-Episode25-
「……妹?」
僕はつい彼の言葉を反復してしまった。
「はい。僕には妹が一人いる、いえ、いたんです」
彼は少し暗い表情をして言う。まぁ、さっきの言葉から察するに、彼はすでに妹をなくしているのだ。
「え、えっと……そう、ですか」
そう言う弥奈の顔には、同情が見て取れた。まぁ僕も優奈を失ったらつらい。そう考えれば彼に同情はするし、もしできるから彼の力になりたい。
「えっと……ごめん、なさい」
しかし、弥奈の口からは、はっきりと否定の言葉が出た。
「な、なんでですか!? 虹魔法使いなら、なんだってできるでしょう!?」
刀祢は驚いた様子で叫ぶ。僕も驚いた様子を見せるが、なんとなくそうなることは心のどこかで分かっていた。
「死んだ人は……蘇らないんです」
ゆっくりと、弥奈はその言葉を言った。迅は少し困ったような顔をして刀祢から視線を逸らす。舞は元々刀祢の方を向いていなかった。怜は何か考え込んでいるのか、俯いて下を向き、杣は刀祢の方をじっと見ている。
「そんな、それは……でも、だって……」
刀祢はまだ心の底から納得できないでいるのか、僕たちを見回す。きっとここで誰かがそれは嘘だと言えば、彼はそちらを信じるのだろう。でも、虹魔法使いらしい弥奈がそれは出来ないと言えば、僕たちにできることなんて何もないし、そんなことで無駄な嘘を吐いて彼を余計に苦しめたくない。
「う、嘘ですよね……?」
彼はまるで救いを失ったかのように、部屋をふらふらと歩き、弥奈にすがる。彼女は触れられたとき一瞬震えたが、すがられたままで、
「ごめんなさい……できません」
もう一度、告げた。途端に、彼の中で、何かがはじけたような音が聞こえた。いや、聞こえた気がする。誰もその音に気付いていないからだ。僕だけに聞こえていたらしい。
「う、うぅ……」
彼はその場にしゃがみこむ。ふと、彼の足元に、黒い何かが渦巻いているのが見えた。もしかしてこれも……?
「な、なんだこれ!?」
ふと、迅が声を上げる。どうやら今度はみんなにも見えているらしい。
「これは、まさか……!」
舞は、何かに気が付いたようで、そこに向かって炎を放とうとしていた。そこへすかさず怜が止めにかかる。
「何やってるの!? そんなことしたら今度こそ死んじゃうよ!」
そうやっている間に、彼の足元にある黒い渦は彼を少しずつ覆って飲み込んでいく。
「え、ええと、なんとか、してみないと……!」
弥奈は、魔法で彼の黒い渦を取り除こうとしたみたいだ。……が、なかなかうまくいっていないみたいだ。
「ど、どうして……!?」
彼女自身も、驚いているようだ。
「……」
ただ一人、杣だけが無言でその場に立っていた。しかし、それは、冷静であるというよりも……。
「何が、起きて……!?」
僕と同じで、突然の出来事に何も出来ないでいるように見えた。
「う、ぐッ……ア、うぁ……!」
刀祢の苦しむ声が、部屋の中にこだまする。部屋には別に反響するような仕組みがあったり、そういう構造が出来てたりはしない。なのに、どうして彼の声だけが反響しているのだろう。僕たちは結局何も出来ないまま、彼が黒い渦に飲み込まれていくのを見ているだけだった。その渦は彼を飲み込むと、すぐに消えてなくなってしまった。
「今のは、一体何だったんだ?」
一足早く我に返った迅が、話題を切り出す。
「分からない。ただ、なんだかすごく危険なもののような気がしたよ」
他のみんなに代わって、僕が彼の話題に答える。あの黒い渦、どこかで見たような気がする。いつ、どこかは分からないけれど。なんだか最近……駄目だ、それ以上考えると頭痛がする。
「私の、魔法でも、あれを、取り除くことが、できません、でした……本当に、何だったの、でしょう」
弥奈も戸惑いを隠せないでいる。彼女は彼を助けられなかったことに負い目を感じているた、それでも、彼女は頑張ったと思う。僕と違い、彼女は彼を助けようと行動したのだから。
「渦、黒い……なんだっけ、何かひっかかるんだよね……」
怜が、僕と同じようなところでひっかかりを覚えていた。あの黒い渦には何かあるのだろうか? これからあれについて調べてみようかな。
「……」
杣は一言もしゃべらずに、ただ彼の消えた跡を除いていた。彼の周りに出てきた黒い渦にまだ驚いているのか、それとも全く別のことを考えていて、意識が他に向けられていないのか。と、それぞれが様々な反応を示す中、
「あれ……私、一度見たわ」
と、舞が突然そんなことを言った。
「あれを見たって……、どこで!?」
迅が、舞に尋ねる。舞は少し考えるように上を見上げると、
「裏通り……と言っても、分からないかしら。いいわ、連れて行く」
そう言って、部屋を出ていく。つまり、付いて来い、ということだろうか。彼女はあれについて何かしっているようだし、僕は彼女についていくことにした。




