表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カスタムソルジャーGT  作者: バームクーヘン
第2章 衝撃の決戦
11/11

第11話 流水の魔術師

 その日、マリンカップの会場であるミナミトーキョーマリンパークは活気に満ちていた。大会に出るためにカスタムソルジャーのメンテナンスをしている人や、観戦に来た人達で賑わっていた。

 セイカは辺りをキョロキョロ見回していたが、誰かに肩を叩かれた。振り向くと、そこにはヨルがいた。


「よう、調子はどうだ?」


「ばっちりだぜ」


 セイカは拳を構えて答える。ヨルとはヤマト達との特訓の時も時々一緒になって練習したりもして、お互いの成長は分かっている。


「ヤマトさんを探しているのか?」


「いや、ゆーめー人だからさ。席だけカジオさん達に取って貰って、後で来るんだってよ」


「セイカちゃーん!」


 そこで、突然アヤがセイカに抱きついてきた。それを見て、ヨルはセイカに尋ねる。


「もしかして、こいつを探してたのか」


「いや、違うんだけど……重いっつーの」


 セイカは背中に張り付くアヤを振りほどく、アヤはふくれっ面になるが、ある人物を見つめて驚いた。


「昨日ぶりだな、翼アヤ」


 ライフがアヤに話し掛け、アヤはぺこりと頭を下げる。セイカはライフに何者か尋ねる。


「俺は創造ライフ。そこの嬢ちゃんの母親とちょっとした知り合いでな。お前のことも知っているぞ、暦セイカ。お互いいいファイトをしよう」


 そうして差し出された手を、セイカは軽く握った。そして、ついに目当ての人物をライフの肩ごしに見つけた。ライフの手を離すと、その人物の元へと近づいていく。

 ヨル達が見守る中、セイカはその人物に話し掛けた。


「よっ」


「……来るのは分かっていたよ。暦セイカ」


 レインはジ・オーシャンの整備をしながらセイカの顔を見て答える。


「で、少しは強くなったのか? 拍子抜けさせないで欲しいな」


「お前こそ、誰かに負けたりしてないだろーな」


 その言葉を聞いて、レインはクスクス笑う。


「当たり前だ。レインはこの力に目覚めて以来誰にも負けてない」


「へー、安心したぜ」


 レインは不審に思って思わず整備の手を止める。そして、セイカは握りこぶしを突き出してレインに宣言した。


「俺がお前を初めて泣かせられるってことだからな」


「……フッ、やってみるといい」


 レインは瞳を虹色に輝かせながらセイカを睨みつける。セイカも負けじと不敵に笑ってみせる。

 互いの強い闘志を感じ、二人は心の中で心が踊るのを抑えきれずにいた。




「おらあああああっ!」


 コスモギャラクシーはマシンガンによる銃弾の雨を掻い潜り、ビームブーメランで一閃をドゥルーツのボディに叩き込み、ダウンフェイズさせる。

 セイカは勝利を喜んで思わず拳を突き上げた。これで5連勝、調子は絶好調だった。


「俺、強くなってる……よし、負けらんねぇ」


 ヤマト達の特訓のおかげで強くなれたことを、大会で勝ち抜くことでより強く実感する。こうなるとますます負ける訳にはいかない。

 強くなりたいという願いを叶えてくれたヤマトやキリュウの為にも、勝ってその成果を見せなければならない。そして何より、レインと戦って勝ちたい。

 そう自覚したセイカは、次のファイトに向かって駆け出した。



 それから連勝を重ねて、ついに準決勝までやって来た。トーナメント表を見ると、レインやアヤ、ヨル

も負けていないようだ。


「うっし、オレの次の対戦相手は……」


「私よ」


 突然後ろから声を掛けられた。振り返ると、そこには紫色の長髪を束ねずに垂らし、全身を真っ黒のローブで覆ったまるで魔女のような風貌の女性がいた。

 セイカはどこかで見たことがあるような気がして少し考え込んだ。それを見て、女性は思わず吹き出した。


「七星テントウよ。テレビに結構出てるつもりなんだけどなぁ」


「ああ、何かアイドルがカスタムソルジャーやってるとかいう……そうか、あんたあのげーのー人って奴か」


 セイカはようやくテントウの事を思い出した。そう言えばテレビでよく見かけた気がする。その実力は本物で、凄いものだと感心した覚えもある。


「ちょっと貴女に興味があってね。あのキリュウが鍛えてる子がいるって聞いたから」


「キリュウさんのこと知ってんのか?」


「ええ。キリュウが武者修行していた時に師事した師匠が私のお父さんだった時があってね。年はキリュウの方が上だったけど一応私が兄弟子ってことになってたから」


 テントウは楽しそうに昔の事を語った。それほどキリュウと修行していた時期が楽しかったのだろう。


「じゃあ先に言ってるわ。小さなファイターさん」


 会場へ向かう背中をセイカはジッと見つめた。どんな人が相手であろうと、負ける訳にはいかないのだ。セイカは深呼吸をして呼吸を整えると、会場へ向かって走り出した。




『さあ、いよいよ準決勝第一試合が始まろうとしています! 6ブロックに分かれての試合を勝ち進み、この試合に勝った選手が決勝戦のバトルロイヤルマッチに参加する資格を手にすることができます!』


 アナウンサーの解説が会場に響き渡り、熱気がまた一段と増す。観客席の中で、カジオとアムはセイカの出番を待っていた。


「最近増えたねぇ、バトルロイヤル形式の試合」


「参加者も増えていく一方だし、参加者を増やして且つ試合数を抑える方法がこれなんでしょ」


 アムの説明にカジオは感心する。そうこうしているうちに、セイカが出てきた。



「改めてよろしくね。七星テントウよ」


「暦セイカ。ねーちゃんには悪いけど勝たせてもらうぜ」


 セイカの発言を聞いて、テントウはクスクスと笑う。それは余裕の表れか、セイカの実力を期待してのものなのか。少なくともセイカには判別出来なかった。

 審判の合図が出され、二人は自分の期待を出撃させる。


「コスモギャラクシー!」

「マジシャンズ・ドロップ!」


 二人の機体が雪原フィールドに降り立った。雪原フィールドは、辺り一面に雪が積もっているフィールドだ。天候が不安定で、雨や吹雪が降ったりすることもある。

 そして、テントウの機体のマジシャンズ・ドロップは全身が淡い水色の装甲を纏い、ローブらしきものを纏っている魔術師型の機体だった。マジシャンズ・ブラスターに似たもので、セイカはそれを連想した。


「先手必勝!」


コスモギャラクシーはマジシャンズ・ドロップ目掛けて一直線に走り出す。

マジシャンズ・ドロップは持っている杖から水を撃ちだし、コスモギャラクシーを攻撃する。コスモギャラクシーは繰り出される流水を素早くかわしながらマジシャンズ・ドロップに接近する。


コスモギャラクシーのビームブーメランがマジシャンズ・ドロップの胴に叩き込まれ、更に追撃しようとするが、マジシャンズ・ドロップは杖でビームブーメランを弾いて防御する。


フィールドを駆け回りながら、マジシャンズ・ドロップは水を撃ちだし、コスモギャラクシーはそれをかわしながら攻撃のチャンスを伺う。

そして、隙を見つけたコスモギャラクシーがダッシュした瞬間、何故か転倒してしまった。


「足場が……」


「残念だけど、私に有利なフィールドらしいわね」


マジシャンズ・ドロップの撃ちだした水が、フィールドの雪を溶かしてしまい、足場がでこぼこになっていた。



「だったら!!」


コスモギャラクシーはビームブーメランを分割して両腕に装着すると、ブーストして空へ舞い上がる。そして、空中からマジシャンズ・ドロップに接近しようとした。


しかし、マジシャンズ・ドロップは次々と水を発射してコスモギャラクシーの接近を許さない。やがて水弾の一つがコスモギャラクシーに命中し、地面に落ちてしまう。


「こうなったら……」


次の瞬間、コスモギャラクシーは地面に向かってビームを発射する。雪が一斉に蒸発し、コスモギャラクシーの周囲が水蒸気で覆われてしまう。


(目眩まし……いや、奇襲を掛けるつもりかしら)


マジシャンズ・ドロップは警戒を強める。しかし、暫くしてもコスモギャラクシーが出てこない。

テントウは不審に思い、集中する。その時、何か変な音が微かに聞こえた。


その瞬間、地面の中からコスモギャラクシーが飛び出し、ビームブーメランでマジシャンズ・ドロップを斬りつけた。

更に、続けてビームブーメランを叩きつけ、手のひらのビームをゼロ距離でぶち当ててマジシャンズ・ドロップを吹っ飛ばす。


「まさか、地面を掘り進んで来るなんてね」


「ああ、オレは勝つ。勝って次に進むんだ!」


テントウはそう言って笑うセイカを見て、微笑んだ。


「じゃあ行くわよ。必殺アクション!」


スペリオルアクション≪スネーキングエリクシール≫


マジシャンズ・ドロップは地面に杖を突き立てる。すると、地面に魔方陣が浮かび上がり、そこから水で出来た蛇が大量に現れる。

そして、一斉にコスモギャラクシーに向かって襲い掛かる。


コスモギャラクシーはビームブーメランを装着して空中を飛び回り、蛇を避ける。しかし徐々に追い詰められ、今にも飲み込まれそうになる。


その瞬間、コスモギャラクシーは腕からビームを発射して一瞬で軌道を変えて移動する。以前キリュウと特訓した時に使ったテクニックだ。

 

そのトリッキーな動きを捉えられず、蛇はなかなかコスモギャラクシーに噛みつけない。そして、コスモギャラクシーは急加速でマジシャンズ・ドロップに接近する。


しかし、攻撃はせずに傍を通りすぎるだけで素通りしてしまう。ただ、コスモギャラクシーを追ってきた水蛇がそのままマジシャンズ・ドロップに衝突しようとしてしまう。

マジシャンズ・ドロップは慌てて杖を振り、蛇を消し去る。


「隙あり!」


コスモギャラクシーは左手からビームを発射し、マジシャンズ・ドロップの持っていた杖を弾き飛ばした。


「しまっ……」


「必殺アクション!」


スペリオルアクション≪グロリアス・コメット≫


コスモギャラクシーのビームブーメランが輝く緑色のエネルギーを纏い出し、巨大な刃となる。それを思いっきり振り下ろすと、コスモギャラクシーの背後から大量のビームが発射された。


緑色のビームはでたらめに曲がったりして、マジシャンズ・ドロップを四方八方から襲う。武器を無くしたマジシャンズ・ドロップにこれを防ぐ術はなく、ダウンフェイズを迎えた。



『決まったー! 準決勝第一試合を勝ち抜いたのは、暦セイカ選手だ!』


「よっしゃー!」


ガッツポーズを決め、勝利を喜ぶセイカに、テントウは拍手を贈った。


「おめでとう。決勝も頑張ってね」


そう言って、テントウはその場を去った。

セイカは、コスモギャラクシーを手に取って決勝の事を考える。


「絶対に勝つ。オレ達ならやれるよな、コスモギャラクシー」


まるで闘志を燃やすかのように、コスモギャラクシーの瞳が輝いた。セイカは、ニッと笑って、走り出した。




試合会場を去るテントウを何者かが呼び止めた。


「残念だったな」


「あら、キリュウ」


久しぶりの再会に、テントウは思わず微笑んだ。キリュウはセイカを見ながら話し始める。


「セイカは、俺が思っていた以上に成長してくれた。俺達より下の世代が、俺達が教える以上に成長する……いいこと、だな」


「ええ、本当……小さな、希望に満ちたファイターさんだわ」


走り去っていくセイカを、二人は見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ