-Episode17-
「朔君、騙されちゃ駄目だよ!」
僕が舞の同行を認め、話がまとまりかけてきたところで、怜が急に大声でそんなことを言う。まだ話が続くのか。迅たちはもう図書室から出て行ったし、僕も早く家に帰りたいんだけど。
「きっと彼女は朔君の家に泊まらせてもらうつもりなの!」
怜は右手を強く握りしめて熱弁する。まぁ、考えてみれば三人で一緒に行動するということは、誰かの家に泊まらなければならないということになる。僕個人としては優奈が喜びそうだからあまり気にしてないけど、怜にとっては違うらしい。
「別にあたしの家でもいいけど?」
舞は図書室の壁に寄り掛かって話す。彼女の家か。なんだかちょっと気恥ずかしい気がする。やはり僕の家の方が気持ち的に楽――。
「朔君! 彼女は叙述トリックを使っているの! 別にいいやって感じを醸し出しておいて、最終的に朔君の家にお邪魔した挙句、夜這いしにいく気なんだよ!」
何やら怜がとんでもないことを言っている気がする。
「夜這いって……むしろそういうことしそうなのは怜なんだけど」
僕は率直な感想を口にする。怜は痛いところを突かれたのか、僕と舞を交互に見ながら唸るような声を上げる。
「もう知らない! 明日朔君のご飯がすべて謎の消失を遂げても知らないから!」
怜は嘘泣きとしか思えない声で泣きながら図書室を飛び出して言った。これはもしかしなくても明日のご飯が全て怜によって消失させられるのだろう。
「大変ね、あんたの彼女」
舞は寄り掛かっていた壁からそっと離れると、同情のような視線を僕に向けて言う。
「いや、彼女じゃないですけど」
とりあえず早めに誤解を解いておくことにする。彼女は少し驚いたが、
「そうなの? 随分と仲がいいから、てっきり、ね。とりあえず彼女が孤立したところをあいつが襲わないとも限らないし、追いましょう」
すぐに気持ちを切り替え、冷静な判断で行動をし始める。彼女はどこかこういうことに慣れているような感じがする。怜みたいに暴走しやすい人が彼女の身近にいるのだろうか? もし、その人が舞がつけようとしていた護衛だったら、僕は迅のアピールに大きく感謝しなくてはならない。怜みたいな人が二人もいたら、僕の精神は持つ気がしない。
怜は思ったより遠くに逃げてはおらず、校門前で僕を見つけると僕の名前を叫びながらドロップキックをかましてきた。彼女はスキンシップの一環だと言っていたが、もう少し穏やかなスキンシップは無いのだろうか。
「よし朔君、そんな女ほっといて私たちの家に帰ろうか!」
さりげなく僕の家が怜の家にもなっていることはさておき、
「いや、舞さんにも一緒に来てもらうけでぅえっ!?」
話している途中に後頭部に氷塊が命中していた。下手したら記憶が飛ぶんじゃないだろうか?
「まだ惑わされているの!? はっ、そ、そうか……舞! あなたは魔王の手先という訳ね!」
怜がちょっと痛い発言をしつつ、舞を呼び捨てにしていた。ただ、今の言葉、どこかで聞いたことがあるような……。
「『貴様はこの俺、ダークサイ』うぐぅ!」
僕は怜が発言した僕の知られてはならない一面を必死で隠した。なぜ彼女が? いつ知った? どうやって? 疑問は尽きないが、とにかく今は秘密の隠蔽を図らなくてはならない。
「何その痛い発言」
舞が率直な感想を抱いていた。きっと怜に向けて言ったものなのだろう。だがそれは間接的に僕のダメージになっていることを彼女は知らない。
「と、とにかく僕の家に急ごう! こんなところで襲われたたら、学校が壊れかねないし……」
かといって僕の家が壊れても困るんだけど。その後も様々な理由をこじつけて、なんとか怜と舞を僕の家まで連れてきた。怜は僕の極秘情報を吐露することに味をしめたのか、ちょくちょく変なことを言う。舞はただ僕の後ろをついてくるだけだったが、怜が僕の黒歴史を話そうとする度微妙に軽蔑した目で怜を見ていた。怜が軽蔑されているのは分かる。が、その発言が元をたどれば僕のものであることを彼女は知らない。僕は涙目になりながら帰宅した。
「お兄ちゃんおかえりー。あれ? もう一人増えてる?」
優奈は僕と舞を交互に見ながら僕たちを出迎えた。
「うん。色々あって、彼女も僕の家に居候することになったんだ」
あの少年のことは隠して、それなりの理由をでっちあげて優奈に説明する。
「へぇー、そうなんだ! じゃあご飯をもう一人分増やさないとなぁ……」
そう言ってキッチンに向かう優奈の姿はなんだか嬉しそうで、僕も少しだけ頬が緩んでしまう。
「朔君って、シスコンなの?」
怜が残酷な言葉を放った。さっきのお返しなのか。
「見た感じ、そんな感じはありそうね」
舞まで賛成に近いことを言っていた。彼女には何もした覚えがない。それなのにこんなことを言われるなんて、かなり悲しい。なんとなく家の中での僕の居場所が狭くなっているような気がした。




