ハッピーエンドのその後で
昔々ある所に、大層お美しいお姫様がおりました。
その美しさもさることながら心も綺麗で優しいお姫様でしたが、ある時傲慢なお妃にその美しさを妬まれて殺されてしまいました。
しかし、お姫様を愛する隣の国の王子様が現れて、そのキスで死の眠りからお姫様を目覚めさせたのです。
美しく優しいお姫様と国民から慕われていた王子様のご婚礼は国を挙げて盛大に祝われ、そんなお二人の馴れ初めは、広く知られることとなりました。
それは国の境を越え、長い時を経て、母から子へ、子から孫へと伝えられました。
そして、その物語が語られるとき、お終いはいつもこの言葉で締めくくられると決まっていました。
ーーーー白雪姫は、王子様といつまでも幸せに暮らしました。
しかしこの言葉が真実ではないということは、今ではもう、誰も知らないことなのです。
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「え……?」
穏やかな春の昼下がり。
紺碧にきらめく湖面は凪いでいて、鮮やかな新緑が目に眩しい。
たわわに実った真っ赤な赤い果実は、つややかな光を放っている。
ーーーーまるで、仲睦まじい2人の愛を象徴するように。
そう、つまり。
今日は絶好の逢引日和というわけである。
最愛の人だった男の城の籠の鳥である私には関係のないことだが。
私は、自分が閉じ込められた城の窓から呆然とその光景を眺めていた。
私がじっと彼らを見つめているとも気づかず、親密さを見せつけるように腕を組んで歩く男女を。
媚びるように男にぴったりと身を寄せる女ーーーー陽光を紡いだような金糸を風に靡かせて軽やかに笑う女に、記憶の中の一枚の絵姿が蘇る。
そこに描かれていた控えめな微笑みを浮かべる貴婦人にそっくりの容姿だが、絵から感じられる雰囲気は正反対と言っても過言ではない。
しかし、遠目からでもわかるあの整った顔立ちと見事な金の髪は、間違えようもない。
(たしか、エドヴァルド侯爵の奥方様……)
社交界の妖精と称される彼女は、確かに美しい。穢れを知らない少女のようなあの風貌と態度には、男はさぞ欲望を覚えることだろう。
とはいえ、もしも本当にその見た目通りの女性だったなら、人の夫を寝とるような真似をする筈もない。
あの屈託のない笑顔の下で、強かな計算を働かせていたのかと思うと、虫唾が走った。
(でも、もっと信じられないのは……)
その女の隣でだらしなく顔をにやけさせた、自分の夫だ。