-Episode52-
「今、何て……?」
僕ははっきり聞いたはずの言葉を信じることができずに、ゴル先輩にもう一度言葉の内容を尋ねた。
「ん? 聞き取れなかったか。まぁこの音では仕方ないな! 実は先日、舞がらしくもなくげぇむせんたぁというものに行かないかと誘ってきたのだ! 某も気になるところだったのでな、同行した、という訳だ!」
さっきとは別のことを言っているような気もしたが、僕の知りたいことは確認できた。今どこにいるかは分からないが、舞がこのゲームセンター内にいる。彼女はどうしてか怜を狙っている。このまま怜と舞が鉢合わせをしたら、ここが半壊もしくは全壊してしまうくらいの惨劇が起こってしまうかもしれない。僕は洞窟での爆発を思い出しながら、早くこの場を立ち去りたいと思った。
「あ、あの、僕はあんまりこういう場所が得意じゃないので……怜、下見は大体済んだし、そろそろ帰ろうよ」
僕はゴル先輩の誘いを断り、怜と一緒に帰ろうとしたのだが、
「がっはっは! 遠慮しなくてもよい! 某も最初はこんな騒音のする場所が不慣れであったからな! 三十分も経てば慣れる!」
「むー! まだ何も遊んでないじゃない! せめて三時間は遊ばないと帰る訳にはいかないよ!」
怜とゴル先輩から猛反対されてしまった。怜に事情を説明するわけにもいかず、僕は辺りを気にしながらゴル先輩とのエアホッケーに参加することになった。
「よーし、朔君、圧勝するよ!」
二対二で始まったエアホッケー、僕は怜と組んでエアホッケーをすることになった。
「あーうん、怜が一人でやっててもいいよ……」
僕はゴル先輩のいるところに舞が戻ってくるんじゃないかと気が気でなく、エアホッケーに集中できるような状態ではなかった。怜は明らかに不満そうな顔をしていたが、僕の表情から考えていることでも読んだのか、特に言い返すことはなかった。……あれ、そう考えると、もしかして怜に舞のことについてばれてしまったのだろうか。それにしては、随分落ち着いている様子の怜だが。
「いくぞ! 某の全力攻撃!」
ふと、ゴル先輩のそんな叫び声とともに、とんでもない軌道のパックが打ち出される。――しかし、怜はそれを魔法を使って氷の分厚い壁を作りだし、その勢いを完全に止めていた。
「ま、魔法は反則じゃないか……?」
迅がさりげなく反論していたものの、それどころじゃない僕と、張本人である怜と、そんなことは全く気にする様子もないゴル先輩では、同意なんて得られるはずもなかった。
「ふぁいやー!」
水なのに火というよく分からない掛け声を上げながら、怜は水鉄砲でも打ち出すかのようにパックを打ち出す。僕と迅じゃ絶対に取れないような空中に飛ばされたそれを、ゴル先輩は華麗に打ち返していた。どうやらエアホッケー台は怜とゴル先輩の独壇場になっているみたいだ。僕はさりげなく迅とアイコンタクトを交わし、そっとその台から離れる。端っこに見つからないよう縮こまりながら、僕と迅はひそひそと話しだした。
「なぁ朔、さっきから何を気にしてるんだ?」
迅の最初の質問は、これだった。迅には事情を説明しておいた方がいいだろうかと思ったが、迅の彼女である杣も僕をさらった側に加担はしているので、少し言いづらいところがある。僕自身彼女を責める気はないが。
「ちょっと、人目を気にするタイプなんだよ……それより、登山の時、何か変わったこととかなかった?」
僕は僕が攫われた後のことを聞こうと、ちょっとひねった質問をしてみる。
「変わったこと? 朔は何かあったのか? ……まぁ、先に俺の方から答えておくか。俺は特に何もなかったと思うぞ。まぁ朔は途中弁当を一人だけ食べ損ねていたから、つらかったよな。ま、後で食えたんだし、結果オーライか」
迅の話によると、僕は後で弁当を食べれたらしい。僕に扮した誰かが僕の代わりに山を登ったのだろうか? しかし、あの場には僕に似た人物なんて一人もいないはずだが……。それに、仮にそっくりさんがいたとしても、怜はそんなのすぐに見抜いてしまいそうだし。そうなると僕がいない! と大騒ぎになるはず。
「ところで、杣について何か知らないか?」
ふと、迅が二つ目の質問をしてきた。杣、か。少し話を聞いてみると、どうやら迅たちが登山から帰った後から、消息がつかめていないらしい。メールや電話を送り続けているが、返事が一向に帰ってこないのだ。
「……ん?」
ふと、僕はポケットの中に入っている携帯電話のことを思い出す。何度もメールで返信をしているのなら、ここにメールが届くはずだ。なぜならこれは杣が持っていて、杣からもらった携帯電話なのだから。
「どうした? 何か知っているのか?」
真剣な表情で聞いてくる迅に、僕はとりあえず昨日杣に会ったということだけを伝えることにした。




