-Episode22-
「本当に大丈夫なのかなぁ……」
僕は僕の部屋に縛り付けられた少年を見て、かなり不安な気持ちになる。確かに彼は危険だから身体の自由を封じておくのには賛成だけど、ここまでひどい縛り方は無いと思う。
「下手したら彼、窒息するんじゃないだろうか……」
なんだか今まで命を狙われていたことを考慮しても、彼に同情してしまいたくなるような縛り方で天井に吊し上げられた少年を見ながら、僕は溜め息を吐く。あの襲撃から約二日が経過したが、彼が意識を取り戻す様子はない。まぁ病院で専門的な治療を受けている訳じゃないから、そんなに早く目覚める訳はないんだけど。怜と舞、主に怜がこんな縛り方をしたせいで、僕は慢性的な寝不足になっている。
「朔君、あの人は起きた?」
怜が、ノックもなしに僕のドアを開けて入る。正直慣れてしまったので、僕は特に反応を返すことなく、
「まだ起きないよ。優奈の治療は病院と違って応急手当みたいなものなんだから」
僕はそう返答した。さすがにこのままだといつ目を覚ますか分からないので、一階まで運んで優奈に少し傷の手当てをしてもらった。優奈は急に現れた怪我人に驚き、終始戸惑いながら少年の手当てをしていた。おかげで彼の体はいたるところに包帯が巻かれている。
「本当に起きるのかな? 生きてるだけで、植物状態なんてことは?」
怜は少年の体をつんつんしながら言う。きっと意識があったらかなりつらいだろう。意識を失っているからこそそういうことが出来るのだと、僕は怜の楽しそうな顔を見ながら思った。
「植物状態、か……あり得なくはないけど、もう少し様子を見ようよ」
僕がそう言ったときだった。ふと、少年の口から、うめき声のようなものが洩れる。二日で目を覚ましたのか。随分と回復が早いな。
「あれ……ここは……」
一昨日、いや三日前か? とりあえず襲撃のあった時とはまるで比べ物にならないくらい弱々しい声だ。まぁあれだけの怪我を負えば弱るし、仕方ないか。
「えーい少年め! 吐け! どうして朔君を襲ったのだ!」
怜が少年をつつきながら言う。拷問でもしてるつもりなのだろうか。その割には随分と楽しそうに見える。
「いつっ!? な、何!? 僕の身に何が……!?」
悲鳴を上げながら、少年は言った。……僕? 記憶に確証はないが、彼は自分のことを俺と呼んでいたような気がする。
「あ、あの! 何が起こってるかだけ説明を……!」
少年はひどく気弱そうに言う。
「ええい! しらばっくれるか! 朔君のおかげで貴様は生きられるのだ! その恩情を忘れるでない!」
なんだか三流の時代劇を見ているような気分になってきた。僕はまだ暴走を続けている怜をなんとかなだめて、少年に質問をする。
「君、最近のことで覚えてることない?」
僕の質問に、彼は一瞬戸惑ったが、
「え、えぇと……病院の帰りに、近道しようとしたら、急に目の前が真っ暗になって……」
割と包み隠さず状況を教えてくれた。急に目の前が真っ暗になったというのは、おそらく意識を失った、ということだろう。ということは、彼は誰かに意識を失われたのか? 考えられるのは、彼が二重人格であることと、彼の意識の中に魔法か何かで別の人格が宿った、もしくは乗っ取られた、ということか。
「あの、あなたは?」
少年は僕が何もしないことに安心したのか、僕について質問をしてきた。
「僕? 僕は空野 朔だよ。あー、そういえば名前を聞いてなかったね。君の名前は?」
ついでに僕も質問して見る。
「野空……」
少年は、自分の名字を呟く。自分の名字と感じが逆だ。なんだかちょっと親近感を感じる。
「……刀祢」
トウヤ、か。名前はすごくかっこいいのだけれど、その印象と彼の見た感じの印象が一致しない。むしろ僕たちを襲撃してきた時の方がそれらしかった気さえしてしまう。
「あの、せめてこの縄だけでも解いてくれませんか?」
彼が懇願するようにそんなことを言う。それはなんとなく危険な気がする。彼が今もし僕たちに危害を加える気がなくても、縄をほどいた瞬間にまたあの人格が目覚めないとは限らない。
「ごめん、それは無理」
僕の言葉に、彼は信じられない、といった表情を浮かべる。その後少し彼は考えて、
「じゃ、じゃあ床に下ろすくらいはどうです? このままだと血が頭に上ってしまうし……」
あー。確かにそれは危険だ。というかすでに二日以上この状態なのだから、危険極まりない。僕は慌てて彼を地面に下ろした。
「あ、あぅ……すみません、ご迷惑をおかけして」
どう考えても僕たちを襲えそうにないくらい動揺しながら、彼は僕たちに謝っていた。その様子に怜は疑問を覚えたようで、
「ねぇ、今の彼の様子を舞に見せてみたら?」
と提案してきた。舞は彼を縛り上げた後、自分の家に帰った。まぁ怜の言うとおり、彼女に見せてみたら何か進展があるかもしれない。僕は舞に教えてもらった携帯の電話番号にかけてみることにした。




