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Lonely Liar  作者: Laugh
-Episodeα-
14/344

-Episode13-

「あの、すいません……」

 先に声をかけたのは僕だった。僕はなるべく失礼の無いように言葉を選んだつもりだし、決して相手に悪い印象を与えないように自然に話しかけたつもりだ。――なのに、僕が正面から首根っこをつかまれているのは何故だろう。

「ぐうっ!?」

 一瞬の出来事に反応が遅れた。赤髪の少女――舞の隣にいる男性が、僕の首根っこを僕の首を握り潰さんばかりの握力でつかんでいた。僕の手は息を求めて僕の首にかかる手に伸びる。けれどあまりにも強く握られた手を僕が離すことは出来なかった。

「朔君!?」

 怜は僕の状態に気付いたのか、大声を上げる。姿はこちらからでは見えないが、きっと戸惑っているに違いない。……まずい、一瞬視界がくらんだ。気絶するのは時間の問題だろう。場合によっては命さえ落とす可能性もある。脳に酸素が行きわたらなくなり、思考もあやふやになりかけたとき、

「やめなさい」

 誰かの声とほぼ同時にその手が離された。いきなりのことで反応できず、僕は地面に尻餅をつく。立ち上がることはできず、僕は過呼吸なのではないかと疑うくらいに何度も息を吸って吐いていた。呼吸がやっと落ち着いてきた頃に、僕を助けてくれた声の主が手を差し伸べてきた。

「大丈夫? 立てる?」

 顔を上がると、多少心配そうに僕を見ている舞の姿があった。大丈夫とは言い難いが、今は大事な話を彼女にしなければならないので、無理やりにでも大丈夫でなければならない。少し無理して笑顔を作った後、僕は彼女の手を取って立ち上がった。後ろを見ると怜が安心しているような何かが不満であるような複雑な表情を浮かべていた。そして僕らはここだと何かと厄介だからと舞に促され、コンビニの外へ出た。

「ごめんね。コイツって血の気が多いからちょっとでも怪しい人がいると襲いかかる悪い癖があって」

 幅の狭い裏道を、僕と舞と男性がこの順で並んで歩きながら話をする。付け足すなら僕の真後ろに怜がいることだろうか。しかし彼女は何か考え事をしているのか、話をしても僕以外には聞かれないことを知っているからか、一向に話をする気配がない。時々後ろを振り返ると満面の笑みを返すから僕が心配することではないのだろうが。それにしても舞を挟んで向こうにいる男性、彼に僕は恐怖を覚えずにはいられない。身長は僕より頭一つ高いくらいだが、服の外からでも彼がスポーツならなんでもできそうな体つきであることが分かる。それにそれが見かけ倒しでないことは僕の体で実証済みだ。まだ首がひりひりする。

「護衛を頼んだのはお前だろう、舞よ。某は正しいことをしただけだ」

 バリトンの声と、独特な喋り方で彼は舞に話しかける。そして僕を警戒しているのか、僕の方をキッと睨む。僕はそれだけですくみ上がって歩くのを止めてしまう。怜にぽんぽんと肩を叩かれるまで、僕は歩けなかった。

「あのね、仮にも同じ学校の生徒でしょ。何回かすれ違ったことはあるんじゃないの?」

舞は溜息を吐いて男性の方に話しかける。その言葉には、男性だけでなく僕も首を傾げずにはいられなかった。

「ん? あんたも知らないの? 郷田満。ゴル先輩って聞けば思い当たるかしら?」

 ゴル先輩というフレーズを舞から聞いたとき、僕は一つの噂話を思い出した。確かどこの部活に所属していないにも関わらず、スポーツ限定で様々な校内記録を叩きだしているという天才がいるという人物。まぁ僕には縁のない話だったので適当に流していた。確か彼は毎日放課後に校内をランニングしているそうだが、僕は誰よりも早く帰る自信のある帰宅部なので、すれ違うことはなかっただろう。

「ぬぅ……会ったことはないな。してお主……名前は?」

 睨んだ視線は少し和らいだみたいだが、僕にとっては焼け石に水みたいなものだ。名前を聞かれたみたいなので、僕は答えることにするが、

「そ、空野、朔です……すいません」

 つい謝ってしまった。その後ゴル先輩がどう出るのか分からないので震えながら返答を待っていると、がしっと肩を掴まれる感覚があった。首をつかまれた時ほどではないが、痛い。

「そうか、朔か! いやすまんかった! いや舞が護衛を頼んできたので某はそれを請け負ったのだ! そこへお主が声を掛けてきたのでてっきり某は敵の刺客か何かと勘違いしたのだよ! いやあ、許せ!」

 がははと高笑いを上げながらゴル先輩は僕の肩を揺さぶる。彼は軽く揺さぶっているつもりなのだろうが、僕にとっては車の急ブレーキを何度も体験している気分だ。吐き気がもよおしてくる。とりあえず彼について分かったことがある。推測に過ぎないが、彼はすごく単純な人物だ。よく言えば白黒はっきりしている、悪く言えば脳筋、だろうか。それで殺されかけた僕は一言文句をいってやりたかったが、それでまた殺されかけるのも怖いので、ただがくがくと体を揺らされ続けていた。

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