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Lonely Liar  作者: Laugh
-Episodeβ-
142/344

-Episode31-

 怜は風呂に入るとは答えたものの、すぐに部屋から出てくることは無かった。僕も彼女と鉢合わせして気まずい雰囲気を作るのは嫌なので、部屋に戻って本を読んだりベッドに寝転がったりする。今日はなんだかいつもより疲労が倍ぐらい重く感じられる。そのせいか、ベッドに寝転がっているといつの間にか意識がどこかへ飛んでしまっていた。

「――朔君なら、きっと大丈夫だよ」

 誰かの、声が聞こえる。聞き慣れてしまったような、しばらく聞いていないような声が聞こえる。目を開けようとしたが、開かない。何か束縛を受けているかのように、目だけが開こうとしない。強い風が吹いている。

「そうかな? 諦めてる訳じゃないけど……無理だと、思う」

 ふと、別の方向から声が聞こえてきた。僕がもし目を見開くことが出来たら、間違いなくその声の主の方を向いただろう。確認せずにはいられない。その声は、どこで聞いても、いつ聞いても、誰が聞いても、僕の声だったからだ。

「ねぇ、朔君……言霊って、知ってる?」

 聞き慣れた声が、何か話を始める。誰の声だっただろう。僕の声はすぐに僕だと分かったのに、この声は誰の声だかまるで分からない。頭の中がぐるぐるしてその思考が止まってしまう。

「言葉って言うのはね、すごく不思議な力を持っているんだよ。たとえ出来ないことがあったとしても、出来る、出来るって何度も口にすれば、いつの間にか出来てしまうことがあるんだ」

 彼女の空に透き通っていくような声に、僕は何かひっかかりを覚える。どこかで聞いたことがあるような気がする。もしかして、これは僕の記憶?

「……つまり、どういうこと?」

 僕の声が、聞き慣れた声に質問する。ここが僕の記憶の中だと仮定するならば、僕の声が聞こえてくるのにも納得できる。

「……つまり、そういうこと」

 聞き慣れた声が、答えになっていない答えを返す。確か、この次に僕が発した言葉は――。

「分からないよ、やっぱり」

 僕は彼が話すのに合わせて、同じ言葉を話してみる。その言葉は空気にこだまして、互いにその音を強めあった。

「――そうかな? 分かってるけど、分からないふりをしてるように、私は思うんだけど」

 聞き慣れた声は言う。僕が次に言う言葉は分かる。……けれど、どうしてか彼女の言う言葉は分からない。ここが僕の記憶の中だというのは、半分真実で半分嘘なのか? それとも僕の記憶の奥底にしか、彼女の言った言葉は残っていないのだろうか?

「どうしてそう思うの? 僕は嘘を吐かないって言ったのは、君の方じゃないか」

 僕がそう言ったことは覚えてる。だけど、僕は彼女にそう言われた記憶がない。僕の記憶は、こうも曖昧なものだったのか。

「朔君は嘘を吐いている訳じゃない。ただ、自分のことを少し見失ってるだけ。無意識の内に、分からないふりをしているんだよ」

 無意識、か。ここは、僕の無意識なのだろうか? 今、僕が目を開けられないことも、無意識が制御しているのだろうか? 

「でも、それじゃ、結局僕は嘘を吐いているじゃないか。無意識の内に、嘘を吐く人間なんだ」

 こんなことを、僕は深く考えずに言ってしまっていた。そのとき、彼女がとても悲しそうに見えたことだけは、よく覚えていて――あれ? 駄目だ。どんなに頑張っても、彼女の悲しそうな姿が思い浮かべられない。ただ、今になって、聞き慣れた声の正体が女性であることを思い出す。

「そんなこと……ないよ」

 今にも泣きそうな声で、彼女は言う。僕は慌てる。何か彼女の涙を拭うものを必死で探す。見つからずに僕はさらに慌てる。ああ、どうして彼女に気の利いた言葉の一つや二つかけてあげられないのだろう。もっとも、今の僕だってそんなこと言えやしないんだけど。

「ね、ねぇ……そろそろいいんじゃないかな? 僕の名前は君に教えたけど、君の名前はまだ教えてもらってないし。だから、今、君の名前を教えてよ!」

 僕にできたことは、話題を変えることぐらいだった。涙をぬぐうような音が、彼女の声が聞こえたほうからする。

「――、だよ」

 名前の部分だけが聞き取れなくて、僕はやきもきする。

「へぇ、いい名前だね」

 僕はどこか上辺だけで彼女の名前を褒めてしまった気がする。

「そうでもないよ。私なんかの名前より、朔君の名前の方が、よっぽど素敵な名前だよ」

 ちょうどその言葉が言い終わった時、急に僕の目を閉じていた力が弱まった。僕は反射的に目を見開く。直後入ってきた太陽の光に、僕は再び目を瞑った。そしてゆっくりと目を開けると、目の前には空が広がっていた。どこかの屋上、なのか。

「そんなこと、ないよ」

 僕は僕の声が下方向を見る。――そこには、誰もいなかった。屋上には、僕以外の誰もいなかったのだ。ただ声だけが辺りにこだましている。

「ううん、絶対。絶対朔君の方が素敵な人だよ」

 彼女の声も、空気から聞こえてくる。次の瞬間、眩しい光が辺りを包んで、屋上の景色を消し去っていった。

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