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Lonely Liar  作者: Laugh
-Episodeβ-
118/344

-Episode07-

「とりあえず朔君は今日の夕食なしってことでいいかな?」

 怜は迅と別れてから、散々文句を言った挙句、こんな無茶なことを言ってきた。別に怜が夕食をつくるわけじゃないから、そんなことできる訳ないんだけど。話を無視すると氷塊が飛んでくるので僕は溜め息交じりに答えることにする。

「いいよ、別に……」

 実はこのやりとりは既に三度行われていて、一度目は明確に否定して説教を受けて、二度目は代案を出して説教を受け、三度目は無視して氷塊の襲撃を受けた。怪我の無いように加減はしてくれているのだろうが……。普通に当たったら打撲しそうな勢いで飛んでくるので、加減していないんじゃないかと疑ってもいた。

「よし、じゃあ、優奈ちゃんお願いね」

 怜は満足そうに頷くと、優奈の肩をポンと叩いて僕たちの先を歩く。

「え? えぇ……? お兄ちゃん、どうしよう」

 優奈が困った顔で僕を見る。妹よ、そこは常識で判断してほしい。ただファミレスから最後に出てきただけで、夕食が食べられなくなるのはどう考えてもおかしいだろう。僕はそんな視線を優奈に送る。きっとここで口を出したら怜にまた何か言われるに違いない。僕と優奈が視線だけでのやりとりをしていると、いつの間にか家の前まで来ていた。怜の姿は見えない。知らない間に自分の帰路についたのだろう。そうだ、夕食なしだなんて言ったって、彼女は僕の家に住んでいる訳じゃないんだ。それに明日会う可能性も低い――いや、彼女は会いに来るかもしれないか? それでも嘘を吐けば問題はない。彼女との約束はあくまで口約束で、守る必要も実際はあやふやなのだ。僕はちょっとだけ大股になって家のドアまで歩き、ドアノブを捻る。玄関には、水色の靴が一足、投げ捨てられたかのように地面に転がっていた。僕と優奈は基本二人暮らしなので、いつも履く靴以外は靴箱入れに入れておくし、この靴は見たことがない。泥棒……はこんな風に靴を放り投げるような脱ぎ方はしないだろう。むしろ脱がないんじゃないか? あと状況から推理できる侵入者は、僕が予想できる限り一人しかいない。まぁそれはいいんだ。なぜ彼女が僕の家に入ったのか、それも気になるがまだいい。僕が一番気になっているのは、

「優奈……鍵、かけたよね?」

 僕は優奈に声を掛ける。優奈も同じことを疑問に思っていたようで、さっきネギを取り出したぬいぐるみの中から銀色の鍵を取り出す。

「うん。鍵はここにあるし……どうやって入ったのかな?」

 優奈は僕が思っていたことと同じようなことを考えていた。彼女は鍵がかかっているはずのこの家に入ったのだ。しかもおそらく正面から。――そういえば。

「怜の水の魔法で、合鍵を作れた、ってことかな……?」

 僕は親指をくわえて考える。彼女が盗みに入るために合鍵でドアを開けたとは考えられないが、そこで問題になってくるのは、彼女が鍵のかかったものならどんなものでも開けられる可能性があるということだ。彼女がそういうのを悪用しない人物ならいいのだが、現にいま悪用してるし……。

「怜ー?」

 僕は靴を脱ぎ、なるべく家全体に聞こえるくらいの声で怜を呼んだ。彼女は罪悪感を感じて少し戸惑いながら出てくるものと思っていたが、

「何ー?」

 ごく自然に、まるで罪の意識を全く持っていない様子で、顔を出した。

「怜……今自分が何をしたか、分かってるの?」

 僕は少し厳しめな口調になって言う。普通、不法侵入はいけないことだって、分かると思うんだけどなぁ……。ただ、彼女はどこかそういう常識的なところが抜けているような気がする。

「何って、朔君の家に入っただけだよ?」 

 怜は何を言っているのか分からないといった口調で話す。

「いや、鍵、かかってたよね?」

 僕はまずは怜に事実を認識させてから、それはいけないことだと教えようとしていた。が、彼女の口から出てきた言葉は、

「かかってなかったよ?」

 ――だった。本当は不法侵入の方から言及すべきだったかもしれないが、僕は彼女の意外な一言が印象に残って、そちらを言及するまえに鍵のことに関して問うことになった。

「怜が、合鍵を魔法で作ったんじゃなくて?」

 僕の質問に、怜は首を振って否定をしてきた。

「合鍵を作ろうにも、朔君の家の鍵の形状が分からないよ。それに、型を取ろうとしても、私の魔法じゃドアノブごと凍らせるくらいしかできないから、どうやっても朔君の家の鍵は開けられないよ」

 なるほど、それは確かに……。

「仮に私がピッキングの技術でも持ってれば話は別なんだろうけどね」

 怜の言葉を聞き流しながら、僕は別のことを考えていた。怜が犯人でないとすれば、僕の家に不法侵入した誰かがいるということだ。空き巣?

「そういえば朔君、私お腹すいちゃったんだけど。あ、朔君の分はなしだけどね」

 不意に、怜が空腹を訴えた。さりげなく約束を覚えていて、僕は怜の監視のせいで夕食を食べられなかった。

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