かっているとき、僕は地面で何かが光っているのを見つけた。
「これは……ロケット?」
ロケットペンダントのようだ。なんでこんなものがこんなところにあるのだろうか? 蓋は固く閉ざされており、開けようとしてもあけられない。
「朔君、どうしたのそれ?」
怜がペンダントに気付いたのか、声を掛けてきた。
「これ、見つけたんだけど……開かないんだよね。怜、開けられる?」
駄目もとで怜に頼んでみる。すると、水魔法を使ってペンダントを開けようとしていた。水の力で開くものなのか? と疑問に思ったが、意外と簡単にロケットは開いてしまった。どうやって開いたんだ。
「中には写真が入っているね……って、これ、私?」
ふと、怜が僕に中身を見せてくる。そこには、空色の髪をした怜にそっくりな人物、いや、怜そのものが映っていた。




