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Lonely Liar  作者: Laugh
-Episodeα-
15/344

-Episode14-

やっとのことでゴル先輩の揺さぶりから解放された僕は、こみ上げてくる吐き気を必死で抑えながら隣の電柱に寄り掛かった。吐き気がしているときは思い切って吐くといいという話があるが、僕の五百二十円を無駄にするわけにはいかない。いや、このうち六割は怜の弁当代か。

「で、あたしに話があるんじゃないの?」

 僕が体調を取り戻すのに必死になっているうちに、舞の方から本題を切り出してくれた。心の中で感謝しつつ、僕は深呼吸をして、

「先週の金曜日、図書室にあなたは来てましたよね。そのとき何か変わったこととかありませんでした?」

 単刀直入に質問をした。僕のこの質問に舞は少しの間両手を腰に当てて考えていた。その最中ゴル先輩が何かを話していた気がするが興味ない。

「特に変わったことはなかったわ。普段通り本を借りて、そのまま帰っただけだから」

 彼女の返答はこうだった。つまり彼女は怜が魔法にかけられる瞬間を見ていなかったということになる。

「じゃあ図書室の中に誰か人はいませんでした?」

 僕は次の質問に移る。さっき記憶をたどったからなのか、今度はすぐに答えが返ってきた。

「がらんとしてたけど、数人人はいたわね。本を読んでる人もいれば勉強してる人もいたわ」

 この返答に、僕は少しだけしまったと思った。図書室に人がいたかいなかったかではなく、図書室に怜がいたかいなかったかを聞けばよかった。二度手間になってしまうかもしれないけれど、もう一度聞いた方がいいのだろうか。僕は後ろをちらと見る。怜は相変わらずの笑顔だ。

「すいません、ちょっとだけ訂正で……。図書室に、髪の色が空色の子がいませんでした?」

 その質問をした途端、舞は表情を険しくした。やはり何か知っているみたいだ。彼女は少しだけ目を泳がせた後、少しだけ声のトーンを低くして言った。

「――その子の名前は?」

 質問を質問で返されてしまった。ここは名前も答えたほうがいいのだろうか。僕は後ろをちらと見る。……そこに怜の姿はなかった。

「名前は言わない方がいいと思うよ。理由は後で言うから、今は私の言うことに従って」

 右耳に、ささやくような声が聞こえた。その方を向くと、怜が真剣な表情で僕を見つめていた。

「ごめん、名前までは分からない。ただその子の姿が特徴的だったから」

 僕は怜の言うとおりに名前を隠し、適当にごまかした。彼女がどうして自分の名前を伏せたのかは分からないが、後で説明してくれるらしいから今は従うだけ従っておこう。

「そう。まず答えから言わせてもらうと、そんな子は見てないわ。もしそんな子がいたらすぐに思い出せるでしょうし」

 舞は肩をすくめて言った。つまり彼女が図書室に来たときにはもう怜に魔法がかかっていたことになる。いつの間にか僕らは裏道を抜け、少し開けた道路にたどり着いていた。僕は彼女にお礼を言ってから、二人と別れた。少し彼女らと距離を置いてから、怜に話しかける。

「結局何の情報も手に入らなかったけど、どうするの? それに名前は伏せたほうがいい理由も知りたい」

 先にした質問は笑顔で黙殺されてしまった気がするが、後の質問の方はしっかり答えてくれた。

「これは私の勘でしかないんだけどね。あの舞って子、多分私に魔法をかけた人物か、その人物をよく知ってる人なんじゃないかなって思うの」

 どうして彼女がそう思うのか僕は分からなかったが、何故か彼女の言うことには納得できてしまっていた。まぁそこは怜の勘でしかないらしいからあまり重要ではないだろう。問題はどうして彼女が自分の名前を隠すようにいったかだ。

「もしあの人たちが私に魔法をかけた人物と知り合いだったら、その人と手を組んでいる可能性が高い。そうなれば、朔君が私と知り合いであると分かった途端、朔君に危害が及ぶかもしれない。……これが私が名前を言わないようにした理由、かな?」

 彼女の言葉を噛み砕くなら、怜は僕に危険が及ばないように名前を隠したらしい。そんな大げさな、と言おうとして、彼女の真剣な瞳に口を閉じさせられた。

「私、朔君には危害が及んでほしくないの。そりゃあ助けてほしいっては思っているけどね。でも私のせいで朔君が傷つくのは見たくないな」

 言い終わった後で、彼女は曖昧な笑みを見せる。その笑顔はどこか儚げで、まるでクロッカスの花のようだった。僕は何も答えられない。代わりに笑顔を返す。ちょっとだけ、彼女の内面を見たような気がした。

「さて、今日は少しだけど収穫もあったし、帰ろっか!」

 怜はいつもの笑顔に戻り、僕の前を歩いて歩き出す。僕は笑顔のまま、思ったことを口にする。

「あのさ、怜。どこに帰るつもり?」

 僕は生まれた時からこの町に住んでいる。家に帰る道順ならいくつか知っているのだ。そして彼女が歩いている方向は、僕の家方面への道だった。

「ん? 朔君の家だよ?」

 当然のように彼女は答える。僕は溜息を吐くしかなかった。

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