-Episode05-
「へぇ、こんなところにファミレスなんてあったんだ」
僕は迅達と一緒に商店街に向かい、そこにあったファミレスの中に入る。商店街にこんなファミレスがあったとは知らなかったな。
「朔君、知らなかったの? ずっと住んでるのに?」
怜が僕の隣で口出しをしてくる。別にいいじゃないか、知らなくても。
「私はコーヒーでも頼もうかな」
黒いツインテールの少女――道中で説明を受けたが、彼女は杣という名前で、僕と同じ中学生らしい。……ありえない。
「別に飲み物だけじゃなくてもいいんだけどな……」
迅は飲み物以外を注文する気のない杣に、少し硬い笑みを浮かべながら言う。
「えーと、イチゴパフェと、チョコケーキと、バニラアイスと、あとこのトロピカルフルーツパフェと……」
それとは正反対に、怜は片っ端から注文をしていく。甘いものしか注文していないみたいだが、そのままだと体重が増えたりするんじゃないだろうか。
「ん、朔君、今何か失礼なこと考えてない?」
怜に勘ぐられ、僕は慌てて首を振る。そんなやり取りをしている間に、
「さて、メニューは決まったか? 朔は……ハンバーグのライスとサラダのセットか。俺はナポリタンで、杣がコーヒー。優奈ちゃんは、お子様カレーでいいんだよね? んで、怜は……あ、あの、もう少し減らしてくれないかな?」
迅は苦笑いを浮かべながら、怜に注文の量を減らすように頼んでいた。ちなみに彼が僕らのことを呼び捨てにするのは、その方が親しみやすいからだそうだ。別に僕は構わないが、怜はどこか不満そうにしていた。
「えー。じゃあしょうがないから、いちごパフェ、バニラアイスをやめて、もう一つトロピカルパフェを頼もうかな」
怜はまるで妥協しているかのように話す。しかし、メニュー表を見れば、トロピカルパフェの値段が、いちごパフェとバニラアイスの値段の和を上回っている。むしろ欲張っているとしか思えない。
「あ、あははは……とりあえず怜はトロピカルパフェ一つかな」
強引に怜の注文を決める迅。怜は必ず何か言ってくるかな、と思ったが、彼女は何も言わずに迅がボタンを押すのを見ていた。ちょっと意外だな、と思いながら店員さんを待つ。
「お兄ちゃん、ハンバーグ少し分けてね」
優奈はファミレスを見渡して、目を輝かせながら周囲を見ていたのだが、ある程度落ち着くと、そんなことを言ってきた。僕は別に構わないと返答する。正直優奈にはここで正しい味覚というものを学んでもらいたい。いや、優奈に正しい味覚がない訳ではないのだが……。ネギが食べ物を埋め尽くすぐらいの量でなくとも、おいしくなることを彼女には知ってもらいたいのだ。そんなことを思っていると、店員が注文を聞いてきた。迅がさっきとっていたらしいメモを見ながら注文を言う。迅、杣、僕、優奈の順で注文をいい、最後に怜の注文を頼もうとしたとき、
「トロピカルパフェ百人前!」
怜がとんでもない発言をしてきた。店員は一瞬何を言っているのか分からないような顔をしていた。
「い、いや冗談です。注文はさっきのトロピカルパフェ――」
「百人前」
「――で十分です……って、間に入れないでくれ!」
注文を否定しようとする迅と、それを妨害する怜の間で一悶着がある。その会話に加わりたかったが、不意に杣が話しかけてきたので、彼女の方を見る。
「ごめんなさい」
彼女の第一声は、それだった。
「ど、どういうこと? 僕は何もされた覚えがないけど……」
正直何を言っているのか分からないので、無視してしまいたいという思いもあった。しかし、彼女のカンパニュラのような儚い表情を見ていると、彼女のその目から目を離せなくなっていた。だから僕はそう聞いてみる。
「――いや、なんでもないよ。変なこと言ってごめんなさい」
杣は軽く頭を下げると、やり取りを終えたらしい迅と怜の間を通り抜け、ドリンクバーの方へ向かう。どうやら迅がコーヒー以外も飲めるからという理由でドリンクバーを注文したらしい。怜との扱いの違いが見て取れる。まぁ怜の方は自業自得な所があるが。
「朔くぅん、迅がトロピカルパフェを一個しか注文してくれないよぅ」
怜は甘えるような声で僕に言う。僕にどうにかできる問題ではないというのに。
「トロピカルパフェ以外を注文する、っていうのは駄目なの?」
僕の提案に、怜は目の前に両手でバツを作って答える。
「絶対、駄目!」
強情な怜に溜め息を吐いていた頃、店員がトレイを持ってこちらにやって来た。どうやらお子様カレーが出来たみたいだ。
「わーい、カレーだ!」
優奈は年相応の笑顔を見せる。なんというか、優奈は普段僕よりもしっかりしているから、こういう顔を見るのはどこか新鮮だ。そんな様子を微笑ましく見ていると、彼女がカバンから何かを取り出した。ぬいぐるみのようだが……。ふと、彼女はぬいぐるみの首に手を突っ込み、何かを引っ張り出した。そこから出てきたものは――ネギ、だった。




