-Episode06-
「ゆ、優奈……? それは一体?」
誰もが声を掛けたがっていたが、僕以外の誰もが声を掛けられる立場ではなかったので、僕がみんなの気持ちを代弁して聞く。
「え? これ? ラビットちゃんの中がね、かばんになってるの!」
優奈はそう言ってラビットちゃんらしいウサギのぬいぐるみを、荷物を入れるらしい場所をこちらに見せる。うん、そっちも僕は気になってたんだけど、今みんなが気になっているのは――。
「へぇー、そうなんだ。よくそんなネギが入ったね優奈ちゃん」
怜がすごく満足げに優奈に話しかけていた。怜はそっちが気になっていたのか。まぁ彼女の言うとおりネギがこの中に入っていたのも不思議ではある。
「えっと、そうじゃなくて……そのネギ、何に使うの?」
話を軌道修正するかのように、僕は再度優奈に問いかける。彼女はきょとんとした顔になって、
「ネギ? 何って、このカレーに盛るんだよ?」
まるで当然のことであるかのように言った。まぁ、自分で調味料とかを持って盛る人もいないわけではないのだろうが……。個人的にはファミレス側に失礼な気がしてそういうことはしないが、僕の妹がそんなことをしようとしている事実がささやかな頭痛を引き起こさせた。
「優奈、それはやめよう」
僕は兄として優奈に注意する。始め優奈はどうして自分が注意されているのかよく分からなかったらしく、僕が丁寧に注意をすると、優奈はちゃんと納得してネギをぬいぐるみの中にしまってくれた。あのネギがぬいぐるみの中に放置されないことを祈りながら、注文が来るのを待った。……が、いつまでたっても店員さんが来ない。
「ねぇ、店員さん遅くない……あれ!?」
僕がみんなを見回すと、みんなの分の注文は既にテーブルの上に置かれていた。
「ぼ、僕のは!?」
僕の注文はそんなに時間のかかるものではないような気がするんだけどなぁ。
「え? 朔の注文したハンバーグはさっき来てたぞ?」
僕が困惑していると、迅が彼の注文していたナポリタンを食べる手を止めて、僕が更に戸惑うことを言ってきた。
「うん、確かに私が店員さんからもらったから、覚えてるよ」
杣も迅と同じようなことを言う。もしそうなら、どうして今テーブルの上にハンバーグが無いんだ?
「ふぁくくん、ふぉんなにくぃにしなくふぇもいいにょ」
怜が、口の中に何かを含み、もごもごさせながら言う。……ん? 怜の目の前に置かれているトロピカルパフェ、少し溶けている様子が見えるが、一口も手が付けられた様子がない。
「怜、今何食べてるの?」
僕は怜になるべく平静な対応で質問してみる。
「ん? ……んー。ハンバーグ」
怜は少しの間に口の中に含んだものを飲み込んでから、堂々と答えた。
「――なんか、いいや、もう」
全く悪びれていない様子の怜に、怒りを超えて呆れ果てている僕がいた。
「朔、お前も大変だな……」
事情を察したらしい迅が、同情してくれていた。同情してくれるなら僕にもう一品注文して欲しいが、さすがに彼の財布を圧迫するのは申し訳なく、何も言えないでいた。
「さーて、お腹いっぱいになったし、帰ろっか」
僕以外の全員がお腹いっぱいになった所で、怜が席から立ち上がった。もちろん僕も空腹ではない。迅がナポリタンを六分の一、杣がドリンクバーから取って来たらしい適当なドリンク十杯、優奈までもがカレーを一口分けてくれたのだ。勿論怜は何もくれなかった。いや、一回トロピカルパフェをあーんしてくれるような状況にはなったが、それも僕が口を開けた瞬間に怜の口に持って行かれるというベタな裏切りで結局何ももらえずじまいだった。
「うん、帰ろう」
早く帰って夕食が食べたい。切実にそんなことを思いながら、僕も立ち上がる。怜の後ろについて帰ろうとする僕を、迅が呼び止める。
「今日はなんか……悪かったな」
別に迅のせいではないのに、彼は両手を合わせて謝った。それだけで、僕は彼がすごくいい人なんだと分かった。
「いいよ、大丈夫」
僕はなるべく迅に罪悪感を抱いて欲しくなく、精一杯の笑顔を見せて迅に心配をかけないようにする。
「そ、そうか? ならいいんだが……」
迅はちょっと苦笑いをして、席を立つ。今度こそ僕も家に帰ろうと、レジの方へ進んだ時、今度は杣が僕の服を引っ張って引き留めてきた。
「……明日、同じファミレスに一人で来て。そこで話したいことがあるの」
彼女は誰にも聞こえないように、僕の耳元でそう話した。よく見れば彼女が椅子の上に立っていることが分かり、身長が低いのも大変なんだな、と思わせる。とにかく、今の言葉に返事をしなくちゃと思い、
「うん、分かった」
と答えた。会って数時間しか経っていないが、別に悪い人ではないし、明日の予定もどうせゲームぐらいしかないのだから問題はない。
「ありがとう。じゃあ、明日」
杣はそう言って、僕よりも先にファミレスを出て行った。一番最後にファミレスを出たことで、怜に色々言われたのだが、それは別の話だ。




