-Chapter47-
楓が携帯電話をいじることが一段落してから、俺と楓は久しぶりに歩いて神社へと向かう。今月の十五日にはここで夏祭りが行われることになっている。ゴル先輩はここで屋台をやるらしい。普通に考えればゴル先輩は親の手伝いであると予想するのだろうが、ゴル先輩はそうではないらしく、彼の考えた屋台を開こうとしているらしい。その話を聞かされた結果半ば無理やりに手伝いを任されることになってしまったが、まぁ彼のことだ、俺がいなくても力仕事はなんとかなるだろう。
「なぁ楓、夏祭りの日に行きたい屋台とかあるか?」
俺は神社の鳥居の前で楓に聞いてみる。楓は首を傾げてしばらくの間考え込んだ後、勢いよく片手を大きく上に上げ、
「わたあめとクレープが食べたい!」
元気よく答える。わたあめとクレープ……あらかじめチェックしておこう。当日杣の人格が現れていても、楓のためにわたあめとクレープを買っておくと俺の携帯電話でメモをとる。
「あー、早く夏祭りが来ないかなー! 花火も打ちあがるんだよね! 私毎年あの花火を楽しみにしてるんだよ! 音が大きくてうるさいのはちょっと嫌だけど、それ以上にきれいな光がみれるのがいいよね!」
楓は少しずつ近づいてくる夏祭りに思いを馳せているようだ。ふと、楓が何か嫌なことを思い出したように少し不機嫌な顔をする。
「あ、でも……夏祭りが終わったら夏休みも終わっちゃうね……まだ遊び足りないなー」
その言葉に、俺はハッとして、杣の言った言葉を思い出す。
『ごめんなさい……多分、彼女は、夏休みが終わる前に、死んでしまう』
杣の言っていることが本当なら、楓はどんなに長く生きても、夏休みが終わる前に、つまり夏祭りが終わる前に、楓は死んでしまう。そう思ったとき、俺の口から自然に言葉が出てきていた。
「なぁ楓……その病気、治せるとしたら、どうする?」
はっとして俺は楓の方を見る。無意識の内に発してしまった言葉。楓は俺の言葉を聞いて、少しの間ぽかんとしていた。しかし、彼女が理解に要するだけの時間が経過すると、
「な、治せるの!? 本当に!?」
期待に満ちた表情で楓は俺を見上げる。ここまできたら、俺は楓に事情を離さないわけにはいかなかった。
「あぁ……まぁ、確実に治せる訳じゃないみたいなんだけど」
その後、俺は弥奈が虹魔法使いであること、その魔法で楓の病気が治せるかもしれないということ、弥奈に会えればすぐに病気を治してくれるであろうことを離した。楓は俺の話を興味深く聞いてくれて、
「ほえー……なんだかすごい話なんだね。それに、弥奈さんが虹魔法使いだったなんて、驚きだよ! 虹魔法使いって、あれでしょ、すごい魔法使い!」
楓は虹魔法使いのつもりなのか魔法使いっぽいポーズをとる。
「まぁ、正しい表現ではあるよな……」
俺は楓の虹魔法使いはすごい魔法使いだという表現に、妙に納得していた。
「そっかぁ……私の病気、治るんだぁ……」
とても嬉しそうな顔をして、楓は神社の階段に腰を下ろす。その幸せそうな表情に、俺も思わず微笑んでしまう。――楓の様子が少しおかしいと気付いたのは、すぐのことだった。
「あ、れ……なんだか、眠く……」
楓は数回くらりと揺れた後、ふらりと階段から倒れ込もうとしていた。
「楓!?」
俺は楓を受け止める。楓はいつものように意識を失ったようだ。……いつもと違うのは、突然意識を失うのではなく、楓がしっかり自分が意識を失うことを認知したということだ。そして、楓の意識が失われたときに表れる杣の人格が、なかなか表れてこない。
「とりあえず、病院に運ばないとな……」
俺は楓を運ぶために彼女を背負おうとする。そのときに感じたひやりとした冷たい感触に、俺は背筋を凍らせる。
「え……、ま、待てよ……そんな……」
夏だというのに、楓の手が冷えている。――考えすぎだ。神社は木に覆われた中にあるため、周囲の気温が少し低くなっている。だから、急な温度変化で手の先が冷えてしまっただけだ、まだ、体の方は温かい。しかしどうしても嫌な予感がぬぐえない俺は、彼女を背負い、病院へ一目散に駆け出して行った。
心なしか次第に温度が下がっていく楓の体に、俺はどんどん不安を覚えていく。ふと、彼女のからだが、ぴく、と動いた。
「楓!?」
俺は楓に声を掛ける。その言葉に、ゆっくりと返事をしたのは、
「――ごめんなさい、楓じゃなくて」
杣、だった。
「わ、悪い、ちょっと色々あって、動転しててな」
俺は杣を背負ったまま、彼女に謝罪する。
「別に、大丈夫。――それに、私は楓の時の記憶があるから、何があったかもわかるし、どうして動揺しているのかも、分かる」
そう言う杣は、どこか迷いを見せたような顔をしていた。
「だから――さよなら」
不意に、杣はそんなことを呟いて、俺の視界から消えた。
「え? ――杣!?」
突然俺の前から去った杣に、俺は動揺を隠せなかった。




