-Episode38-
「ぜぇ……ぜぇ……」
体力のない僕がそう簡単に山を登れるはずもなく、僕は何度も休憩を入れてもらいながら最後尾を歩いていた。ちなみに僕たちが登っている山自体は僕が登ると思い込んでいた山で合っていたのだが、進んでいる道は道なき道……つまり何の変哲もない山の斜面だ。危険すぎる。
「がっはっは! 朔よ、そんなことではいつまで経っても痩せたままだぞ!」
ゴル先輩がからかいのような言葉を言いながら背中を叩く。昼食を食べてたら間違いなく戻していた。
「お、お兄ちゃん、大丈夫?」
ゴル先輩におぶってもらっている優奈が、僕を心配して声を掛ける。息切れが激しいが、疲労そのものはそこまで苦ではない。苦しいのはゴル先輩に叩かれた背中が痛むことだ。
「朔、飲むか?」
迅が彼のバッグからスポーツドリンクを取り出して僕に渡す。僕はありがたく受け取り、少しだけ口に含む。呼吸がそれなりに安定してから、ゆっくりとそれを飲み込んだ。
「無理、しない方が、いい、と思います」
迅の後ろに隠れながら声を掛けるのは弥奈だ。彼女は魔法で浮遊しながら登山していたため、全く披露していない。そう考えると、しっかり歩いて登山しているのは、僕と怜と迅とゴル先輩ということになる。小学生の優奈はまだしも、僕たちと同年代の弥奈がそれじゃちょっと不公平だろう……。まぁ彼女は女性だし仕方ないという見方も出来るが。
「朔君そのくらいで疲れちゃったの? まだ朝だからいいけど、このペースだと昼までに頂上にたどり着けるか分からないよ?」
怜は冗談交じりの溜息を吐いて言う。確かに、このままだと日が暮れてしまいそうだ。
「えーっと……じゃあさ、怜、魔法使って前みたいに氷の円盤みたいなの作ってみてさ、今の弥奈さんみたいに運んでよ」
僕は今最善であろう考えを述べてみる。しかし、
「朔君、登山っていうのは、何も頂上からの眺めを楽しむだけのものじゃないんだよ? 登る過程もとっても大事だっていうこと、忘れないでね?」
なんだか軽く説教されてしまった。そのせいかどうかは分からないが、僕の体調が回復するまでみんなに待ってもらい、僕は結局歩いて登山を続けることになってしまった。怜は僕が使っていいと言った時以外には魔法を使わないらしいが、結果的に見れば以前とあまり変わらないような気がする。
僕の休憩のせいもあってか、頂上に着く前に昼を迎えてしまった。僕だけの原因ではないとは思う。なぜなら途中でゴル先輩が暴走して優奈ごと迷子になったり、弥奈が何を血迷ったのか急に魔法でよく分からない暴走をし、怜と迅とゴル先輩の三人で彼女を止めたり、怜が崖を見つけたと言って僕を呼びつけた瞬間その崖から突き落したり。半分僕の責任はあるが、残りの半分はみんなの責任だ。怜がリュックサックから弁当を取り出している間にそんなことを言うと、
「でもそれだと朔君が一番悪いことになるよね?」
さりげなく怜に痛いところを突かれてしまった。
「で、でもみんなに何も責任がない訳じゃないよね!?」
僕は必死に抗議する。
「ま、まぁ俺は何もしてないけど……」
確かに何もしていない迅が控えめに主張する。
「わ、私も……」
優奈も何もしていないから、同様に主張したようだ。
「朔君ー? 無実の人に罪をなすりつけちゃいけないなぁ」
若干正論のようなことを言う怜。言っておくが、怜のせいで僕は一回死にかけたんだからね? まぁ怜が助けてくれたけど。
「じゃ、じゃあ僕と怜とゴル先輩と弥奈さんの四人で平等に責任を……」
僕はその後、大きく息を吸い込んで言う。
「僕にも弁当を分けてください!」
ちなみにこの言葉を言うのはこれで二回目である。怜はたくさん弁当を作っていたみたいで、大きな箱三つ分もの弁当を持ってきていた。そのうち今は二つ目の箱を取り出し、蓋を開けた所である。
「だからー、朔君のせいで遅れたから、朔君には罰を受けてもらわないと駄目なんだよー」
怜はちょっと口をとがらせながら言う。しかし決して怒っている様子はなく、むしろ楽しんでいるように見えた。
「いやだからさっきも言ったよね!? 四人で罰を分担しようよ!? 僕だけ責任を負うって絶対おかしいから!」
それに一番疲労している僕が食べ物を食べないとすると、十中八九僕は倒れてしまうに違いない。
「まぁ脱水症状で倒れられてもアレだしな、ほら、これ……」
迅がスポーツドリンクを手渡そうとした時、怜がそれをひったくる。
「迅! それじゃ朔君のためにならないよ!」
むしろ今の状況の方が僕のためになってない。ふと、怜が指先に魔法で水を集めているのが見えた。
「私が朔君にあげるの!」
……どうやらそっちが本音のようだ。僕は仕方なく怜から水をもらった。途中鼻に水が入ってかなり咳込んだが。




