-Episode43-
「ど、どうって……?」
いきなり聞かれた質問に、僕は戸惑いを覚える。あまりにも真剣な表情をしていたから、そんな人間関係のことじゃなく、もっと別のことを聞かれるものだと思っていた。
「具体的に教えてほしいの。朔君が怜のことをどう思っているかについて」
杣は相変わらず真剣な表情で妙なことを聞いてくる。いきなりそんなこと聞かれても、どう答えたらいいか分からない。
「う、うーん……嫌いじゃない、かな……?」
僕の曖昧な返答に、杣はきょとん、とした顔をしていた。あれ? もしかして僕が質問の意図を履き違えた?
「……ごめんね。私が言いたかったのは、ここ数日の怜の行動について朔君がどう思っているかということを聞きたかったの」
苦笑いを浮かべ、杣は質問を訂正する。勘違いしてしまった自分が恥ずかしい。顔を真っ赤にしながら質問に答えようとするが、ふと違和感を感じて質問をする。
「杣さんは、怜の数日間の行動を知っているの?」
どう思っているか、というのは、数日間にした怜の行動を把握していなければ出てくることのない質問だ。
「知ってるよ」
杣はそっけなく答えた。どうやって知ったのか、という質問をしようとした時、
「魔法で見てたの。ちょっと事情があってね。その事情については教えられないけれど」
杣は僕の質問より早く回答を出してきた。
「あ、そ、そう……えーと、ここ数日の怜の行動か……」
僕は口に出して、ここ数日間の出来事を思い出す。一番印象的なのは、怜が刀祢を氷漬けにしたことだろうか。あの時の表情を思い出すだけで忘れていた恐怖が少し蘇ってくる。しかし、凍らされた刀祢も死んでいないことが確認できたし、別に殺めるつもりであれをおこした訳じゃないということも想像できる。
「少し怖いところもあるけど、いい人だと思うよ。ここだけの話だけど、あの舞さんよりはずっと優しい」
舞がいないのをいいことに、ちょっとだけ舞に感じている不満を吐きださせてもらった。なんだか自分の言っていることがなんだかおかしな気がして、僕は頭を掻く。
「ふぅん」
杣から質問してきた割に、返答はあっさりしていた。なんだか釈然としない。杣の方に流し目をしてみると、彼女は何か考え込むように腕を組んでいた。
「――はいいとして、問題は――。でも――」
時々呟いてくる声が僕の方にも聞こえてくる。舞の姿は既に見えなくなってくるし、しばらく杣の呟きが終わるまで待ってみよう。
数分後、僕が暇そうに地面を足で削っているのを見た杣が、小さく咳払いを一つして、呟きを終えた。
「僕からも質問、いいかな?」
彼女が咳払いの後何も言いださなかったので、僕の方から質問を投げかける。彼女は小さく頷いた。
「杣さんと舞さんが僕をさらったのはどうして?」
まずはこの理由が聞きたかった。僕の両親、特に父は僕が誘拐されたからと言って身代金を用意するような性格の人ではない。父は自力で助けに向かうだろうし、母は今謎の病気で意識を失っている。つまるところ、僕が誘拐される理由が見当たらないのだ。
「簡単に言えば、人質、かな……」
人質、と杣の口から割と物騒な言葉が出てくる。
「私の提案じゃないんだけどね。舞が朔君を誘って、怜をおびき出そうとしているの」
ふと、舞と怜の名前が出てくる。そういえば、さっき舞が怜を呼び出して殺すとかいう物騒なことを話していることを思い出した。
「そうだ、舞さんを止めに行かなくちゃ!」
思い出した途端に今の状況がかなりまずいことに気付き、僕は杣に裏通りの出口に案内してもらうように頼んだ。しかし彼女は出口への案内はせず、
「私は、舞の計画を支援する代わりに、怜を殺さないように説得していたんだけれど、ついさっき失敗してね」
さっきの会話がそうだったのだろう。
「だから、舞が怜を殺すかもしれないんでしょ? 早く止めに行かないと……!」
僕は次第に焦り始めているのを感じた。そりゃあそうか。人一人、しかも身近な人の命がかかっているんだから。
「大丈夫、舞は怜を殺せないよ」
ふと、妙に自信のある声で、杣は言った。
「ど、どうして?」
僕には杣の自信の根拠が分からない。……ただ、これ以上質問しても答えは返ってこなかった。仕方ないから、僕は別の質問をすることにする。
「今、僕の姿って、杣以外に見えていないの?」
刀祢にも猫にも舞にも僕の姿が、姿だけでなく声も見聞きできない状態に今の僕はなっている。その原因はおそらく杣にあるのだと今は仮定しているが……。
「大体想像している通り、私が私以外に知覚できないように魔法――いえ、呪いをかけたの」
杣は僕の思っていることをある程度読んで答える。僕の表情ってそんなに読みやすいのかなぁ? そんなことを疑問に思いつつ、僕は杣のかけたらしい魔法もとい呪いについてもっと聞いてみることにした。




