-Chapter43-
どこをどう間違ったのか、俺とゴル先輩のトランプはいつの間にか投げたトランプを交わしあう競技に変わっていた。最初こそ二人で出来るポーカーやスピード、ブラックジャックなんかをしていたはずだが、ゴル先輩にトランプをシャッフルさせた辺りから何かがおかしくなってしまっていた気がする。……そもそもこんな状態になるまで気付かなかったこともおかしいような……ゴル先輩、恐るべし。
「ゴ、ゴル先輩、トランプはそろそろ終わりにしましょう」
俺は無駄だと知りながらゴル先輩にトランプという名の何かをやめさせようとする。しかし彼が耳を貸すはずもなく、
「ふはははは! 見ろ迅よ! これぞとらんぷの真骨頂!」
ゴル先輩は手に持った五枚のトランプをありえない軌道で投げつけてくる。それらはほぼ間違いなく俺の方に飛んでくるので、俺はそれらをかわし続ける。ゴル先輩はきっと深く考えずに投げているのだろうが、本能からなのかその投げたトランプがただのプラスチックであるにも関わらず金属でできたハンガーを切断できるレベルなのだから恐ろしい。唯一の救いは、軌道がとんでもないおかげで俺の方に届くまで十数秒かかるということだ。更にトランプは全て俺の心臓部を狙ってくるので、魔法で自身を強化しておけばかわせないことはない。
「うおぉっ!?」
これで何度目になるか分からないが、俺は三枚のトランプをかわし、残り二枚を両手で叩き壊す。トランプがすでに二十数枚ほどバラバラになっているが、命には代えられないだろう。
「ゴル先輩、そろそろ終わらないと俺が死――」
俺がゴル先輩への説得を再開しようとした直後、後ろで何かの回転する音が聞こえてくる。まさかと思い、俺が振り向いた次の瞬間――。
「ちょまっ!?」
回転して飛んできたトランプが逆回転により突き刺さった場所から抜け出して俺の方へ再び飛んできていた。どうやって投げたらこんな風に飛べるんだ。正直、魔法を使っていなかったら間違いなく死んでいた。――いや、正直ゴル先輩のこういった度を過ぎた攻撃は食らったことがないからよく分からないが。鉄も切れるレベルなら普通に致命傷になりうることが分かるだろう。魔法で九死に一生を得、三枚のトランプがバラバラになって宙を舞う。
「ゴル先輩! いい加減にしてください!」
俺は声を張り上げ、必死で抗議する。
「ぬ? せっかく楽しくなってきたというのに、中止するのか?」
ゴル先輩はかなり不満そうに言う。
「よく考えてください! 俺が何度もトランプを叩き割ったせいで、トランプがもう半分もないんですよ! これではまともにトランプが出来やしない!」
説得の内容がゴル先輩を納得させられるものか確証はなかったが、とにかくこの危険な遊びをやめさせなければならないと、必死で訴える。
「む、むぅ。確かにそれは良くないな。あい分かった! とらんぷはもうやめにするとしよう!」
どこで納得したのかいまいち分からなかったが、ゴル先輩はトランプをやめることを決めてくれたようだ。俺はもう魔法を使わなくて済むと、大きな溜め息と共に魔法を解除する。――その瞬間、俺の右頬を何かが掠めた。
「――では次は花札をしようではないか! 某は花札が大の得意でな!」
ゴル先輩は両手に八枚、トランプを持って構えていた。俺は冷や汗をかき、すぐに命の危険を感じて魔法を再度両手両足に纏った。
空が明らむころ、ゴル先輩はとても満足した様子でぐっすりと眠っていた。なんとなくゴル先輩はいびきが大きそうなイメージがあったが、そんなことはなく、むしろ寝息一つ立てない綺麗な寝方だった。――ただ。
「俺の寝るスペースが全くないんだが……」
ゴル先輩はベッドで寝る習慣があるのか、寝る数瞬前にベッドに飛び込み、すぐに寝付いてしまった。まぁ、いいんだけど。俺はやりきれない思いを抱えながら、眠い目を擦りながら一階に降りる。空が明るいとどうにも寝付くことが出来ない。そろそろ母さんが返ってくる時間帯だし、ゴル先輩のことを話しておいた方がいいのだろう。台所でコーヒーを淹れて、それをゆっくりと飲みながら、母さんが返ってくるまで待つ。暫くすると、リビングから誰かが入ってくる音が聞こえる。
「……あら? 迅、もう起きてたの?」
俺は母さんの言葉に返事を返し、微笑む。今、母さんはきっと疲れているだろうから、ゴル先輩のことは母さんが寝て、起きてから話そう。
「ごめんね、母さんちょっと仕事で疲れてるから、少し寝させてもらうわね」
母さんは申し訳なさそうに言ってから、母さんの部屋に向かった。俺は全然気にしていないのだが、母さんは何度か俺に謝ってきていた。その度に俺は大丈夫と声をかける。
「――母は息子思い、息子は母思い。いい話だね」
そんな声が後ろから聞こえてきたのは、母さんがリビングを立ち去ってすぐのことだった。




