-Episode28-
僕は大量の黒い何かに囲まれたこの状況をなんとかするため、必死で頭を回転させる。何かいい考えはないか、様々な考えを巡らせていく。外側からの侵入は怜が塞いでいる。しかし、黒い何かは怜の張った氷の壁の内側からも出てくるようだ。
「そうだ怜、氷の柱か何かで、僕たちを上に押し上げることとか出来ない!?」
僕はふと思いついたことを口にする。怜はちょっと考えて、
「うーん、魔法で無から有を作り出すことと、魔法であるものを動かすことはできないけど……ちょっとやってみる」
怜はそう言った瞬間、氷の壁が消えた。一旦魔法を解除しないと次の魔法が使えないのかな? 黒い何かが迫ってくるのを見て、僕は捕まるまいと少しずつ後ずさりをする。すると、僕のかかとに何かが引っかかった。これは、氷の……円盤だろうか? 僕はそこに躓いて倒れ込むように座る。つるつるしている上、氷なので体温で解けてしまわないかという感想を抱いた瞬間、急に下向きの重力が働いた。
「な、何!?」
僕がそう叫ぶ頃には、黒い何かの姿は見えなくなっていた。代わりに視界に映ったのは、立ち並ぶ建物。
「うええぇっ!?」
急に僕は上空を飛んでいた。いや、飛んでいるのはこの円盤か?
「朔君、危ないから動かない方がいいよ」
怜の声が後ろから聞こえて、僕は振り返る。すると、氷の円盤の上に、怜が立っていた。つるつる滑りそうな地面なのに、彼女はよく立っていられるな。
「正直、ぶっつけ本番たったから心配だったけど、タイミング良く朔君がやってきてくれたおかげで、なんとかなったよ」
怜はそう言いながら、今の魔法について解説する。下に映る景色がどうしても気になってしまうせいで、話の内容をあまり聞いていなかったが、大体は怜が空気中にある水蒸気を操って円盤を作り、それをそのまま操って上に動かしたらしい。
「すごいな……」
僕は水の魔法の応用の幅と、それをすぐに思いつける怜に感心する。
「僕の家はどこかな……」
ここからなら、僕の家を探すくらいならできるだろう。日はもう落ちかけで、星が見えてきているが、まだ今日中に帰ることくらいなら、この円盤を操ればできそうな気がする。そのときに滑って落ちなきゃいいけど。
「あ、私朔君の家なら分かるよ? 連れて行く?」
怜が当たり前のようにそんなことを言った。……まぁ、怜は自分のことを僕の彼女だと主張してはいるが、もしそうでなかったらただのストーカーと大差ないからな。ストーカーだと考えると怜程のストーカーなら普通に僕の家の場所を把握していそうだ。
「朔君、途中で振り落してもいいんだよ?」
怜が急に残酷なことを言うので、僕は背筋をしっかり正して、今までの思考をきれいに振り払う。怜だと実際にやりかねないから恐ろしい。
「僕の家まで連れてってくださいお願いします!」
暫く怜に対して使っていなかった敬語まで飛び出る始末だ。
「そ、そこまで怯えなくても……とりあえず、しっかり掴まっててね?」
怜はちょっと苦笑いをしながら、そんなことを言う。ところで、掴まるって、一体何に――。
「うええぇぇぇ!?」
突然、体が横に引っ張られる。ほぼ間違いなく絶対に落ちるだろこれは。そして掴まるものなんて、空には何も――あ、あった。
「ふぇ!? さ、朔君、何してるの!?」
怜が急に声を上げ、円盤の動きが乱れる。……まぁ、そうだよな。僕が掴まっているのは、怜の足だ。よく見ると、怜の足は靴の部分が凍っていて、外れないようにできている。うまくできてるなぁ。って、今はそんなことを考えている場合じゃない。
「とりあえず落ち着いて! 下手すると魔法が解除されて落ちちゃうよ!」
僕は怜に落ち着いてもらうように必死で呼びかける。普通、急に足を掴まれて冷静でいられる方がおかしいけど。
「う、そ、それはそうだけど……! 確かに私はしっかり掴まっててって言ったけど! でもこんなのって……!」
円盤の操縦は元に戻るどころか、どんどん不安定になっていく。……これ、間違いなく酔うな。さらに、円盤の半径が小さくなっているのも感じた。
「とりあえず冷静になって! 深呼吸!」
僕は無理やりに怜を落ち着かせることにする。怜もパニックになっているのだろう。僕の言った通り、深呼吸をしている。
「よ、よし、揺れが収まった……あ」
僕はほっとしたまま、怜の方を見ようとして、顔を上げた。まず先に説明を入れておかなければならないのが、怜が上着として来ているのは膝の部分まで隠れているワンピースのみである、ということだ。風が強いせいで、それは全開まで開いている。そして、僕は怜の足に掴まったまま、上を見上げたのだ。――察しがいい人なら、どういうことが起こったのか分かるだろう。そして、この次に何が起こるのかも。僕は、急に円盤から滑り落ち、空中に躍り出た。




