-Episode58-
「朔君、大丈夫? 怪我とかしてない?」
僕を地面に突き落した張本人である怜だったが、僕の身を案じてはくれた。いろいろと僕の扱いがひどい怜ではあるが、最後にはちゃんとフォローを入れてくれたりする。僕は誘拐されていたのであの場に居合わせたのは僕ではないが、、あの時食べ損ねていた弁当も僕のそっくりさんが食べている。
「うん、おかげさまで」
僕は怜にお礼を言って、迅の方を向く。彼は僕が付いて来ていないことに気付くと、その場に立ち止まって僕の方を向いていた。
「ふふん、私は細かいところはしっかりする主義だからね」
妙な自信をつけたらしい怜は、迅の方へ駆け出していった。その後迅に跳び蹴りのようなものを食らわせていたが――多分、怜のことだから、大きな怪我を負わせていないはずだ。どうしてあんなことをしたのかは全く分からないが。
「な、なぁ朔……。怜って子は、いっつもああなのか?」
蹴り飛ばされた際、近くにあったごみ袋に突っ込み、そのせいで色々と可哀想なことになっている迅が、疲労感を滲み出しながら僕に聞いてきた。
「い、いや……完全にそうとは言い切れないかな……大体あってるけど」
僕は言葉を濁して答える。ちなみに怜は僕たちの前で杣の捜索に全力を注いでいるみたいだ。僕たちの会話は聞こえていないのか、反応すらしない。
「朔も色々大変なんだな……」
迅は僕に同情したらしく、腕を組んで大きく頷いていた。この同情はありがたいと言えばありがたいのだが、今の状態が色々と残念なので、どうしても彼に目を向けられない。とりあえず曖昧な返事でごまかし、怜の方へ向かう。
「朔君、この辺、あんまり人の気配がないよ……。なんだか不気味だし、嫌な予感がする……」
怜は捜索に集中しているというよりは何かを気にかけている様子だった。確かに裏通りにはあの変な黒い異形がいるからなぁ……。携帯電話で時刻を確認してみると、午後四時頃を示している。なるべく暗くなる前に優奈や杣を見つけ出したいものだが。
それから二時間、僕達ははぐれないように固まって捜索をしていたが、なかなか見つからなかった。そりゃあこれだけ広い空間で人を探す方が無理である気もするのだが。
「この裏通り、上からだと建物とかに阻害されてあんまり様子が観察できないんだよねぇ。もし阻害されないなら上空から探せるのになぁ」
怜がそんな愚痴をこぼしていた。そろそろ外が暗くなってくる時間帯だ。もしかしたら誰かが捜索を中断しようと言い出すかもしれない。いくら優奈のことが心配といえども、これからさらに犠牲者が増えるのは絶対にあってはならない。ただ、僕からそれを言い出す気にはなれなかった。優奈を何としても見つけ出さなくてはならない。優奈の安否を早く確かめたい。いや、優奈の安全を早く確かめたいと言い換えるべきか。ふと、少し離れた位置に人影のようなものが見えた。
「あれは……優奈かな?」
暗いせいでよく分からないが、小柄な人物のようだ。誘拐犯から逃げ出してここまで来たのかもしれない。僕はそんな予想を抱いて、その人物に近づく。
「……お兄ちゃん……?」
その人物は、僕のことをお兄ちゃんと呼んだ。しかし、その声は明らかに別人のものだ。見ると、一人の幼い少女が涙を流しながら僕を見ている。――その体の半分を、黒い何かに飲み込まれた状態で。
「な、くそっ……!」
一瞬体が硬直したが、それ以上にこの少女を助けたいという思いが勝り、僕は少女に駆け寄って黒い何かを引き剥がそうとする。……しかしそれは彼女に引っ付いたまま、ゆっくりと彼女を飲み込んでいく。ふと、周りにいつか見た黒い異形が大量に集まってきているのが見える。……前に見た時よりも、数が増えている?
「朔君!」
黒い異形が僕を囲って円を作っているところに、氷で道が出来る。怜が黒い異形を氷で凍らせたようだ。迅も魔法を纏って近づく黒い異形を倒している。
「二人とも、この子が……!」
僕は腕にかかえた少女を見せて、なんとかできないか相談を持ちかける。
「こ、これは……ぐ、くそ――」
迅は顔をしかめ、悔しそうに俯く。
「朔君――もう、その子は……」
怜は悲しそうな表情を浮かべて言った。その言葉に僕は反応し、腕に抱えている少女を見る。すると、そこには人の形をした黒い何かが、僕の腕の中にいた。そしてそれは、僕を取り込もうとする。
「朔っ!」
迅が急いで僕を取り込もうとした黒い異形を籠手のような橙色の光で吹き飛ばしたおかげで、僕は助かった。しかし、あの子は……。
「急いで優奈を見つけないと……!」
あの子と優奈の姿が重なり、不安が増大した僕は、ポケットから魔法瓶を取り出して、この場を急いで突破することを決めた。




